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五話①

「ああ、どうも。久しぶりですね、百々代(ももよ)さん」

かおるさん、お久しぶりですっ!」

 冬季休暇、篠ノ井(しののい)家からの迎えに家を出てみれば、少し前まで見慣れた護衛の姿。西条にしじょう家の所有する別荘での一応の身辺警護の一人として同行するのが、川中島かわなかじま薫だ。


「噂は色々聞いてますよ。学舎で頑張っていると」

「はいっ。薫さんから習った事も、迷宮実技で活用できました」

「そうですか、力になれたのなら良かったです。それじゃあ、馬車に。一帆かずほ様がお待ちなんで」

 はーい、と返事を返しては手荷物を預け馬車へと乗り込む。


「お邪魔します」

「自由に掛けてくれ。二日ほどの馬車旅だ、気楽にしてくれて構わない」

「二日もかかるんですね」

「ああ、追加で三日走れば天糸瓜港まで行ける距離だ」

「どんなところか楽しみですっ!」

 走り出した馬車の車窓から移り変わる景色を眺めつつ、他愛のない話をしながら二人は進む。


「一帆様は天糸瓜へちま港に行ったことはあるんですか?」

「あるぞ、何度か。金木犀きんもくせい港よりも大きな場所で、賑わいも何分増しだ。とはいえ同じ島だから、これと言って大きな違いがあるわけではないがな」

「そうなんですか。迷宮管理局に勤めれば天糸瓜島のあちこちに行けるので、島最大の港には興味があったんですけど」

「安心しろ、一度見る分にはこれ以上ないほどの驚きだぞ。百港の二番港と呼ばれるだけはあるからな。詳しい訳では無いが、案内くらいしてやろう」

「ありがとうございます!」

「まあ、天糸瓜港大劇場くらいだがな。知ってるの」

「一帆様って観劇が好きなんですか?」

「それなりにな。姨捨おばすて古永ふるながを題材とした演劇はとりあえず足を運ぶようにしている」

「姨捨古永、…前のは残念でしたね」

「公演が決まったら連れてってやる天糸瓜大魔宮踏破の英雄譚は何度見ても良い、あれこそ英雄譚呼ぶべきものだからな」

「天糸瓜大魔宮の首魁しゅかい千生竜せんせいりゅうの討伐。かっこいいですよねっ!」

「ああ、魔宮から這い出る魔獣から民を守るため立ち上がり、その生涯を捧げた英雄だ。俺が魔法師に、迷宮管理局に進みたいと思った起源がそこにあるんだ」

「誰かのために戦う英雄ヒーロー、わたしも憧れますっ!よしみ先生に姨捨古永様の御本を頂いて、読んだときには震えました。こっちにもヒーローはいるんだって」

 なんだかんだ二人は似た者同士で、目指す場所も根源も同じところにあるのだ。


「百々代の好きであった、前世の英雄ヒーローとはどんなものなのだ?」

「あちらには迷宮と呼べるものはなく、人族が悪性と定めた相手と戦う善性の者で、神族の加護を受けた存在を指して勇者ゆうしゃ と呼ばれていました。悪とされるものは龍、魔獣、魔王、あとは人に仇なす人の集団です」

「港防省に近いのだな」

「こちらの感覚だと港防省でいいですね。それで彼ら彼女らを称え紡ぐ物語が、漫画マンガや小説、映像エイゾウ英雄劇ヒーローショーなどで多くの人に、主に男子に親しまれていまして。瞳の力を使って人の姿を真似て、映写器エイシャキから流れる映像を初めて見た時の驚きは筆舌に尽くし難いもので、店先に座って閉店まで見てましたっ」

(わからん言葉が増えてきたな)

 それからローカローカは人の文化を学び始め、定期的に人の街へ降りては根城で見つかる人族が金に変えてくれる品を換金し、どっぷりと沼に浸かっていったのだ。


「本っ当に無害な存在だな」

「わたしは学んでいましたから、人の物を奪ったり人を脅かすと倒されると」

「まあそれもそうか」

「凄いんですよっ、ヒーローは!生で見たことはありませんが、合体する大きな鎧、学舎二つ分はあろう高さのある大鎧を複数人で操ったり、人の身を巨大化させて同じくらいの大きさになったりで、巨大な大魔獣を倒すんです!てっきり、わたしが戦った勇者ゆうしゃもそういう戦い方で、二町《220メートル》もある当時のわたしを倒すとばかり思っていたので、人の姿のままで倒されて残念でした…。きっと力不足だったんですね」

「…完全に理解の範疇を超えている。本当になんで倒されたんだ…」

「詳しくはありませんが人が悪と認定している対象だからですね、龍族は。他の龍が色々と暴れまわったのでしょう、会ったことがないので知りませんが。…迷宮から魔獣、魔物が現れれば倒すじゃないですか、有害無害に関わらずそういうことかと」

 龍、とは暴虐を司る悪性の存在。ローカローカは中立性だったというだけで、暴虐は確実に備えていた。縄張りに進行する魔獣に対して大暴れするくらいには。


「それもそうか。…然し天を衝く大鎧に巨大化する者、とんでもない魔法技術なのだな」

「一帆様にも映像を見てもらいたいですよ、残念な限りです」

「まあ残念に思っておこう」

 ふっと息を吐きだし、二人は一旦落ち着いてから馬車旅を楽しむのであった。


―――


「がんばれー!カラテレッド!」

「負けるな―!ハッキョクブルー!」

 ヒーローショーにて声援を送る子どもたちに混じって、明らかに成人した女が一人楽しげに応援をしている。銀と青の瞳を持つ少しばかり不思議な見た目をした者だ。

 捨て台詞を吐き出して幕下に逃げ去る魔王を目に、ニコニコと笑みを浮かべては拍手をしヒーローたちを送り出せば観劇は終わりを告げて、子どもたちが親に連れられて三々五々と散っていく。


「ねえ!お姉さんもヒーロー好きなの!?」

「うん!そうだよ、見てるとワクワクしてきてねっ!」

「大人のお姉さんなのにわかってるじゃん!誰が好きなの、僕はカラテレッド!黒帯しめて勇気百万倍!」

「わたしはハッキョクブルーだね!孤高な雰囲気だけどいざとなると仲間のために本気で戦う熱い心が格好いいの!」

 親はまだ迎えに来ないようなので、少年と女は楽しげにヒーローについて語り合う。


「ヒーローを語り合った君はわたしの仲間だ、カラテレッドのレアカードをあげよう!…えへへ、実は被っちゃって」

「いいの?!ありがとう!あっお母さん来たから帰るね!また一緒に見ようよ!」

「うん!また会おう!」

 友情を確かめあった二人は手を振り別れていく。


(ああいうのが友達っていうのかな?またあったらお話ししたいなぁ)

 ニマニマと笑みを浮かべた女は、懐の金子きんすと相談し宝物の収集へと玩具屋へと足を向ける。

 何日かして、ヒーローショーに足を運んだ女は、彼の少年を見つけては隣に腰を下ろす。


「また会ったね!」

「あっ!お姉さん!へへ、来ると思ってたよ!なんたって今日は」

「ゲストヒーローが来るんだよね!」

「そう!僕ね――」

 心底楽しげに笑い合いながら観劇しているとき、


「見つけたぞ、八眼はちめ百足ひゃくあし二町龍にちょうりゅうローカローカ」

 人間が勝手につけた名前を聞き、振り返ろうとした瞬間にローカローカの背は剣によって切り裂かれた。


(うぇへ勇者ゆうしゃ!?そっか、わたしを倒しに来たんだ!でも、この場所は)

「楽しかったよ、…少年。……ふははは、勇者共よ!よくぞわた…我を見破ったな!この様な狭き場所では思う存分戦えないであろう、街の外へ来い、正々堂々戦おう」

 青い瞳が黄色く変わり、身体を浮かせたかと思えば銀の瞳に力が満ちて龍の巨躯が空を覆う。


「正々堂々?下らん。悪しき暴虐の化身たる龍族がそんなことするはずなかろう、ここで終わらせるッ!」

(…。演者や観客が壊れるのは嫌だ)

「臆病な勇者よ、死地にも飛び込めないとはな。人とはこうも、弱い」

 八つ並ぶ瞳の一つ、金の瞳で迫りくる魔法を壊し悠々とローカローカは郊外へと飛び去っていく。


「…お姉さん」

 少年はローカローカからもらったカードを手に、飛び去る彼女を、そして勇者を目にへたり込んでいた。

 それから十日十晩続いた激戦の末に、禁足地に住まう八眼百足の二町龍ローカローカは勇者一行に討ち取られたのだった。

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