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二九話⑥

「高い背丈に空いてるのか分かんない目。ようやく見つけたよ、あんたが『小雷龍しょうらいりゅう』の百々代(ももよ)だろう?」

 迷宮疑似決壊事件から数日。雪の舞い降りる寒天の中、街の復旧作業に参加していた百々代の許へ体格の良い女性が一人やってきた。

「はい、巡回官の篠ノ井百々代ですっ。えっと…どちら様でしょうか?」

「私達は伊那いな隊。単刀直入だけどさ、先日の魔物襲撃の際にあんたの隊で声を伝達できる成形獣を使っていただろう?それが欲しくってさあ、どうだろう売ってはくれないだろうか?金子に糸目を付けり心算はないよ」

探啼たんていですか。確か、予備があるので販売は問題ありませんが、前提ととして鳥系の成形獣を使用できる必要があるのと、多機能化に因る操作の複雑化が起こっています。一旦、試用を行って問題なく運用できる場合に限っての販売となりますが問題ありませんか?」

「構わないよ」

「わかりました。それと現在、工房での生産は行っていない自主制作の品なので、故障による損益の保証が出来ませんし、修理や買い替えにはわたしたち篠ノ井隊を探していただくことになります。そちらも大丈夫でしょうか?」

「ああ、いいさ!然し…あんな便利そうな品を量産していないというのは、素材に難でもあったりするのかい?答え難い内容なら黙秘で構わないのだけども」

「鳥系の成形獣は扱いが難しい、というのが一般的な考えじゃないですか。量産への優位性が確保されていなくて」

「そうか…そうだね。ウチでも使用できるのは一人っきりだしそんなもんなのかね」

「一応のこと莢研へは資料を通していますので、もしかしたら暫くして一般化するかもしれませんね。…それでは一旦宿に向かいましょうか、こっちの作業も区切りがついたので」

「話が早くて助かるよ、『小雷龍』の百々代」

(通り名…栄誉なんだけども恥ずかしいかも)

 恥ずかしがりながら百々代は伊那隊の面々を案内していく。


「こちらが探啼、発声及び信号弾搭載型の鳥型成形獣です…、これ最近作ったやつだよね?」

「ああ、そうなるな。閃光弾付きのだ」

 ふふん、と胸を張るのははやて。どうせならと最新鋭のものを販売に持ってきたのだ。

「照明弾に加えて、本来の成形獣の機能である視覚同調も備えていますし、偵察や哨戒から伝令等様々こなせる魔法莢となってますっ」

「その分、扱える者は限られるのだがな」

「こちらは共同開発者の篠ノ井颯です」

「クックック、黒姫工房の長を務めている黒姫の叡智だ」

 尊大な態度の颯に対して伊那隊の面々は恭しく挨拶を行い、隊員の一人が魔法莢を受け取れる。

「とりあえずで使用できるかどうか試してみましょうっ」

「わかりましたー、それじゃあ。起動。探啼」

 起動句とともに現れるのは見慣れた軍艦鳥。飛び立つ前に成形体を動かしては「なるほど…」と独り言ちて、発声や翼を動かしての動作確認を行う。

「「問題ないから、飛んでみますー」」

 本人と探啼の双方から声が出て、若干の気持ち悪さを覚えた伊那隊の面々であるが、確かに問題なく発声が動作していることを確認し頷いて飛翔を待つ。バサッと大きな翼を広げては大地を蹴り跳び、慣れた動きで羽撃いては大空を悠々と舞い、信号弾や発声、視覚同調を試すも十分に使用できており、隊長が購入を決定した。

「買いだ!さあ、この探啼とやら、いくらになるんだい?」

「そうだな、一〇〇〇()、いやちとばかしおまけして八〇〇賈でどうだろうか?」

「買った!こんな便利な品だ、二〇〇〇やら二五〇〇やらふっかけられる覚悟で来ていたから、八〇〇賈なんて安いもんだよ」

「黒姫はぼったくるような工房ではないのだがな。使用感の報告を黒姫工房に送りつけてくれるのであれば、もし仮に今後正式に生産体制へ移った時に優先的に販売することが可能だ。気が向いたら報告書を認めてくれ」

「へぇ。そういうのは任せっきりになるけど、この子のことだ報告書くらい書き上げで送りつけるさ。楽しみにしといとくれ」

「それはなにより」

「ところで、他にも魔法莢の販売なんかしているのかい?」

 伊那隊は百々代と颯から予備や試験用魔法莢の話しを聞いていはいくつか試用し、擲槍等の細かな調整が成された最新汎用魔法莢を購入していったのだとか。


「魔法莢の買付か。そういえばそんな事を言っている巡回官がいたな」

 話しを直接聞いた張本人、一帆は百々代たちから出来事の顛末を聞くまで忘れていたのだが、悪びれる風もなく食事を口にする。

「数日の足止めをくらった鉄線街だが大まかな復旧も終わり、天糸瓜本所とも連絡が取れた。後は本所で引き継いでくれるみたいだから、俺達は天糸瓜港へと向かおうと思う」

「りょうかーい。フーリやチャーは網にかかった?」

「いいや」「全然です」「駄目ですわね」「痕跡もないよ」

 篠ノ井隊の探啼を使用できる四人は、数日の間上空から魔王族兄妹の行方を浚っていたのだが、結果は芳しくない、どころか皆無。

「わたしがもうちょっとしっかりと見れていれば、方角くらいはわかったんだろうけども…」

「無理なものは仕方ないだろう。時間を掛けてでも行方を探り確実に叩き潰す、それが俺たち篠ノ井隊の暫くの目標となる」

「チャーは兎も角として、フーリは魔物を取り込むことで自身から生成できる魔法を使用できる」

「なら迷宮を中心に活動するだろうから、迷管に情報を集めてもらわないとね」

「ああ。迷宮以外に魔物魔獣なんぞ存在しないからな」

「本当に驚き頻りな世界だよ。あっちには野良の魔物もそこそこにいたからね」

 安全で良い世界だ、と利市りいちは沁み沁み語る。

「そうなんですか?わたしが山にいたころは全く見かけませんでしたが」

「そりゃあ龍の縄張りだったからね。長くあの地にローカローカがいたことで、魔物が入り込む余地なんてなかったのだろう。その影響で、麓は魔物被害なく過ごせていたのだけど…」

 縄張りを侵されそうになり、大暴れをしたことを思い出した百々代と蘢佳は思い出し、「なるほど」と納得をした。

「なんにせよ、厄介な魔王族とやらを倒すため。天糸瓜港で準備を整えるとしよう」

 一同は一帆の言葉に同意して、食事を再開する。

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