二九話⑤
時は少し遡り、蘢佳と合流をした一帆たち一行。
「戦闘についてだが市街地戦を行うに当たって、周囲の被害を考えると三人の対魔物魔獣用の魔法は使用できない。擲槍なり、小規模の周囲への被害が少ない方法での対処が求められる」
「それで被害が拡大したら意味がないのではありませんの?」
「拡大させずに最小被害で鎮圧をするんだ。幸い百々代が迷宮管理区画へと向かっている、故に相手の数は有限となるはず」
「素人質問なのだが、ならば百々代さんをこちらに呼んで、向こう側に殲滅用の面々を送ったほうが良かったのではないかい?」
「足も速くカタナと徒手空拳での戦闘を主としているだろう?」と利市は付け加えて。
「機動力のある百々代で、発生源を制圧できる方が先決だ。それに百々代も百々代で市街地戦では全力が出せんからな」
出した結果を後に知ることになるのだが。
「そうか。魔物魔獣の相手を迷宮内で、迷宮管理局以外の者が行うには何かと手間が掛かるということだが、ここは迷宮外だ。私も戦列に加わっても問題ないのだろうか。まあそのつもりで引っ付いてきたのだけども」
「成形武装一本で戦える利市には役に立ってもらう」
「よかったよ、他人の役に立てるようで」
「百々代から聞き得た情報から鑑みるに、木人及びその内部の本体は迷宮外に存在して良い様な存在ではない。一匹残らず狩り潰す、いいな?」
篠ノ井隊の各々は気合の籠もった返事をして、装備を整えていく。
そろそろ出ようかという頃合いに、港防省所属の警務局の警務官も方々で対処をし始め、篠ノ井隊と同じく偶然居合わせた巡回官も戦闘を開始していた。
「あちこちで木人の対処を始めているか。なら俺が探啼を飛ばしつつ情報の伝達を行い、後に合流を行う。四人は先に対処を行っていてくれ」
「委細承知」「バレ!」「承知しました」「承知しかしたわ!」
駆け出す四人を見届けて一帆は探啼を飛ばし、戦闘を行っている巡回官と思しき集団の近くへと舞い降りる。
「そちらは巡回官か」
「ん?ああ、そうですが。えっと、」
「こっちだこっち」
「おおぉ?成形獣が喋ってますよ皆さん」
「ちょっとそれどころじゃないんだけども!」
「忙しそうだから手短に伝える。現在戦闘中の木人は、内部に一尺ほどの天牛虫が潜んでおり、木を纏って戦闘を行っている。木人の方を壊しても、本体の対処を終えなければ再び樹木に入り込み新たな身体を得る。確実に中身を仕留めていくれ」
「はーい、分かりました。ありがとうございます成形獣さん」
「ちょっと!飛び立つ前に!その便利な成形獣は何処で取り扱ってるんだい!?」
「これは試験型だったか。…俺はよくわからんから戦闘後に訪ねてきてくれ、こちらは篠ノ井隊の篠ノ井一帆、この成形獣は妻が作り出した物だ。ではな」
バサリと羽撃いて一帆は次の目的地へと向かう。
「隊長ー、篠ノ井隊って『小雷龍』のところですよね?」
「おっしゃ、サッササッサで片付けて黒姫工房の最新魔法を買い付けに行くぞ!」
「「「おー!」」」
そんなこんなでいくつかの面々に相手の情報を伝達し、一帆自身も移動をしながら全体の状況を掌握していれば、巡回官も警務官も順調に木人処理をしていき、相手の数は急速に減っていく。
「順調か?」
四人に合流すれば、陽茉梨と勝永と利市が近接戦闘で木人を破壊し、中から飛び出してきた天牛虫を蘢佳が石火砲で対処している現場であった。
「問題ありませんわ。ふぅ…普段よりも動きますし、ちょっと衣服が適していないので不便ですが、私、いや私たちに掛かれば余裕ですわ!おほほ」
「それはいいが、」
一帆は月の涙杖を振るい氷矢を展開し、今まさに樹木へ入ろうとしていた天牛虫を射殺し、肩を竦めていた。
「見逃しには気をつけるようにな」
「はい…」
「情報の伝達が終わり、方々での動きも良くなり鎮圧に向かっている。さっさと片付けて百々代合流するぞ」
――――!!!
轟音と共に無数の雷が管理区画内部から溢れ出て、利市を除く篠ノ井隊の面々は何が起きたかを悟る。
「なんだ今のは!?青天の霹靂か!?」
「件の百々代の本気だ、木人相手に本気を出すとは思えないが」
(全力を出すほどの相手がいたか、人的被害を目にして辺り構わず攻撃したか、何にせよ急いで合流したほうがいいのだが…)
「先ずは相手の殲滅をし、状況の鎮圧を優先する。最速で終わらせるぞ!」
五人は鉄線街を駆け巡り、木人と天牛虫を処理していく。
「これで終わり。…アレは、百々代か」
探啼で木人が残っていないかを確認していた一帆は、足を失った負傷者を背負って医院へと向かう百々代を発見する。高度をと速度を落としては隣り合うように滑空し、彼女に停止を促した。
「状況はどうだった百々代、雷纏鎧の制限を取っ払っていたようだが」
「フーリがいて魔物を生み出していたみたい。その、頭に血が登って雷迎電辿を使ったけれど、被害は管理区画の建物だけで済んでるよ」
「了解した。管理区画には未だ負傷者がいるか?」
「うん。向かってもらえる?」
「ああ、今すぐに向かおう。ではまた後でな」
「また後で」
会話を終えれば百々代は走り出し、一帆は探啼を解除する。
「管理区画にいって負傷者の保護と護送を行うぞ」
篠ノ井隊の面々は頷いて、急ぎ管理区画へと向かう。
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