二九話④
身につけていた迷宮遺物、雄雅の効果により反動からの復帰が早かった百々代は、木人と本体たる天牛虫を処理し終え、半ば崩壊した迷宮管理区画の内部を浚っていく。
(人と思しき部位は五つ。腕が三本に、足が一本、そして潰されてるけど手脚のどちらかと思えるのが一つ。…これは、木人でも天牛虫でもない、獣系の魔物魔獣の死骸…、未だ何処かで生きている可能性がある?)
「すぅー、何処かに迷宮管理局員さんか職員さんはいらっしゃいませんかー!!??」
返事と思われる音が耳に届くことはなく、獣系の魔物魔獣、若しくはフーリに喰われてしまったのかと、百々代は再び気落ちするのだが、迷宮門付近で戦闘及び被害の痕跡が多いことを発見する。
(……。血痕が迷宮門に続いている?中から出てきたのか、中に入っていったのか。単独での迷宮潜行は褒められた事じゃないけど、可能性があって被害者がいるかもしれないならっ)
百々代は単身、迷宮へと潜行していった。
迷宮門を潜り、降り立ったのはゴツゴツとした岩地が広がっている岩沙漠。そう、一帯が岩と砂ばかりであれほどの木人を用意できるほどの樹木は見当たらない。
チリチリと肌を焼く眩い陽射し受けつつも、地面に残る血痕や人の痕跡などを頼りに百々代は沙漠を駆ける。
(大きめの痕跡と消えた血痕。戦闘跡はみられないから、魔法を用いて治癒したのかな。なら、未だ間に合うかもしれないっ)
八半時も進めば反り上がった岩地があり、十数名程の負傷者が日陰で休息を取っていた。
「大丈夫ですか!?」
「おっ?おお!?」「まさか救援が来てくれたのか!」「よかったぁー!」
緊張の面持ちをしていた一同は、安堵の顔色を表しては喜んでいる。
「迷宮管理局員さん、ですよね?」
「ああ、巡回官と防衛官、計二〇人だ。あんたは、…見ない顔だが港防の軍人とかか?」
「いえ、通りすがりの巡回官です。鉄線街の木人を処理しつつ半らで迷宮管理区画に向かい、痕跡を頼りにしここまで辿り着きました」
「街にも?門扉は破壊した筈だが」
「アレらは外に出る手段を持っていまして…」
「そうか…」
「皆さんは無事…とは言えない状況ですね。とりあえず外に出て負傷者は医院に向かいましょう」
「ああ、手を貸してもらえるか?」
「任せてくださいっ。起動。成形兵装武狼。二人までならわたしとこちらの成形獣で背負えますので」
(よかった。本当に……)
全滅したわけではないことに安堵し、百々代は沙漠を駆け抜けていく。
迷宮管理局員が外の状況を目撃した時、一同はポカンと口を開け、間違った場所に出てきてしまったのではないかと自身の目を疑っていた。
「すみません、実は半分くらいはわたしが壊してしまって」
辺り一面に転がる瓦礫と木人の残骸、そして天牛虫の死骸。これらを一人で熟した百々代は如何な巡回官なのか、彼らは思想する。
「そういえば職員さんは逃げられたのでしょうか?」
「あ、ああ。門扉を破壊する直前に逃げてもらった。…、なんだかよくわかんない、流暢に言葉を話す魔物が迷宮から出てきたと思ったら、木人を大量に出してきやがって…最初は対処できてたんだが数に圧されてな。獣が織り交ぜられて、被害が大きくなったのは機に迷宮内に逃げ込んだってわけだ」
「あの話す魔物は迷宮内から出てきたのですか?」
「ああ、そうだ。最初はもう一匹いたんだが、直ぐ様どっかに飛んでいったな。魔物魔獣を生み出す魔物は処理出来たのか?」
「…恥ずかしながら逃げられてしました」
「そうか。厄介そうだもんな、はぁ…どうしたもんかなぁ」
チャーとフーリの魔王族が世に放たれ、岩沙漠迷宮の管理区画は壊滅。巡回官と防衛官の一同は、天糸瓜本所へどう報告するかと頭を抱えていた。
「ところで迷宮管理に関してなんですが、この迷宮の首魁再胎周期とかは大丈夫でしょうか?壊滅させてしまったので、人手が必要であれば協力したいのですが…」
「それなら問題ありませんよ、先日終わったばかりなので。元来人通りの多い街なので巡回官も多くが足を運んでくれます。無料宿として短期間だけ魔物魔獣処理をしてもくれますし」
「俺らもその口だったしな」
(やっぱり宿目当ての巡回官も多いんだ)
「事態が事態だし、魔物犇めく管理区画を掃除してくれたあんたが罪に問われることはない。もっというならお咎めもないだろうな。俺たちを救ったと胸を張ってくれや。街の方も対処してくれたんだろう?」
「は、はいっ。わたしは街を半らで済ませてしまいましたが、仲間が対処してくれているので問題ないと思いますよっ」
「あんた程の実力者が組んでいるんだ、そうとうなんだろうな。…そういや名前を聞いてなかったな、通りすがりの巡回官殿」
「そういえばそうでした。わたしは金木犀伯爵家の篠ノ井百々代、篠ノ井隊の一員です」
「金木犀の篠ノ井、…っていうと『小雷龍』の百々代か!焦雷龍を退けて、風嶺龍を討伐したっていう昨今話題の!」
「それなら納得ですねぇ」「我々は本当に運が良かったのかもしれません」「三天の魚は日頃の行いを見てくれてるのかもしれねえな!」
わいわいがやがや。負傷しているはずの巡回官防衛官一同は喧々囂々と賑やかしくなっていき、仰々しい通り名に百々代は頬を染めてタジタジとするのであった。
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