二九話②
一泊するために立ち寄った場所は鉄線街。天糸瓜領の中程に位置した、いくつかの街道の中継地点で、多くの宿場が賑わう街模様である。
「大所帯だし大きめの宿が取れるといいんだけど」
「ある程度の目処は立っていますので、順々に巡ってみましょうか。夕暮れには幾分かの猶予がありますし」
「わかりました。それじゃあ先導をお願いしますねっ」
パタパタと莢動車へ戻って魔法莢を起動したことを虎丞は確認し、鐙を踏み込んで前進する。それなりに人と馬車の流れが多く、進行に時間が掛かってしまったものの、一軒目の宿屋へと到着した。
虎丞が宿屋に入り、そこそこの時間が経過した頃。出てきた彼は「宿を取れなかった」と百々代へ合図を送り、次へと向かっていく。
「駄目だったみたいだね」
「結構な大所帯となっていますから仕方ありません。最低でも大部屋が三部屋必要になるのですから」
篠ノ井夫妻、男衆、女衆で三部屋。事前の予約無しに取るのは難しい数である。
「利市さんの市民登録を終えてれば、数日くらい迷宮管理区画に滞在しちゃうんだけどね」
「荒業ですね」
「然し時期が悪かったか」
「?。何かあるんですの?」
「市井では冬流祭が起こると冬の蓄えを買い足しに、村や宿場町から人がやって来るんだ」
「そうなんですのね」「天糸瓜領ではそういう感じなんだ」
颯の説明を証明するように道行く人の中に、多くの荷物を担いでいる姿が見受けられる。
「金木犀でば違うのか?」
「あんまりそういうのはないかも。降雪量も多くないからね」
「天糸瓜島北部の習わしなんですよ、これは。私の実家も冬流祭の後に買い出しへ出ていましたから」
同じ島内でも場所が違えば文化も違う、そんなことを学びながら一同は遅々と進んでいく。
二軒目も空きがなく三軒目に向かう途中、一方向から多くの人が押し寄せてきては、一目散に走り去っていく。何があったのかと青い瞳を晒して確認すれば、遠方で体長が二間はあろう樹木の人型が暴れているではないか。
「真由さんっ!運転変わってもらえますか?!魔物魔獣です!」
「畏まりました」
「陽茉梨さん、颯と真由さんをお願い。わたしは単身で向かうから、一帆と合流して動き方を決めて」
「承知しましたわ!起動。探啼」
窓を外した百々代はするりと身体を外に出し、雷纏鎧と肉体強化、尾装を展開しては建物の屋根へと飛び乗って現場へ急行する。
零距離擲槍で砕ける屋根には悪いと思うも、危機に陥っている民の救助を最優先に全力疾走し。
「うわぉあああ!!」
殴り飛ばされた住民の一人を助けるべく浮き渡る黄で空宙を移動しては、抱きかかえ少しばかり移動しては地面に下ろす。
「外傷は、…見当たりませんが打撲や内出血があるかもしれません。攻撃を受けてしまったと医務官に伝えてもらえれば、治癒魔法を受けれますので」
「へっ?」
「起動。成形兵装武狼。数打『蜉蝣翅』」
刀を持った一人と一基は木人へと向き直る。
(数はそこそこいるし、向かってくる方角的に考えて管理区画のある方面。…、もしかしなくても氾濫だ)
ギギギ、と鈍い音を立てて動き出した木人は、百々代を圧し潰すべく腕を振り上げては勢いよく振り下ろすは、威力のありそうな一撃。だが命中させるには遅すぎる攻撃だ、軽々と躱してから武狼が脚部、百々代が胴を斬り裂いては地面に転がす。
(ここで防衛戦を敷いたほうがいいかな、……見た感じ戦闘をしている防衛官や巡回官が見当たらない。半らで倒して管理区画に乗り込んだほうがよさそうだね)
次へと向かおうとした瞬間、地面に転がっていた木人からギギギと音がして、視線を下ろした瞬間に腕部が矢鱈滅多に振り回され、百々代は防御姿勢を取り。
「雷放」
雷纏鎧の制限を取っ払い足を浮かせた。
防げないほどの威力はなさそうではあるが敵の数が多いため、より自身への負担が少ない守り方をしたのである。攻撃で吹き飛ばされた百々代は、雷を放ちながら空宙で尾装を操り姿勢の制御を行い、建物へと突っ込まないよう限々の着地を行っては武狼で頭部を切り落とす。
ギギ、ギギギ。胴を真っ二つに、そして頭を落とされた木人は尚も音を立てながら動いており不気味な様相を呈しており、百々代は自身と武狼を用いて両の腕を切り落としてから、次に迫りきた相手の対処を行う。
動きは俊敏と言えないほどの相手だが、今の一匹を鑑みるに胴や頭部を斬るだけでは有効打足り得ない可能性が高いので、百々代は武狼と共に先ずは脚を斬り、移動をできない状態へと落しては腕部を。と的確な処理をしていった。
(腕や脚、頭部の胴体から切り離した部位は動かずに停止している。…胴体に何かある感じかな?)
最初に倒した一匹目を確認すれば上半身のみが動いており、断面には小さな穴が一つ。
(反対側にも…穴は有るけど位置が違う。…、切った後に出来た穴かな?)
疑問を覚えた百々代は、穴の位置と合うように縦真っ二つに蜉蝣翅で両断してみれば、大きさ一尺《30センチ》弱の天牛虫の死骸が出来上がっている。
(これが本体、ってことだよね。…手脚を落してから後処理するほうが効率的かもね)
と、未だ未だ侵攻を続ける木人へ視線を戻した瞬間に視界の端を天牛虫が翔んでいき、木を刳り貫いては中へと潜り込み木人へと変容させてしまった。
(…。放置も出来ないと)
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