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二九話①

「雪が降ってきたか」

鼠色ねずみいろの空でしたから、初雪も時間の問題でしたね」

冬流祭とうりゅうさいの備えは家鞄かほうにあるか?」

「ええ、勿論。そろそろ時期だと思っていましたので」

 現在は舞冬季ぶとうき莢動車きょうどうしゃ天糸瓜へちま港へと向かう篠ノ井(しののい)一行は、舞い降りる今年初の雪を目にしては車輌を停めて、川へと足を向ける。

「トウリュウサイ、というのは百港国ひゃっこうこくの伝統行事だろうか?」

「ああ、そんなところだ。二島一群島、つまり百港を構成する島全てで大昔より行われている祭りだ。万物は海よりいでて海へ還る、根源たる海へと感謝を伝えるために蜜蝋みるとうと豆を船に乗せて川へ流す、それが冬流祭だ」

三天魚さんてんぎょ様に関連する祭りという認識でもいいのかい?」

「それで問題ない」

「ならば私も参加しよう。郷に入っては郷に従う、仕える先が違えどもこの土地で世話になるのから、信仰の対象へ礼と儀を払わねば」

「異国の民にしてはまともな思考だな」

「その口振りだと他信仰との宗教戦争の経験があるのかい?」

「昔に海の向こうとな。だから利市おまえを百港の民として偽る必要がある」

「なるほど。ならば教典などを読み込んでおく必要がありそうだが、貸してもらえるだろうか?」

「キョウテン?なんだそれは」

主上(仕える主)から贈られた、人が人足り得る模範の文言だ」

主上(国王)から?なんで王族と信仰が関係あるんだ?」

「「???」」

 一帆かずほ利市りいちの間に発生した常識の齟齬そごに、二人は小さく頭を悩ませて情報を噛み合わせていく。

「信仰をするために必要な、日常的に必要な行いや戒め等を纏めた本といえば伝わるだろうか」

「そんなものはない。海を汚さないよう気を使ったり、川岸や海岸にごみが流れ着いていれば拾う程度だ」

(かなり簡素な。信仰ではあるが宗教でないのか)

(原始神族の創星神信仰に近い感じね。人族の誕生や私が生まれる頃には既に宗教体系が出来上がっていたから、教典おしえがないのはわからない感覚よね)

(そもそも神という存在に対する認識も異なっているみたいだから、確かな足並みで学んでいかなくては)

(そうね!)

 篠ノ井一行が川の畔へと歩いていき、蜜蝋と豆を小舟に乗せて流していけば、少し離れた街の方面でもポツポツと灯りが見え始めて、利市と理愛の二人は綺麗な光景だと微笑みを零す。


 一帆の運転する莢動車に揺られながら、後方に付いてくる百々代(ももよ)たち女性陣の車輌へ利市は視線を向け、人として生きていけているのだと実感させられる。

(数億数十億と創星の時よりの永い時を別の存在として過ごしてきた者が、こうも馴染めているとは驚きだ)

(神族が人族へ転生した場合は、その辺りを苦労しているみたいだからね)

(神告さえあれば神族の方で迎え入れているが…)

(人生七〇年。余りの短さに絶望する者も多いよ、本当に)

(…思い残す事もなく世を去った、そう思っていいのだろうか)

(聞き難い話題、になるよね。特に蘢佳ろかさんの方は百々代さんと比べると、私達を避けてる節があるし)

(叱られた時は凹んだよ)

 心の内で利市と理愛が会話をしていれば、隣に座している勝永が話したそうにしており、どうぞと会話を促す。

「全盛期の利市さんははどれ程の強さだったのですか?」

「どれ程、か。仲間の協力込みではあるが、二町(220メートル)もの巨躯をした大龍と渡り合えたくらいだろうか。後にも先にも、最大の強敵は彼女だったよ」

「アレによく勝てたものだな。金の瞳もあったのだろうし、人になって力が弱まったとも聞く」

「私と仲間には使わず、武具防具や魔法に対してのみ使用していたとのことだ。態々戦場を移して周囲の被害を抑えようとしたり、…手加減をされていた、当時の私が聞けば憤怒していただろうね」

「百々代らしいといえばらしい、…蘢佳でも同じ事をしそうではあるな」

「なるほど…?」

「勝永にわかりやすく伝えるとすれば、天閣楼迷宮の蜈錆ごしょうを更に強くしたよな相手ということだ」

 百々代の力を持った大蜈錆を想像した勝永は、げんなりとした表情を露わにして状況を飲み込んでいく。

「ダイゴショウというのは?」

「長さが二町もある蜈蚣むかでだ。全身に錆をまとって、護りも無しに近づけば錆粉で肺を潰され、一部の魔法に、炎や雷に反応して火花や発火もする。空は飛ばんし、瞳の力もないぞ」

「迷宮の首魁というやつかい?」

「ああ、そうだ」

「そういった相手が定期的に現れるとは、中々に難儀な世界だね…」

「お陰様で迷宮管理局は年柄年中人手不足だ、役に立ってもらうぞ利市」

「任せてほしい。剣を振るう仕事であれば、私ほど適した者はいないだろうからね」

 頼りにする、という言葉を呑み込んで、一帆は運転に集中し直す。

(こっちの世界はほぼすべての人が魔法を使用できるみたいだし、独特の戦闘様式がある。ダンジョン、此方でいう迷宮があちらよりも数多く存在して、資源利用していることが理由なんだけど…チャーとフーリも運がないよね)

(此方では今までのように行動するのは難しいだろうね)

(大人しくしてくれればいいけど、無理よね…)

(難しい…と思う。そして、迷宮には魔物魔獣が多く存在していることを考慮すると、フーリの魔法が厄介になりかねないから、早めに対処したいな)

(私もセイケイタイっていう身体を用意してもらわないとねぇ)

(理愛も闘うつもりかい?)

(なんとかなりそうだし?)

(物は試し、か)

(その時はよろしくね!)

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