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二八話⑮

 利市りいちを宿舎へ残した篠ノ井(しののい)一行は、再胎した首魁を倒すべく迷宮を潜行していく。道中の甲蓋は目に見えて少なくなっており、到着した前後の数は異常発生だったのだろうと結論づけて進む。

 甲蓋こうがいの発生数や、利市と魔王族の出現を思えば、今後は要調査迷宮になることは確実であろう。

 そうして到着するは回廊階層。一息ついては、首魁の対処を改めて浚う。

「相手は蹴脚しゅうきゃく、異様に大きな兎だ。活性化での変化での魔物化、もしくは別物に変わっている可能性は否定できんが、通例通りであれば蘢佳、陽茉梨、勝永の三人に任せてみようと思う」

「いざという時はわたしが出るし、小試験くらいに思ってよ」

「上手くいかなかった場合は」

「気にすることはないよ。二人は学舎の生徒だし蘢佳ろかも成形体を得て日が浅い、他の場所で挑める機会はあるし、単純に上手くやれるか見たいだけだからっ」

 それはそれで重圧があるのだが、百々代(ももよ)一帆かずほが三人をどうこうすることはないのは本人らも理解ができる。

「ふふっ、私たちに掛かれば余裕ですわ!しかと活躍を目に焼き付けてくださいまし!」

「いいねっ。期待してるから、頑張ってよ」

勝永かつなが、蘢佳、作戦を練るわよ!」

「おー!」「了解した」

 新人三人は元気よく、持っている情報を元に兎狩りの計画を立てていった。


 陽茉梨ひまりたちが首魁階層へと下ってみれば、そこにいるのは大きな白兎はくと。もさもさと低木の葉を食んでいたところで、篠ノ井隊の存在に気づいては頭を向けた。

「じゃあ予定通り、手前が一番乗りで!」

 蜂杖うじょうを構えた蘢佳は引き金を引いて、擲槍を無数にばら撒いていく。あくまで牽制、有効打を得られずとも行動の阻害ができれば十分な弾幕射撃だったのだが。

「速い」

 目にも留まらぬ速度で駆け出した蹴脚はぐるりと三人の側面へと回り込み、聳え立つ槍のように尖った岩柱を蹴飛ばして攻撃とする。飛来する岩の柱は勝永が障壁で防ぎ切り、蘢佳が擲槍で反撃を行っての攻防戦が始まることとなった。

 一帆の防御と違って勝永の守りは堅いとは言い切れず、陽茉梨の集中は阻害され続け目に見えて三人の手数は少なくなり。これを好機と捉えた蹴脚は、一気に距離を詰めては牙城を崩すべく、勝永を圧し潰そうと試みる。

 対抗する勝永は三重に障壁を張ったのだが、蹴脚はそれを足場に高く飛び上がって、魔法弾を無数にばら撒いた。

「厄介な!」

 優先的に守る必要があるのは攻撃の要である陽茉梨。勝永と蘢佳は二人で障壁を展開して守りを固めていく。

「思った以上に速いし、魔法も使ってくる。魔物化してるってことだよね、これ」

「速いのは元からの可能性を否めないが、魔物化していることは確か。蘢佳は継続的でない、小忠実こまめな魔法射撃を。陽茉梨さんは、大変だと思うけれど攻撃の準備を頼む!」

「了解!」

 蘢佳の返事に続いて、陽茉梨は頷き戦闘を続行する。

(…百々代さんと一帆さんなら、苦も無く倒しているだろう相手。自分たちも力を証明して見せないと!)

駆刃くじん

 取り敢えずの攻撃で注意を引き、蘢佳が準備を終えるまでの時間を稼ぐ。

 二人に魔法弾が当たらないよう、自身の立ち位置や障壁の範囲を遣り繰りしていけば、調整手や防御手という者への理解が深まり、自身には向いていないのだと小さく笑う。

(周囲を俯瞰して見れない…、目の前の対処ばかりで手一杯とは!こんなんで第一座務まらないだろう!)

 二人への防御に集中しすぎていたツケは自身で支払わされることになり、魔法弾が腕に命中し旋颪つむじおろしが弾き飛ばされていく。臍を噛む思いをしていれば、蜂杖を設置ではなく構えた状態の蘢佳が前へ出て、動きの阻害に特化した魔法射撃を行っていく。

 前に出ようとすればかさず引き金を、相手の魔法弾は勝永が防御を。一進一退の攻防が繰り広げられて。

陽芒ひのすすき!待ったせたわね!」

 天高く打ち上げられた光の束は、瀑流となって降り注ぎ辺り一帯を爆破し焼き尽くしていく。そして、それらを避けようと走る蹴脚だが、長い時間を掛けて編み上げた軌道線に逃げ場などあるはずも無く、最初に足を潰されて、…後は大兎の丸焼きが完成することとなった。


「お疲れ様、無事に終わってよかったよっ」

 一帆の障壁内で戦闘の様子を伺っていた百々代は、一目散に三人へ走り寄っては怪我がないかを確認し、胸を撫で下ろしている。

「自分たちの戦闘は如何でしたか?」

「倒せたし全然合格でしょっ」

「試験をしていたわけでもないが。ふっ、及第点だ」

「よしっ!」「ふふん、当然ですわね」「やった!」

「バンバン背中を預けちゃうから」

「それはちょっと…」

「あははっ」

 少し引き気味な勝永に百々代は笑い声を上げては、本当に自分が出るような事がなくてよかったと安心し切っていた。戦闘中ははらはらと気を揉んでいたので、当然といえば当然であろうが。

「どうだ勝永、攻撃手以外を請け負った感想は」

「自分には向いていませんね。首魁相手であれば、二度同じ立間には就きたくないかと」

「向き不向きはあるだろうからな。俺たちに足りなかった攻撃手が増えてくれて大助かりだから、得意な部分を伸ばしてくれ」

「うす」

「宝物殿を探そうよ!せっかくだし購入して記念になるのがいいなあ!」

 元気な蘢佳を追って宝物殿を探しだし、手に入れたものは一個の帽子。前後にひさし、左右の耳当てが頭頂部で結ばれた鹿撃ち帽を手に入れ、彼女の要望通り記念に購入を決めたのであった。

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