二八話⑬
「色々聞きたいこともあるから、アレックスさんを外に出したいんだけど。…どうしよっか?」
「俺も同じことを考えていたところだ」
同じくと陽茉梨と勝永も頷く。迷宮に入ってから出てこない者はいる、だが入っていないのに出てくることはほぼ無い。百々代と一帆が数少ない例外であり、出てきた先が廃迷宮であったから問題は起こらなかったのだ。
「というと?」
「わたしたち、未だわたしと一帆だけなんですが、迷宮管理局という組織に所属しています。名の通り迷宮を管理する省局であり、この百港国では迷宮は、資源目的と安全性確保から許可を得た特定の者しか足を踏み入れることが出来ません。こちらの二人は学舎という教育施設の在籍者なので、見習いみたいな感じです」
「つまり、許可を得ていない私が外にでると問題が発生するというわけか」
「そうなります」
「なるほど…」
「捏ち上げるとするか」
「それが良さそうですわ。百々代さんと一帆さんという前例がありますし、迷宮に喰われた…群島出身者にしませんか?肌が浅黒くて群島南端出身といえば説明がつきますよ」
「そうなると群島の知識が必要になるが…、記憶喪失とでもするか。あとはアレックス・リーチ三世だと名前が浮くから、偽名をつけるとして」
「身柄はどこの家で保護としますか?姨捨や篠ノ井家、黒姫」
「長野家は流石に無理ですわ」
「それは篠ノ井でいい。百々代に関連する事柄を知っているのは、その中だと篠ノ井だけだ」
「お祖父様は知らないのですね」
「迷宮には関係ないからな」
「その、急に押しかけてしまったというのに手間を掛けさせて、すまない」
「魔王族なんてのがなければ、もっと歓迎してやれたかもしれなかったがな。手土産と、百々代が恨んでいないということに免じて手を貸してやる。勇者なんて仰々しい名を冠しているのだから、戦闘面でも役立ってもらうぞ」
「勇者という立場に関して一つ訂正があって、私は既に勇者の地位を降りて只人となっている。色々と事情もあるのだが、元いた世界が勇者を必要としない和平を結べた際に、これから勇者を生み出さないため、地位を降りて不老の呪いも解いてしまった。人よりも多少強い程度の男と思ってくれ」
「詫びに手土産を持ってきただけの只人…、はぁ…。悪意が無いのが嫌になる」
「まあまあ。呪いを解いているということは、寿命があるということですよね?」
「そうだ。そんなに長いこと生きれないと思う、残り三〇年から四〇年くらいだろうか」
「それじゃあ、魔王族の対処が終わったら天糸瓜島で余生を過ごす感じですか?」
「できればそうしたい。この天糸瓜島の知識はないから、いくらか知恵を借りることになるとは思うが、その時はよろしく頼む。ああ、勿論のこと、活動資金となり得る品は幾らか持ち込んでいるから百々代さんたちに預けたいのだけど、問題はないかい?」
「まあいいですけど。…ふむ、金貨ですか」
百々代は細視遠望の青を晒して一枚一枚鑑定していく。
「純金ですね、これ。百港国で金を用いた硬貨を流通させていませんし、こういった硬貨を主に用いるのが大陸国という都合から、変な疑いを掛けられない為にも一度鋳溶かすことになりますが問題ありませんか?」
「好きにしてくれて構わない」
「わかりました。わたしの方で溶かし、換金してお返ししますね」
アレックスは金に価値がありそうなことに安堵する。
「あとは名前だ。アレックス・リーチ三世では浮きすぎている、偽名をつけることになるが」
「阿連楠利市さん、なんてどうでしょう。家名と個人名は逆転してしまいますが」
勝永の提案に一帆がアレックスの方へと視線を向ければ。
「全然構わない、むしろ原型を残してくれて助かるよ。なにせ長いことアレックス・リーチと呼ばれ続けていたから、急に別の名前で呼ばれて反応に困ってしまうところだった」
「なら決定だな。それじゃあ外にでるとするか、何処かへいった魔王族とやらが暴れてないといいのだが」
「一ついいだろうか」
「なんだ?」
「サテーリア、という名前も此方風の名前に変えてもらえないだろうか。百々代さんにとっての蘢佳さんみたいに、わたしにも近しい存在がいて」
「その方は男性ですの?」
「いや、女性だ」
「なら、茶天理愛なんていかがでしょう?」
(どうだ?サテーリア)
(いい感じ、気に入った。お礼を言っといてよ)
「気に入ったとのことだ。感謝するとのことだ」
「それはなにより、ですわ」
こうしてアレックス、ではなく利市を加えた篠ノ井一行は迷宮を出るため足を進める。
道中に甲蓋が少数現れるも百々代が直ぐ様蹴散らしていくため、他の面々は出番がなく着実に歩いていく。
「質問だんだけども、百々代さんの強さはこの世界での一般かい?」
「アレは上澄み、それも最上位だ。実力だけでもな」
「実力だけとは?」
「前世の百々代を知っているのだろう?瞳の力を有しているのだが、それを抜きにしても並び立てる実力差は少ないということだ」
「あぁ、そういう」
「叢林さんは次があれば勝てると仰ってましたが、瞳の力があると考えると厳しいですよね」
「よっぽどのことがない限り人には使わんから、叢林であれば勝てると思うぞ。あいつには隠し玉が多いようだからな」
「へぇ…」
(意外だなぁ。てっきり百々代さんに勝てる奴なんているか!とか言いそうだったんだけど)
「ははっ、チャーも相手が悪かったのだね」
「笑い事じゃないが」
「これは申し訳ない」
「お前はどれだけの実力があるんだ?」
「うーん、剣術には覚えがあるのだけど、どれほどというと難しいね」
「なら今度試してみますか?剣ならありますんで」
戦闘を終えた百々代が戻ってきては提案をし、蜉蝣翅を展開する。
「なら状況の整理が出来たら、私の剣術を披露させてもらおうかな」
「では自分が相手を務めます。剣の腕には自信がありますので!」
勝永は異界の剣士に興味があるようで、乗り気に声を上げていた。
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