二八話⑫
「「…。」」
「安心していいよ、この人はわたしの知り合いでね。前世で縁のあった勇者、アレックス・リーチさん」
(…。)(それって)(|百々代《》さんを討った人じゃ…)
「うわぁ…、本物だ」
反応は様々。和解しているとはいえ、自分を殺した相手に来やすく話しかける百々代。気に食わなそうな表情を隠すことのない一帆。げんなりとした声色の蘢佳に、胡乱な表情の陽茉梨と勝永。
(少し前のモンターニャを思い出すな…)
(事情は知られているんでしょ、むしろ張本人が気楽すぎる気だけじゃない?)
「まあまあ皆、怖い顔しないでよ」
「はぁ…。で、異界の勇者が何の用なんだ?先の人語を解する魔物は?」
「順を追って話させてほしい。先ずはお互いに紹介を済ませてしまいたいのだけど、百々代さんお願いできるかな?」
「いいですよっ」
順々に篠ノ井隊の面々を紹介していけば、アレックスは昔を懐かしむような表情を見せては、小さく吐息を一つ吐き出す。長い昔の、若かりし自身らを思い出してでもいるのだろう。
そして蘢佳の紹介を最後にすれば、丸く目を剥き何度も瞬かせていた。
「自身の分魂を人形に移して、活動できるようにしているのかい?」
「作った本人が原理をわかっていないのもアレなんだけど、そんな感じです。わたしたちと一緒に、天糸瓜島の皆を護るため迷宮で共に戦っている、正真正銘本物のローカローカですよ」
「そうか…、生前の事を謝らせて貰えるだろうか?」
躊躇なく跪き頭を垂れたアレックスの姿に、蘢佳は小さく驚きを見せるも肩を竦めては百々代に視線を向ける。
「手前も前に百々代と勇者が話していた時に見てたし謝罪も聞いている。正直さ、かっこよく退治されたと思ってたから、そうやって何度も頭を下げられると、なんか嫌なんだよね。無駄だったって思いたくないし、こんなことでイライラしたくないんだ。だからもう終わり、手前は謝罪を受け付けないから!!」
ぷいっと顔を背けた蘢佳は、やや怒りを帯びた声色で一方的に伝えて、百々代に成形体を解除させて姿を暗ませてしまった。人として転生し、人としての人生を歩んできた百々代と比べると、アレックスの態度には思うところがあるようだ。
「そうか、悪か…た、ともいえないか。…また改めて話しをさせてくれ、蘢佳さん」
「…、それでなんで、魔王族と半ら一緒にこちらに?」
「質問に質問を返すのは不躾だと理解はしているのだが、チャーとフーリは…どこへ?」
「撤退していきましたよ、空を割いて」
「つまり君たちで凌ぎきった、と」
「そうなるな。百々代に関しては武器を使う魔物を制圧しきっていたが」
((…。))
アレックスと、彼に宿るサテーリアは百々代を凝視して硬直する。
「チャーを?倒したと?アレでも混獣魔王の子息で、方々で戦乱を引き起こしては強兵を討ち取ってきた厄介な魔王族なのだけども…」
「次はどうかわかりませんけどね。今回は勝てました」
「なるほど。…実は私アレックスと、姿は見えない…蘢佳さんのような存在のサテーリアは百々代さんにお詫びの品を渡すために、片道切符でこちらの世界に渡ってきたんだ。そうそう、これがお詫びの品の黒帯勇者の再制作版映像記録盤と、各勇者の軽樹脂人形や各種変身玩具を―――」
「うおぁあ?!起動。蘢佳!蘢佳見て見て、黒帯勇者の玩具だよっ!」
「すっごい!!でもなんかちょっと見た目が違うかも?」
「再制作版ってことだし、新しく作り直したんだよ、きっと。ほら、アレックスさんって二〇〇歳とからしいし」
「あー、そういえば!ねえ勇者、映像記録盤ってどうやって観るの?映写機?」
大はしゃぎする二人に気圧されるも、アレックスは頭を回しては言葉を紡ぐ。
「え?……映像再生機があれば…、もしかして規格が合わないか…、くっ失念していた…」
そして自身の失態に気づくのであった。
「うーん、そもそもわたしが生きていた頃の映写機もこっちには無いんですよね」
「魔法で作れないの?」
「残念ながら理屈がわからないものは、どうしようもないよ」
「そっかー…。これって貰っちゃっていいの?」
「ああ、貰ってほしい」
「ありがとうございます、アレックスさん」「ありがと勇者」
瞳を輝かせている百々代と、目に見えて明るい声色の蘢佳。二人の姿は一帆たちとアレックスらの気持ちを和らげていく。
「それで魔王族とは?」
「ああ、あの兄弟は和平を結んだ国々が気に食わず、あちこちで戦争を引き起こそうと画策し、活動していた厄介な指名手配者だ。どういった経緯で、我々が世界を渡る計画を知ったのかは知らないが、隠れ家を襲撃されて今に至るというわけだ」
「指名手配、なぁ。厄介な相手を呼び込んでくれたものだな、百港国は海を隔てた国との戦争に発展するかしないかの瀬戸際、且つあちこちの迷宮が活発化していたりと大変な時期なんだ」
「本当に申し訳ない。彼らは責任をもって私が追い、対処するつもりだ」
「遠い異国、それも一人、いや二人だったか、何にせよ少数で対処できると」
「この国の軍隊に相談し、私も加えてもらおうかと考えている」
「呆れるな。勇者だか知らんが、それはお前のいた世界の話だろう?市民でもない、なんなら大陸人の可能性もあるお前を信用すると思うか?」
「…、それもそうか」
しゅんと眉を曇らせたアレックスの姿に、一帆は悪いやつではない事を確信し、長く大きなため息を吐き出しては考えを巡らせる。
「チャーって魔王族は、わたしと再戦したそうな風だったし同行してもらった方がいいんじゃない?どう対処するかはわかりませんが、捕縛した場合は元の世界に送還するんですか?」
「…いや、世界は相互に行き来できわけではなく、我々に帰り道というものはない。…アレらが改心するような性質ではないだろうから、首を落とすのが一番の対処となるだろう」
「それであれば、迷管局としては相手を魔物として処理できるから好都合。異論のある者がいないのであれば、ご同行を願いたいが」
一帆は篠ノ井隊の顔を見回してみるが、概ね受け入れても問題ないといった様子。そしてアレックスも是非とも同行したいといったところであろう。
「異界の魔王族とやらか。ふっ、百々代といると人生に飽きがこないな」
「一緒にいてくれる一帆のそういうところ、本当に好きだよっ」
百々代は大輪の花を咲かせては、とりあえず手に持った玩具を蔵った。
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