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二八話⑨

 ぽちゃん。百々代が水滴が水面を揺らす音を耳にすれば、また誰かに呼ばれた気がして振り返る。

「繋がった、のか?」

(誰だっけ?)

 声の主を探してみるが、どこにも居らず彼女は槍山迷宮の一階層に立っていた。


 槍山迷宮内に魔物が現れる頻度は、他の迷宮と比べて高い部類。これは以前からそうだったわけではなく、活性化の影響とのこと。

 数日間の休暇を経ての魔物処理だが、一階層は既にそこそこの甲蓋が群れを成し練り歩いていた。

「わたしたちがいる間、再胎するまでの間はいいけれど、それ以降は増援が必要だね」

「乙女副局長にでも書簡送りつけるとするか。ご機嫌なあの様子なら何とかしてくれるだろう」

 それじゃあ、と篠ノ井隊は戦闘を開始する。

 軽々と三階層辺りまで潜って一同が思ったことは、足の遅い相手に対して篠ノ井隊の面々は本領を発揮できないという点だ。

 ズバ抜けた機動力を有する百々代と、追風で安定した機動力を得た勝永いるため、他の隊と比べて機動力はあるのだが、残りの三人の基本は障壁を張りながらの防衛殲滅。

 鉄蝿の様なそこそこ動ける相手であれば、釣ってきて一網打尽に出来るのだが、甲蓋相手ではそうもいかず、魔法の取り回しも良いとは言えない。

 だからといって一帆たちが動き回ったら隙を晒すのは明白で、前衛二人が中心となって狩りを行っていく。

 迫りくる魔法射撃の弾幕を潜り抜け、僅かばかりを纏鎧で受け流しながら、握る蜉蝣翅で斬り上げて甲蓋の首を刎ね、その頭部を回転蹴りで別の相手に命中させては尾装で自身を押して距離を詰めて更に一匹を潰した。

 派手に暴れていけば、甲蓋は危機感を覚えて頭を甲羅に引っ込めて、遮二無二で魔法射撃を行い迎撃にあたる。

(雑に撃たれる方が面倒なんだよね)

 青い瞳を晒し射線を理解し、零距離擲槍の連続使用で切り抜ける。その後、相手の頭部が見える角度に蹴り上げ、蜉蝣翅を突き刺し、止めも刺した。

「雷放。起動。回削籠手」

 甲羅に籠もった相手を丁寧に一匹一匹相手にしていくのは非効率。今度は籠手を展開して、蜉蝣翅では刃が立たない甲羅部へ回転面をぶち当て削り割り、内部へと放電を起こして内部から焼く。

(よし、これこっちは十分そう。……、いたいた)

 上空でくるくると帆翔する一帆の探啼を見つけ、大きく手を振れば青い信号弾が上がって周囲が掃討されている事を理解する。


 三日ほど掛けて一七階層まで進んだ篠ノ井隊。流石に百々代と勝永への負担が多いため、一帆たち遠距離を主力とする魔法師たちが甲蓋の処理を行っていく。

 幸いなことに相手がまとまっており、足が遅いということもあって障壁さえ展開していれば対処自体はできるので、硬い相手に時間を掛けて確実に潰していく。

(三日潜ったが、徐々に相手の湧く頻度が下がってきたか?…それに初回の潜行と比べて、攻撃の積極性が下がっているようにも思える。希少龍の影響で凶暴化していた、と見るべきだろうか)

 探啼という上からの眼を有する一帆は、覆成氷花の準備をしながら状況の分析に勤しんでいた。日を追うごとに防御面の負担が減っていき、今では最低限に収めている程。

 陽茉梨の攻撃で討ち漏らした相手への追撃を終えれば、一七階層の掃討は完了した。

「これで終わりだな」

「はぁ、硬くて面倒ですわ…。陽芒が主力となってて良かった」

「恢浄と擲槍でも処理できていたのだから、陽芒でなくとも労力は変わらんだろうに」

「気持ちの問題ですのよ、一帆さん」

「わからんでもないが」

「二人はいいよねー、対処できるだけの威力があるんだから。手前は全然なんだけど!」

「相手が悪いと諦めろ。牽制に役立ってくれているだけで十分だ」

「ふぅん」

「さて、百々代は何処を探索にでているんだか」

 一帆たちで対処を行うと決まり、手隙になってしまった百々代は一七階層の探索に出ていた。面白そうな物があれば回収しようと。

 飛ばしていた探啼に視界を移し周囲を探ってみれば、岩と岩の隙間に入っては何かを手にして出てくる百々代の姿。何をやっているのかと降下していくと、導銀の塊といくつかの箱が並んでいる。

「あっ、一帆。そっちの戦闘は終わった感じ?」

「今し方な。…これは、外れの宝物殿か」

「みたい」

 外れの宝物殿、という単語に陽茉梨たちも僅かに沸き立つ。

「中はそこそこに広くて、見た通り複数の迷宮遺物か流物があるから、運び出してたところなんだよ」

「今で、…四つか。中には未だ?」

「あるよ、残り二つくらいかな。導銀も質がいいから回収したくって、ちょっと合流が遅れそうなんだけど、いい?」

「寧ろこっちから合流するさ」

「うーん、少し険しい道程があってね。わたしが動いたほうが早いかもって」

 一度見てきたほうが速いかと、探啼で飛び上がって周囲を確認してみれば、道半ばのところに峡谷が出来上がっており迂回路もないので飛び越える必要があるのだ。

「理解した。峡谷の手前地点で待機しているぞ」

「うん、急いで持ってくから待っててねっ」


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