二八話⑦
「風嶺龍というだけあって、どの部位をとっても風属性に強い反応を見せてくれるな!!」
「だねぇ。一部はこっちで買い取るけど、何作ろっか?」
機敏と触媒調査を終えては、使用した道具を手入れして片付けていく百々代。そして魔法の制作に思いを馳せる颯。
「風の魔法、風嶺龍の攻撃を模倣してもいいのだが、篠ノ井隊は魔法射撃に関して十分な手数を有していると思うのだがどうだろう?」
「困ってはないねっ。人手も増えたから、一帆の負担も少なくなって防御に専念できてるし」
なんなら戦闘中に探啼を飛ばして周囲の索敵を行ったりもしている程。
「ならば戦闘補助、もしくは」
「生活魔法とか?うーん、補助魔法なら昔に零距離擲槍の代わりに風力を使おうと考えたこともあるんだけど、出力的に実用的じゃなかったんだよね。攻撃にも転用しづらかったし」
「現状の百々代くんには無用の長物だろう」
「安定性が高い移動魔法が出来たとしても、風嶺龍素材じゃあ額面が現実的になくなっちゃうし、それ以外の方向で使ったほうが良さそうだね」
「風、か」
考え込む颯を横目に、百々代は魔法莢研究局が記した導銀化合品の記録を浚いながら、素材と簡易炉を用意していく。
(玉髄山椒の温熱が導銀化合でも効果を現しているっぽいから、こっちでも試してみよっと)
簡易炉で導銀を溶かしては粉末状の玉髄山椒を投入、混じり合ったところで導銀盤用の鋳型に流し込んで冷えるのを待つ。
「玉髄山椒の化合導銀を試しているのか?」
「うん。魔力を流すだけで飲み物を温められる、迷宮遺物みたいな物が作れないかなって」
「擬似的な迷宮遺物、莢研でも同じことを考えているのだろうな」
「温度の変化し難くなる迷宮遺物はあるんだけど、どうせならものは試しってことでねっ」
冷めた導銀を金属の棒に被せて筒状にし、魔法陣を彫り込むことで円筒形の導銀筒盤の完成するのだが、今回の用途は魔法莢ではない。導銀片を両端の合わさる場所に被せては火の魔法で溶接し筒状へ、もう一枚の導銀を底面になるように敷いては再び溶接すれば銀杯の完成である。
「完成っ、溶接部が冷えるのを待ってから魔力流してみよっか」
片付けなりをしながら冷えるのを待って、魔力を注いで見れば銀杯は熱を持ちじんわりと暖かくなっていく。
「このくらいだと水を温めるよりは、温かい飲み物を維持するほうが良さげではあるな」
「だね。あ、でも器を小さくすれば、少量の飲み物を温めつつ飲めるようになるんじゃない?」
「温葡萄酒か、冬で気温も冷え込んできたきたから丁度良いかもしれん!片付けてしまったが。もういくつか作って夜に試してみようではないか!」
面白がった二人はとりあえずで篠ノ井一行の人数分を制作し、皆から呆れられたの出る。
夕餉時、机に並べえられたのは無骨な銀杯。洗浄こそされているものの、酒杯というにはやや洒落っ気のなさ過ぎる品に、これはどうなのだろうかと首を傾げる一同。
「何度か試したけど、温度は火傷しない程度までしか上昇しないから安心して使っていいよっ」
「温葡萄酒に使う材料は用意してもらった、さあ面白き実験の橋頭堡を楽しもうではないか!」
妙に浮かれている二人は銀杯に葡萄酒を注ぎ、蜂蜜や柑橘煮を投入し魔力を流しては温度を上げていく。二人がいうのなら安全は担保されているのだろう、と他の面々も好きな味付けで温葡萄酒を作っていき、乾杯をした。
「あぁ、冬には悪くないかもしれんな」
「見た目さえ整えれば、一部の愛酒家には売れるかもしれませんね」
「虎丞がそういうのならそうなのかもしれんな、黒姫家に送りつけといてくれ」
「流石に黒姫も破裂しかねない勢いなので、他所の方が良いかもしれません」
「なら今井商会連盟に送りますか?金属工芸を取り扱う工房もありますよ」
「今井商会連盟であれば、黒姫とも手を組んでいますので良いですね。では一筆お願いできますか?」
「任せてくださいっ」
なんて話しをしていれば、一帆は銀杯を置き一息つく。彼はそこまで酒気に強くないので、呑み口の良い酒は早めに区切りを付ける曲がある。
「一帆さん、もうおしまいにするのですか?瓶にはまだ残ってますよ」
「お前もそろそろ切り上げろ、顔が赤くなっているぞ」
にへらぁ、と柔らかな表情をするのは勝永。篠ノ井隊の男衆は酒に弱いようだ。一帆へだる絡みしては辟易とした表情を向けられていた。
「何杯でもいけてしまいそうですわ」
紅潮した陽茉梨はちまちまと一人銀杯を傾けている。こちらは一帆と同じく、自分の限界を知っている口なので、ゆっくりと酒の味を楽しんでいた。
「ああ、そうだっ。風嶺龍の討伐を祝い忘れてたし、この場で祝いとしちゃおっか!」
「あら、いいですわね!私も百々代さんと同じく龍を討った魔法師ですもの、誰も彼もから祝われたい気分でしたの!」
「陽茉梨さんの、そして皆のお陰で倒せた風嶺龍だからねっ。それじゃあ希少龍を倒せた事を祝って、」
乾杯、と各々が銀杯を掲げて、希少なる龍を倒せたことを喜んでいれば、食堂の料理人たちが気を利かせて少し豪勢な料理を運んできたのだった。
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