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二八話⑥

「お?おお!?なんだか、すごい物を持ち出しているではないか」

「黒縁の眼鏡、もしかして篠ノ井(しののい)莢研局員ですか?」

「ああ、われが篠ノ井(はやて)だが」

「こちらは希少龍の風嶺龍ふうれいりゅうでして、篠ノ井巡回官が戻る前に、先んじて触媒調査を行っていて欲しいとのことなのです」

「希少龍?百々代(ももよ)くんたちで倒しきったのか!?」

「ええ、みたいです。お若いのにすごい隊ですよね」

「厄災ですら退けてしまうとは、雷迎電辿らいごうでんてん籠手かごのてを合わせて運用したとみるべきか。百々代くんに怪我は?」

「小規模な怪我を全身にと、衣服が焦げてたくらいですよ。治療を受けていたので問題ないとか思われます」

「それは良かった。触媒調査に関しては責任を持って請け負う、捌き終わり次第に素材を搬入してくれ」

「承知しました。…莢研局員がいますと、こういうときに迅速に動けていいですね」

「そのために同行しているようなものだ、活性化なんかで何処も新しい素材だらけのようだからな」

「ならば、甲蓋の方も搬入をしますね」

「よろしく頼む」


 防衛官らが解体し運び込む素材の数々を砕いて、触媒調査を行っていおる最中。颯は聞き慣れた声を耳にして、扉の方へと視線を向ける。

「ただいま颯」

「おかえり皆。ふむ、随分と派手な戦闘をしたようだな」

「相手が相手だったからねっ、触媒調査の方はどう?」

「今しがた甲蓋こうがいの調査を終えたところだ」

 手渡された結果を見て、百々代は頷く。

「魔法射撃に適性があるみたいだけど、反応は微妙だね。硬化は、…もっとイマイチと」

「代用素材に出来なくない、程度の代物止まりということだ」

「倒し難いのに使い道もってなると大変な迷宮になっちゃいそうだね」

 肩を竦める百々代に、一帆は同意するように頷く。迷宮管理局としても、実入りの良い迷宮の方が戦力を送りやすく、巡回官もそういった迷宮に行きがちだ。

 然しながら迷宮を放置してしまえば、氾濫が起きて周辺の街や村に被害を出してしまうので費用だけが嵩む。

「それじゃ湯浴みしたら触媒調査にわたしも加わるから、ちょっと待ってってねっ」

 と言葉だけ残して百々代は走り去っていく。

「未だ未だ余裕ありそうですね、百々代さん」

「昔から無尽蔵だぞ、百々代の体力は」


 湯浴みでさっぱりとした百々代は、柑橘かんきつ類の混じった石鹸の匂いを仄かに漂わせながら、颯の隣に腰を下ろして進行状況を確かめる。

 のだが、湯浴み後の温かな彼女を隣にすると、颯はやや落ち着かないようでほんのりと頬が染まってしまう。

「…、触媒調査の続きは明日にする?」

「っ」

 眼の良い百々代に隠せるはずもなく、手を握られてしまえば身体は硬直し顔は真っ赤である。頬をくすぐる吐息にドギマギしていれば、目元に唇が触れて寝室へと運ばれていったのである。


「一帆さんって嫉妬とか沸き起こらないのですか?」

「どうした、やぶから棒に。まあ百々代に一対一で負けた時は流石に悔しかったが」

「いえ、その百々代さんと颯さんって仲が良いじゃないですか。ご伴侶として悋気りんきを起こしたりはないのかと、思った次第ですわ」

「ああ、そっちか。別に颯なら良いってだけで、他の誰かがちょっかい出すようであれば、容赦はしないぞ。千曲ちくま叢林そうりんなんかは警戒しないと」

「一帆さんも颯さんに懸想けそうを?」

「俺が颯に?ないない、あんな変態奇人へんちくりんに懸想なんてしてたまるか、俺は百々代以外に興味はない」

 強がっているわけでもなく、自然体な一帆をみて不思議な、そして面白い関係だと陽茉梨ひまりは思った。

「颯に、百々代を奪おうという感情がないこと、それと百々代が俺と颯に同じくらいの、感情を向けているから、というのが回答だろうな」

「ふぅん」

 納得半分な声色に、これ以上の説明は無理だと諦めていれば、勝永がやって来ては机に着く。

「お待たせしました」

「本人は不在だが許可は取ってあるから百々代の話しをするとしよう」

 先ずは百々代に宿った眼の力。超常たる力を有していると聞いては、彼女の強さに納得するのだが、普段は視力が群を抜いて良いだけと知らされた二人は口をあんぐりと開けている。

「物凄い筋力や身体能力が発現するとかは」

「今のところないはずだ。まあだが、透明な相手や不識を肉眼で暴けるのだから、厄介すぎる瞳だぞ」

「それもそうですが…、?」

 細視遠望の青が認識阻害を突き破ると聞いて首を傾げるが、そういうものなのでしょうがない。

「次に移るぞ」

 そう告げて、百々代には前世の記憶があり、瞳の力は前世から持ち越されてしまったものだと簡単に説明する。これらを納得するには時間が掛かりそうなものだが、実際に超常なる力の一端を目にしているので、すんなりと受け入れていく。

 その序でに蘢佳は、百々代から溢れた魂の一部で、彼女から派生した存在とも説明される。

「原理は兎も角、それは納得できますわね。自立型成形獣なんて発明、再現が難しくとも発表しない理由がありません。ほぼ完成形に近い挙動ですし」

「自分もそれは疑問に思ってました。放散型纏鎧とかよりも必要になりそうな魔法なのに、と」

蘢佳ろかも百々代さんの一部、…まあ妹のような存在と言われれば納得できますわ」

「一基と呼ばないように指摘されたのも、ですね」

「実際、妹くらいに思ってるだろうからな。百々代の話しは以上だ、何か質問はあるか?」

「これらを話してくれたのは、自分たちを信頼してくれていると考えて良いのでしょうか?」

「実力は十分信頼に足る。為人も問題はなかろう、程度に信じているぞ」

「…うす」「まあ」

 照れくさがりながらも、嬉しそうに顔を緩めた勝永。そして陽茉梨である。

「独立したり辞めたり、他所で組まないのなら、一〇年以上の付き合いになる。よろしく頼むぞ、陽茉梨、勝永」

「「はい!」」

(『龍殺し』を嫌がった理由って、そういうことだったのね)

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