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四話⑤

 休みも明けて暫く、夏の暑さも過ぎ去り涼しさの心地よい彩秋季さいしゅうきの半ば。魔法学と魔法実技でそれなりに魔法を学んだ一年生たちは、学舎の施設である疑似迷宮に足を運んでいた。

 だいたいは派閥毎で纏まり、あまりに少ない場所は複数で寄り合い一〇人に満たない程度に固まっている。


「さて本日は迷宮実技の初授業、疑似迷宮の探索を行ってもらいます。知っての通り疑似迷宮は人工的に作られた模倣品、魔物の出現もなければ迷宮資源もありません。ですので教師や一部の生徒が成形獣を用いて状況の再現を行い、君たちには攻略、探索を行ってもらうことになります。初挑戦、ということで成形獣の攻撃性や機動力は大きく制限されており、今までの授業で習った魔法を動く的に当てられるか、そして会敵時にしっかりと対応できるかなどを見る場所となっております。では一番口は―――」

 一番口に向かのは一帆かずほ派閥。一五六九の上位座四名を抱える、中人数ながら最上位に位置する派閥であり、魔法実技首位で成形獣颯狼を授業で潰した百々代(ももよ)が所属している期待度の高い集団だ。


「…わたくし大丈夫かしら、不安よ」

「不安です…」

「頑張りましょう!いざとなったらわたしが盾になりますのでっ!」

「そうそう、わたしも頑張っちゃうし、今回はそんなに難しくないよ、初回だからさ」

 少し青い顔をしてる結衣と莉子を励まし、自身の魔法莢を確かめる百々代の瞳は輝いている…かもしれない雰囲気だ。そして軽鎧を着込んだあんも安心させるべく声を掛けていた。

「そ、そうね、わかったわ。もしも攻撃を受けたらわたくしの許へ来なさい?回復はしてあげるわ」

 深呼吸をして杖と盾を握りしめる結衣ゆいは、回復の魔法莢まほうきょうを持参し足を運んでいた。その実、授業での攻撃魔法の精度がイマイチ良くなく、試しにと回復の魔法莢を使用したところ相性が良かったので、今回は後方支援を主とする事に決まったのだ。


「ところでっ、一帆様のそれ!迷宮遺物ですか!?」

「ああ、そうだ。丙級品だが確かな品で、つき涙杖だじょうという。凍抓とうそう氷矢ひょうしのような氷に関する魔法に適正を得るもので、攻撃序で敵の動きを阻害できるんだ」

「わぁああ、かっこいいですっ!」

 四尺《120センチ》の白い木製の柄、先には青の宝石。迷宮遺物と言われているこれは、迷宮の宝物殿に収められている事がある物で、それぞれが特殊な力を保有している。

 月の涙杖は一帆が説明した通り、氷を生み出す魔法に対して適正を得られ、命中した標的を凍結させる事ができるようになる優秀な品だ。


「後ろは任せられますね」

「ああ、だが今回はそう肩肘張った実技にはならないと思うがな。初回なのだし」

「油断大敵ですよ。皆さん準備はよろしいですか?」

 各々の返事を聞き、上がっている口端をほんのりと下げ真面目な相貌へと変わった百々代は、帯革に佩く魔法莢を確かめて先頭を行く。


「起動。強化、纏鎧乙、纏鎧甲(へんしん)!」

 意味の分からない起動句につっこみが飛んでこないのは、一同それなりに緊張しているからであろう。

 疑似迷宮に足を踏み入れてみれば、点々と照明の吊り下げられている坑道然とした空間。ところどころ、物陰になるように障害物が配置されており、そういった物陰から成形獣が飛び出てくる仕組みのようだ。

 先頭にいる百々代は右の瞳を半ば露わに歩みを進めていけば、物陰から飛び出す影。

「…。」

 驚きもなしに裏拳で出てきた物陰に帰還を願えば、体高一尺《30センチ》強の鼠が転がっており、成形獣偵鼠であることが伺える。


(えっ、え?)

 教師か生徒か、壁を隔てた向こう側から困惑する声と足音が聞こえてくる事から、困惑の具合がよくよく伝わってくるというもの。羽虫でも払うかの如く扱いは流石に可哀想だ。

 様子見は先の一件で終わったようで、曲がり角へ差し掛かると同時に石鎚を手にした石像が姿を見せた。


「石像か。百々代と杏は様子を伺いつつ必要に応じて射線上に入らないよう足止めを。攻撃は俺と駿佑、莉子で行う、狙いは頭部だ。いいな?」

「「はい!」」

 石鎚の重い一撃こそ脅威だが、機動性に欠ける石像は遠距離を主軸にする魔法師からすればただの的。氷の矢と石の鏃がいくつも射出され、頭部を砕き石の体躯が崩れ去り土塊へと変わっていく。


「よし、こちらも問題ないな」

「三人とも素晴らしい魔法でしたっ。莉子さんの鏃石ぞくせきをしっかりと命中していましたよ!」

「そ、そうですか!よかったぁ」

「おめでとう、莉子ちゃん。練習を頑張った甲斐があるね」

「あ、ありがとうございます、駿佑様」

「然し…偵鼠ていその次に石像か。随分と歓迎されてしまったな」

「手は抜けないのでっ」

「だろうな。それじゃあ最奥まで進むとするか」

 それからは纏まった数での連携攻撃が始まり、時折縺れながらも徐々に一帆達も連携することを覚えて、敵を蹴散らしつつ最奥にある短剣を手にする。宝物殿の迷宮遺物を模しているのだろうか。


「よし。後は戻るだけだが、あちらも熱が入っているようだから妨害は厚いだろう。気を引き締めていくぞ」

「ちょっと待ってー、さっき攻撃貰っちゃったから結衣ちゃんに治癒頼んで良い?」

「ま、任せなさい!すぅー、快癒!…どうかしら?」

「大丈夫、痛みは引いたし治ったみたい。ありがと結衣ちゃん」

「当然よ!他にも攻撃以外で怪我をしたりしてもわたくしに頼みなさい、みんな」

「その時はお願いしますっ!」

 帰りも順調そのもの。石像など足の遅い獲物は後衛が、足の早いすり抜けられては困る相手は前衛が、連携の練習などしていないのに関わらず、出入り口に近づく頃には息の合った連携となっていた。


「きゃあ!鼠ィ?!」

「拙っ!結衣ちゃん!盾で守って、自分を!」

 上手く杏の脇をすり抜けていったのは偵鼠より一回り身体の大きい鼠の成形獣。授業で大きな怪我をすることがないとはいえ、大きな鼠に迫られれば怖いのは当然の事で、結衣は硬直してしまう。

(…。)

 身体を反転させて左手を脇に添え足に魔力を集中。零距離擲槍で坑道内を吹き飛び、勢いのまま鼠を膝で蹴り上げては結衣の前に立ちはだかる。


「大丈夫だよ。安心して」

「あ、ありがとうございます」

(…綺麗な青と金の瞳。わわっ)

 腰を抜かして崩れ落ちる結衣を抱きかかえて、周囲に視線を向けて無事だと頷く。

「杏、下がれ。三人の魔法で弾幕を張るぞ」

「りょーかーい」「はいよ」「は、はい!」

 三人の攻撃魔法に成形獣らは屠られ坑道内は静けさを取り戻す。


「結衣さん、立てますか?」

「こ、腰が抜けちゃって…」

「ならわたしに掴まっててください。後は皆さんに任せてもよろしいですか?」

「え、あっはい」

「流石にこの距離で追撃は無いだろうが、出てくるような任せろ。いけるだろう?」

「大丈夫だよー」「結構疲れてるけどね…」「が、頑張ります!」

「よし、なら負傷者の救護と護衛という想定で移動するか。杏が先頭で最後尾は、駿佑で」

 お姫様抱っこされた結衣を中心に、簡単な陣形を組み一同は出口を潜り抜けたのである。

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