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二六話④

 鉄蝿てつようの下部にぶら下がった銃から放たれる無数の弾丸を回避しきって、猛烈な勢いで距離を詰めるのは|百々代(ももよ)尾装びそうを建物の壁へと突き刺し、それを手繰り起点にしては僅かな窪みに足をかけて跳び上がり、六間弱(10メートル)くらいの高さはなんのその、鉄蝿を蜉蝣翅かげろうばねで斬り裂いていく。

 勢いのまま壁へと刃を突き刺して尾装と共に自身の身体を建物側面に軽く固定し、眼の前を通り過ぎていく擲槍の数々を見送っては難を逃れた相手へと視線を向け、零距離擲槍で肉薄し一刀両断、鉄蝿の部品が宙を舞い雨となる。

 天閣楼てんかくろう迷宮を本格的に潜り始めて数日。可怪おかしな身のこなしをした百々代の戦闘にも慣れてくれば、一人で敵の意識を集めつつ戦場を駆け回れる調整手に感心せざるを得ない。陽茉梨ひまり勝永かつながも広域に攻撃を展開しやすい魔法師で、普段であれば味方の立ち位置に気遣い手元を調整するのだが、篠ノ井夫妻のもとではその必要が一切なく攻撃にのみ専念できているのだ。

 長年寝食を共にした相棒相手でそれができるのならば兎も角、二人が同行を始めて日が浅い。こんなにも対応ができるものなのか不思議なくらいに思っていた。

「二つ目の右角から増援…、…くるよッ」

 二拍置き、言葉と同時に無数の鉄蝿。百々代は攻撃へ向かえる体勢ではなかったので、報告のみを済ませれば。

「まっかせてー!!」

 ガチャン、と冷却時間が終わった蜂杖うじょうを用意し終えた蘢佳が引き金を引く。目にも留まらぬ高速連射に次々と敵は蜂の巣へ変えられ地上目掛けて死の最終飛行を始めている。

駆刃くじん

 残った相手の掃除は勝永の駆刃。陽茉梨か蘢佳の物量魔法射撃から、彼の魔法で締めくくられるのがここ数日で身に付いた戦闘手法。上手く連携しあい、お互いに良い変化作用を与えられているようで何よりだ。

「ここいらはこのくらいで十分そうだねっ」

 屋台を緩衝材に着地した百々代は、軽く汚れを払いながら大まかな索敵を行って次階層への道標を指差す。

「さ、この階層も防衛官さんたちが安全に通れるよう細かな掃除をしちゃおっか」

「勝利しましたわ。起動。探啼たんてい」「「起動。探啼」」

 蘢佳だけでなく、陽茉梨と勝永にも探啼を渡して周囲の索敵を行う。天糸瓜学舎は鳥型の成形獣に強い、というのは二人にも適応されるようで、最初は僅かに苦戦していたが数度飛ばしてみれば慣れたもの、今では完全に使いこなしている。

「敵の群れを発見しましたわ、赤の信号弾を使います。起動。信号弾」

「了解っ、こっちへの誘導をお願い」

「はいっ!」

 鉄蝿は索敵用の赤い光に敵対している対象が入ることで、銃を相手に向けて攻撃態勢へ移っていく。遅すぎず早すぎない速度で移動する鉄蝿だが、一度敵を見つければ何処までも追いかけてくる執拗しつこさがあるので、その行動を相手に逆手に取り一箇所へ集めていく。

 翼を畳み尾羽で細かな軌道修正、相手の索敵範囲内に飛び込んでは忙しなく羽撃き加速しては、聳え立つ建物の間をすり抜けていく。これらの動作は導銀筒盤に刻まれた魔法陣によって組まれたもの、扱いに慣れてしまえば誰でもできるので、…とんでもない逸品だ。

 屋台と屋台の間を翼を当てないように飛行し角を抜ければ、窓枠を渡り走っていた百々代現れ。

「雷放」

 零距離擲槍踵落パイルドライバーを戦闘の鉄蝿にお見舞いし、反動を数多の雷、百万雷ひゃくばんらいへと変換して敵を焼き尽くす。

「一丁上がりってねっ」

 なんて独り言を呟いていれば、陽茉梨の操る探啼が百々代の許へとやって来て腕に停まった。

「勝永と蘢佳も発見しました。二人で一箇所に集めるみたいなので移動をお願いします」

「了解っ」

 尾装を支えに高所へと攀じ登り、大まかな方向を確かめていれば同じ場所から二つの信号弾が天を照らす。

(あそこだねっ、それじゃあひとっ走りいこうか)

 地上へと飛び降りた百々代は雷を放ちながら目的地へ向かっていく。


 百迷宮を駆け回り勝永たちが誘き寄せる鉄蝿群に向かう最中に、百々代は建物に扉が有り開いていることに気がついた。天閣楼迷宮の建造物は窓が有るものの内部には何も無く、扉が存在する場合は次階層への通路か、はずれの宝物殿のみ。

 この階層に於いて次階層への通路は既に発見されているので。

(外れの宝物殿だっ、場所を覚えと、――ッ!?)

 と視線を向けた先には、二つの白い閃光輝き八つの赤いぼんやりした光が灯っており、百々代は咄嗟とっさの判断で擲槍移動で前へと飛び出した。

 時を置かずに扉の奥からは白い閃光が光線となり放たれて、尾装を焼き切り向かいの建物は赫灼と猛烈な熱を放ちながら溶岩のように溶けている。

(………、危なかった)

 あの光線を受け止めていたならば間違いなく纏鎧は持っていかれ、身体も幾分か焼けていただろう。

 一呼吸入れ赤二つと黄色一つの信号弾を放ち、予期せぬ相手との交戦を報せ、相手方の出方を窺っていれば徐々にその姿が見えてくる。

 冷ややかな印象を植え付ける金属質な平たい体躯からは、二本の鋏と四対八本の脚、そして長く前を向く針、いや杭が先端から伸びる尻尾を持つ鋼鉄のさそりが現れた。

 胴の高さで百々代の胸ほどある巨躯ながら、移動する際の音はほぼ一切感じ取れず、まるで足を動かしてみせているだけで浮いているかのよう。パチンパチンと鋏を開閉すれば、白い閃光が輝きだし。

 ―――。

 眩い二本の光線が百々代を追いかけ回す。

蝲鋼らっこ、この迷宮で稀に現れる魔物の一匹)

 『要警戒』と張り出されている魔物で、天閣楼迷宮で命を落とす原因の一つだ。

(確か…倒すと自爆するから触媒に使える部位があるかどうかも不明な魔物だよね。鋏とか尻尾とか回収したい、ねッ。…ったい!)

 光線を避けきり鋏に蹴りを喰らわせるも、放電が起きるばかりで折れる様子はない。若干の凹みは見られるもののその程度。とんでもない耐久性である。

 パカリと尾先が花弁のように開いては、白い閃光が溢れ出てアザミの花の如き拡散型の光線が一帯を焼き尽くす。

 とはいえ焼かれたのは迷宮のみで、狙ったはずの百々代は不識ふしきで視線を切り落とし、壁を蹴って蝲鋼の真上を陣取り、零距離擲槍踵落を尻尾へ振り下ろせば強烈な放電が起こりこちらも周囲を無差別に焼く。

 光線と雷光、眩い閃光の戦いが始まった。

「起動。試作成形尾装(びそう)

 踵落としは蝲鋼の尾をひん曲げるに至ったものの、それでも曲がるに収まった相手の耐久性は計り知れない。尾装を用いた特殊な機動で数多の光線を避けながら、次の一手窺う。

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