四話③
「それじゃあまた。千璃さんにもよろしく伝えといてね」
「はいっ、ありがとうございました!」
ニコリと微笑んだ達吾郎は馬車を出させ姿を小さくしていく。
カンカン、導銀を延ばす音を懐かしみつつ工房へと顔を出せば、よく見知った職人たちが仕事へ打ち込んでいる。炉の熱気を肌で浴び、口角を上げては足を踏み入れた。
「ただいまー、みんな元気してた?」
「おっ!百々代ちゃんじゃねえか、おお、そいつが学舎の服か、こりゃべっぴんさんだなぁ!おーい、頭ぁ百々代ちゃん帰ってきましたぜ!」
「おかえり百々代!そうか、今日から学舎の休みだったか。お父さんは百々代にあえて嬉しいぞ~」
「ただいま~。着替えてきたら工房手伝おうと思うんだけど、なんか仕事ある?お小遣い欲しくって」
「仕事は沢山あるが…学舎のお友達と遊びに行く金子かい?」
「ううん、魔法莢弄りに」
「まあ、そっかそうなるよな。新しいお友達はできたかい?」
「うん。仲のいい友達ができたよ。そうそう、冬季の休みに別荘に遊びに来ないかって誘われたんだけど、行っていい?」
「別荘!?あ、ああ、いいが…ご迷惑を掛けないようにな」
「はーい。それじゃ着替えてくるねっ!」
トコトコと走り去る姿を見ては、感慨深く目を細める千璃。
「向こうのお貴族様と仲良く出来てるようで良かったっすね工房長」
「ああ、庶民だからって虐められてなさそうで本当に良かった」
「にしても、改めて百々代ちゃんでっかいなぁ。そろそろ頭も越えるんじゃ?」
「立派で何よりだ!」
「…そうですね」
(俺の身長は越えられちゃってんな、こりゃ)
―――
机に魔法莢をいくつも並べる姿に職人の一人が首を傾げる。
「そういや百々代ちゃん、いつも沢山並べて一気に検品してるけど、どうやってんだい?」
「ああ、これはね伝導の魔法莢を使ってるんだよ。コレ。この魔法莢に流すと周囲の魔法莢にも魔力が伝播する仕組みになっててね、沢山検査する時に便利なんだ」
「へぇ、そんな物が有ったなんて初耳だ」
「わたしの自作品なんだよね。ちょっと扱いが難しくてさ、条件起動で魔力を流し込めば起動するよ」
やってみなよ、と場所を空けて手で指し示す。
「オジさんに出来っかねえ。……。…あー…うっ…こりゃ難しい」
「魔法の形状変化を指標無しでやらなくちゃいけなくてね、昔にやっていた魔法操作の延長なんだけども、…普通にやった方が楽だよ」
肩を竦めつつもテキパキと検品作業を始めて木箱を積み上げていく。
「こりゃ早え、んじゃオジさんは木箱を運んでくるかね」
「よろしくっ」
(非形成魔法の視覚認識化。肉体強化の延長みたいな形で眼を強化することで出来たりするのかな。…うーん、検品作業に役立ちそうはないね。……そういえば前世の力って肉体強化で再現でき…てもなあ。再現できそうで役に立つ眼なんてあるかな。視線を視る赤、浮き渡る黄、意思伝達の緑、時狂わせの紫、化ける銀、昔漁る黒…肉体強化で出来るのなんて赤くらいかな?相手の見ている先を認識できるのは便利だけど…別に)
そもそも再現不可能な超常の力に見切りをつけて、黙々と検品をしながら作業の役に立ちそうな魔法を模索していく。
(こうやって色々と考えるのは楽しいし魔法の開発、研究なんかもいいよねっ。熱いのはやっぱ迷宮管理局だけど。迷宮に発生する魔物を倒して、外に出ないよう管理する!資源迷宮なら世の中で役に立つ物資も手に入るし、迷宮主を倒せば迷宮遺物が生じる可能性もある!…はぁ、ちゃんと迷宮管理局に入れるかな)
「ん?出が悪い、接触不全かな」
手早く解体し導銀筒盤と触媒の接触を確かめ、外莢を掃除していく。
「不良かい?」
「うん。多分、接触不全かな。綺麗にしてはめ込めば…大丈夫だねっ。一応後で検品しといてよ」
「あいよ。百々代ちゃんがいると検品作業が一瞬で終わっちまうな」
「魔法を使うのは得意だからね」
数日掛か検品作業を片付けては、鍛錬にと百々代は忙しなく動き回る。
―――
数日して、商会への納品を終えた百々代はいつものように雑貨屋へと向かい、埃っぽい空気の店内へ足を踏み入れた。
「あー、いらっしゃい。百々代か、どうだ学舎は、学べることは多いか」
本を読んでいた店員は、頁を閉じて頬杖そ突きながら視線を向ける。
「ちわー。入学したばかりだから全然だよ」
「まあそんなもんか」
「そういえば上手く行ったよ、自作の纏鎧と擲槍」
「あ?マジかよ、あの装甲で覆って槍の衝撃でぶっ飛ぶ頭のおかしい戦闘法が、か?」
「うん。実技教師の成形獣を一器潰せるくらいには。颯狼ね、相手は」
「おめでとさん、と言いたいが。…まあいいかおめでとさん」
「ありがとさん。でも脚の装甲は大きく削れちゃうし、周囲への影響も考えるとちょっとねえ」
「あー…そういうのは追々詰めるしかないわな」
「うん。なんかいい感じの素材は入ってる?」
「今のところ微妙。確かな情報ではないが…、いくつかの迷宮が構造変化と再胎で時化てるっぽい」
「再胎って首魁が再度現れるっていう?」
「ああ、そうだ。まだ習ってないのか?」
「それとなくはよしみ先生から。迷宮学の授業はまだ先だね、魔法の基礎を振り返ってるところだし」
「あー…そんな話なんだな。並んでる品が殆どで、安茂里工房でも用意できる品が精々だ」
「そっかぁ、…あ、棘鹿角っ!これ幾ら?」
「棘鹿角…あー、有ったな。てっきり知ってるかと思ったが、仕入れたのは百々代が入学した頃だったか。いいぞ、入学祝いにちとおまけしてやる、一分《10パーセント》引きだ」
「わあ、太っ腹っ!これからも贔屓にするね」
「頼むぜ、常連さん」
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