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二六話②

「おまたせしました。本日から赴任する巡回官二名と天糸瓜学舎の生徒二名、そして魔法莢研究局局員一名、従者二名であることが確認できましたので霞草かすみそう街への立ち入りを許可いたします。こちらが許可証となりまして、天閣楼てんかくろう迷宮への入場許可にもなっております。霞草街の迷宮は他と違って管理区画がないのであまり関係ありませんが」

「霞草街が管理区画そのものなんでしたっけ?」

「はい、そうですね。天閣楼迷宮の管理及び天糸瓜大魔宮の観測地点となっております。当街内の宿舎や飲食店は許可証と身分証を提示いただければ無料でご利用いただけますが、物資の購入には金子が必要となります。そして管理署は迷宮管理局同等の手続きや案内も行えますので、ご不明なことがありましたら管理署までご足労お願いいたします」

 検問官に礼を伝え、一同は莢動車へ乗り込んで霞草街へと入っていく。

 立地的には田舎なのだが農耕地は存在せず、暇を潰すのには困らない店舗の数々を目にすれば中々に過ごしやすそうな場所である。…動き始めた天糸瓜大魔宮の事を考えなければ。

 霞草街及び侯爵直轄地は高い標高に位置する場所で、周囲全景を山で覆われた陸の孤島。入るには検問を通るか山を超える必要があり、前者は兎も角後者は港防軍が山岳警備隊として配備されているので、そうそう不法に侵入することは敵わない。

 山間道は丁寧な舗装がされており、整備は島政省の天糸瓜侯爵持ちなので、そこらの街道よりも走りやすいのだとか。

 莢動車で走っていれば、そこらかしこから好機の瞳が向けられて、ああかこうかの小さな賑わい。人の出入りは少ない場所だが、商人が他所の情報を運んでくるため、莢動車そのものの話しは伝わっているらしく、面白がって視線を向けているのだ。

 そんなこんなでいくつかある宿舎の内、部屋の空いているらしい宿舎へ駐車して荷物を下ろしていく。

「こいつが莢動車ってやつかい。天糸瓜港で噂になってるっての」

「はい、そうですよ。黒姫工房産の試験車です」

「ふぅん。あんたら新顔だろ、巡回官の一行かい?」

「そんなところです。巡回官が――」

 簡単に篠ノ井(しののい)一行の説明をしていれば、男は目を丸くしながら驚いて、腕組みしては首を傾げてしまった。

「上からの依頼とはいえ新人四人みたいなもんか、随分と実力を買われてるんだな」

「えへへ、買い被りにならないことを祈るばかりですっ」

「なんか困った事があったら相談してくれ、こっちも巡回官の一人で。ああ、自己紹介を忘れてた、いけねえいけねえ。髪文字苔かもじごけ男爵の湯谷ゆたに忠岑ただみねだ、宜しく」

金木犀きんもくせい伯爵家の篠ノ井百々代(ももよ)です。彼が夫の――」

 と一同を説明していけば、長野ながの、篠ノ井、姨捨おばすてと有名な家々の出身である事に驚いて、同時に納得もしていく。長野陽茉梨(ひまり)と姨捨勝永(かつなが)の名は、天糸瓜領近辺で迷宮管理局に属する者であれば聞いたことのあるものだ。

 その二人を任されているのだから、篠ノ井夫妻も相当なのだろうと頷いていく。

「そういえば天閣楼迷宮はどんな様子なんですか?活性化が起きている、とは説明を受けましたが」

「ちっとばかし敵が強くなっているだけだ。元より此処に赴任する巡回官や防衛官てのは、迷管から実力を認められている奴だけってのもあるが、多少の変化なら十分に対処可能なんだわ」

「それもそうですよね」

「ただまあ、階層が多いから人手が居て困ることはねえ。歓迎するぜ」

「はいっ、よろしくお願いしますねっ」

 挨拶を終えて百々代は荷物である家鞄を運び込むため、肉体強化を起動した。


「そうそう、二人に紹介したい人がいてね。うちの三人目なんだけど」

「三人目ですか?」

「迷宮を潜る際のねっ。起動。蘢佳ろか

 起動句を終えれば仮面を着けた人型の成形獣。成形体の蘢佳が現れてぺこりとお辞儀をする。

「手前は自立型成形獣の蘢佳だよ、よろしくね!」

 声は百々代っぽくあるのだが、落ち着きのある彼女とは対照的に賑やかな蘢佳。自立型成形獣という言葉を飲み込みながら。

「よろしく。私は天糸瓜へちま侯爵家の長野陽茉梨よ」

「自分は芥子谷からしのたに子爵家の姨捨勝永です。よろしくお願いします」

「よろしくね〜!」

 久方ぶり、それこそ襲撃事件以来の起動なので、元気いっぱいに成形体からだを動かしている。

「ねえ一帆!買ったんでしょ迷宮遺物!早く早く!」

「急かすな。家鞄かほうに放り込んであるから少し待ってろ」

 一帆が迷宮管理局天糸瓜本所で競り落としていた迷宮遺物。蘢佳が実力を付けた証左とご褒美の品を、未だか未だかと待ちわびる。

「蘢佳は迷宮遺物の扱うの?」

「そうだよ、中距離の攻撃手とかそんな感じ。へへっ、迷宮内ではかっこいい所見せちゃうんだから」

「てっきり百々代さんみたくバリバリの近距離系かと思いましたが、魔法射撃での戦闘を主にするのですね」

「近距離も試したんだけど全然でさー、そもそも百々代と武狼ラクエンで十分でしょ?」

「ラクエン、…あーあの人型成形獣の。言われてみればそうよね、前は十分に堅そうな布陣よね」

「百々代さんって…二基も成形獣を扱うのですか?」

「蘢佳は自分で考えて動くからわたしが動かすのは武狼だけだよ。そうそう、蘢佳は一人って扱ってくれると嬉しいかも、大事な仲間なんだ」

「そうでしたか、すみません!」

「手前は気にしないよ」

 なんて話しをしていれば家鞄から一帆が出てきて、手には長さ三尺五寸(105センチ)程の黒光りする、ズッシリとした大きな銃型の迷宮遺物を担いでいた。

「…なんか思ってたのと違うんだけど。手前は両手に一(ちょう)ずつ迷宮遺物を構えて戦いたいっていった、よね?」

「ああ、言ってたな。だが左手は接触起動の擲槍や障壁に用いるのだから、似たような迷宮遺物が二つあっても有効活用するのは難しいと考えてな。用途の違う迷宮遺物を用意したんだ」

「相談してほしかったよ…」

「出す機会がなかったのだから仕方あるまい。まあ落ち込むな、これもこれでしっかりとした代物なのだから」

「そうなの?」

「名は、ごう蜂杖うじょう。ここに魔法莢を嵌め込むことができて、引き金を引き続けると絶え間なく魔法が連射される。しかも、なんとだな、これは甲級品で連射速度が速いままで、威力の減衰が最低限に抑えられているのだ」

「おおー!!なんかすごそう!」

 よくわかっていない蘢佳は一帆の説明に胸を躍らせております、中々に単純な性格である。

「これ結構したんじゃないの?」

「迷管務めの給金は全て注ぎ込んだ」

「わぁー」

 百々代も驚きである。

 迷宮管理局に務めて稼いだ金子は好きに使っていい、と彼女は一帆に伝えているので野暮なことは一切は言わないのだが、豪快な使い方だなぁと遠い目をしていた。

「これが轟の蜂杖ですのね。初めて見ますが随分と重そうですわ」

「見た目通りの重さで、確か…二貫(7.5キログラム)だったか。運搬する際に重く荷物になるから、疲労を感じることのない蘢佳に適した装備だな」

「「なるほど」」

 感心した声色の蘢佳は既に機嫌を直しており、轟の蜂杖に興味津々といったところ。

「使うのは迷宮に潜ってからだからな」

バレ(わかったよ)!」

 軽々と蜂杖を持ち上げては、部屋の一角で楽しそうに手入れを始める蘢佳であった。

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