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二五話⑪

「んん~、」

 学舎の即席避難区画にて夜を過ごした百々代(ももよ)は、「久々に一人で眠ったなぁ」なんて考えながら伸びをする。

 少し出歩いて避難区画を確かめれば、多くの女生徒が眠っている姿を確認でき、彼女たちが眠れている状況に安堵した。…昨日の今日で未だ実感の湧いていない子も多いのだろうが。

 身分証を提示して区画の外へと移動し、朝の風に当たっていれば女性が一人近寄ってきた。

「おはようございます、篠ノ井巡回官」

「はい、おはようございます」

 にこりと微笑んだ彼女は名乗ることなく、懐から書簡を取り出して百々代へと手渡し、中身を検めるのを待っている。

 中身は天糸瓜港内に潜伏する敵性勢力への襲撃、その協力要請である。昨日から本日の未明にかけて、相手方の潜伏地が判明したとのこと。

 逃げられる前に討ちたいようで、天糸瓜侯爵の長野紀光が有力な魔法師に加勢依頼を出しており、その内の一人が百々代というわけだ。

「現在港防軍が包囲網を敷いており、篠ノ井巡回官が参加していただけるのであれば逃走経路での待伏せをお願いしたい、とのことです。場所はこちらに」

(わたしが記憶を浚った地点より細かく指定されているし、夜の内に調査を終えたんだ)

「承知しました、参加します。どこへ向かえばよろしいのでしょうか」

「集合地点は―――」

 場所と時間を教えて、一礼を終えた女性は学舎を後にする。


「わたしは港防と合流し復興活動に参加しようと思うので、これで失礼します」

 よく見慣れた(一帆の)筆跡で書かれていた偽の筋道を述べては、一晩世話になったので礼をする。

「改めて篠ノ井百々代巡回官の助力に学舎の代表として感謝を述べさせてもらう。有難う」

「人として当然の事をしたまでですよ。困った時は助け合いですから」

「…。助かったのだよ、本当に。秋からは早期試験を終えた生徒二人の引率を頼むことになると思うが、そちらもよろしく頼む」

 金木犀きんもくせい魔法学舎の出身だから、と目の敵にしてきた学舎長だが、毒気のない百々代の様子に今までの感情など途端にどうでもよくなって、陽茉梨ひまり勝永かつながの二人を任せることにした。

「そうだ、教師章っ。副学舎長への返却をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「…、それは篠ノ井百々代巡回官に預けます。巡回官としての仕事を引退し、生徒へ迷宮学や実技を教えたい、と思ったら足を運びなさい。学舎長が変わっていても取り計らうように指示を出しておく」

「ありがとうございますっ。幼い頃に教鞭を執ってくれた恩師のように、勉学の手助けとなれる職にも憧れがあったので、是非にも訪ねたいと思います。では」

 教師章を握りしめ百々代は走り去っていく。

(良い縁を紡げたか。…、この歳になっても物を学ぶとは思わなんだ)


 少し早めに移動を開始した百々代は、道中で困っている人の手伝いなどを軽く行いつつ目的地に到着。時刻は丁度。

 細かな作戦は伝えられていないので、港防の軍人やらがいるはずだと探していれば。

「来たか百々代」

「百々代さん、おひさ〜」

 一帆と叢林そうりんが近くの建物から姿を見せた。

「一日ぶりだね一帆、それにお久しぶりです叢林さん。…わたしたち三人で逃走経路の対処を?」

「百々代の全力を出すには味方の数は多くないほうがいいだろう?」

「そういうね。この戦力なら大体の相手には対処できるし問題はない、のかな」

「市街地での戦闘から考えれば戦力過多な気がしますが、追い詰められた獣は恐ろしいと相場が決まっていますから」

「そうだな。…ここ以外にも少数で動ける精鋭が張っているが、逃げる際の最有力とされている場所がここで、最少で最大の戦力を配置するため俺たちなんだと」

「随分と実力を買ってもらっちゃったみたいで」

「こっちは第三王子の護衛と撤収援護、百々代は半ら単独での天糸瓜学舎の鎮静化。当然と言えば当然だがな」

「一帆と叢林さんで海良かいらさんに合流したんだ。結衣ゆい姉とはやて蘢佳ろかは?」

「無事だ。結衣は医務局の応援に、颯と蘢佳は侯爵邸だがそろそろ黒姫家に帰る頃合いだろうな」

「良かったぁ」

「ふむ。そういえばこっちの情報を知らずによく俺宛の手紙を出せたものだ」

「黒姫家と迷宮管理局、侯爵邸の三箇所に出しただけだよ。侯爵邸に出したのは、この状況なら一帆は何かしら動いているだろうし中枢に組み込まれてるかなって。それに颯が無事なら側妻の颯に渡って、関係ない人から中身を見られることもないかなってさ」

(思い切ったことをするね。独自の情報網も持っているみたいだし、港防こっちに勧誘できないのが惜しい)

「あっ、わたしが手紙を出したって言ってよかったの?」

叢林こいつは口が固そうだから問題ない。仔細は話してないが、余計なことをする為人ではないさ」

「へぇ、仲良しさんだ。よろしくお願いしますね、叢林さん」

「はい、よろしくお願いします。ところで、同年代だし気軽に話しませんか?公開試合で干戈を交えた仲ですし」

「いいねっ。えへへ、よろしく」

 軽く握手を交わして三人は配置につく。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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