二五話④
「どうも、はじめまして篠ノ井颯だ。よろしく頼むぞ、百々代くんの姉上」
「はい、はじめまして。百々代の義姉の西条結衣よ」
あれこれ魔法莢弄りに熱中していた二人だが、息抜きくらいしろと黒姫工房から追い出され、結衣を呼んで天糸瓜港へと遊びに出ていた。
「そうだ、結衣姉に合歓里街に行ってきたお土産の蜂蜜。美味しかったよ」
「あら、ありがとう。蜂蜜は美味しいだけでなくて美容効果もあるのよ、お肌がきれいになるなんて素敵じゃない?」
「へぇ、顔に塗ったりするの?」
「食べるのよ…普通にね」
「「へぇ」」
あまり関心のなさそうな返事に溜め息を吐き出し、二人の肌を確かめてみればやや手入れ不足を感じ取り、手入れ用の品々を買いに向かっては店員と共に使い方を教え込む。
百々代と颯は出先でも手入れをしてはいるのだが、簡単な手入れで終わっているので、毎日努力を欠かさない結衣と比べれば大きな差である。
「治癒系の魔法で維持できたりしないのかな?」
「聞いたことはないが、難しいのではないだろうか。怪我を治すのと状態を維持するのでは別物だからな」
「…。」
揃いも揃って馬鹿二人。店員は苦笑いをして、結衣はげんなりとしてしまっていた。
「そもそも治癒魔法は患部の自然治癒を促進させて傷口を塞ぐの。そして美白美容液なんかは、降り注ぐ陽光から肌を守るためにあるものなのよ。日焼けすると染とかができるでしょ。…それだけじゃないのだけれど、貴女たちは理解しなさそうだしいいわ」
「おぉ、流石百々代くんの姉上、医務局員ということもあり治癒等に詳しいのだな」
「猛勉強したから当然よ。…というか貴女たちが詳しくないのが意外よ」
「知識として基礎としては知ってるよ。ただ美白云々を知らなかったなぁ、教えてもらってよかったよ」
「吾も知ってはいるが詳しくはないな、快癒の魔法莢は医務局傘下の工房が主でこちらでは請け負っていないのだ」
なんともまあ、考えの基本が魔法の二人。
「まあいいわ、しっかりと手入れをするのよ二人共」
「わかったよ」「了解した」
「さあさあ甘味を食べにいくわよ、二人共!」
「「おおー!」」
―――
ふわっふわな焼き菓子にたっぷりの蜂蜜がかけられた甘味を口にしながら、幸せそうな三人組。香りの良い冷茶で喉を潤しながら、夏の午後を過ごしていく。
「てっきり一帆さんが女の子二人を侍らせているかと思ったら、颯さんは百々代が目当てだったのね」
「一帆くんは嫌いではないが、そういう対象には思えないな」
「へぇ、顔と性格と家柄がいいわよ、あの人。…百々代しか眼中にないけれど」
「百々代くんが特別なのだ」
「えへへ〜」
「モテるのね、百々代…」
「結衣姉はどう?好い人見つかった?」
「悪くない人はいるのだけど、決め手に欠けるのよね」
「そうなんだ。紹介できる人とかいるかな?」
「莢研の局員でいいなら紹介できるぞ。吾はそれなりに顔が広いからな!魔法莢関連ならば!」
「研究職ねぇ…」
結衣の知る魔法莢関連の人物は二人が二人そこそこの変わり者である。どんなのが来るのか考えれば、あまり気が乗らないのが真実で。
「莢研の男衆は出会いがないのだと嘆いていることが多いみたいでな。食事会みたいな場を設けてみてはどうだろう。独身者のみの参加で」
「それは良いわね。…医務局はそれほど悲観的でもないけれど、いい刺激になるかもしれないわね。ちょっと声をかける人数が未だわからないから、また連絡を送るわ」
「了解した。吾の兄、藤華宛に出してくれれば細かな準備もしてくれると思うぞ」
そう、立案者ではあるが兄に投げる気満々なのである。
「ならわたしは一帆に一言伝えとくね。今は迷管勤めをしてるから」
「結構大所帯になりそうね。…独身同士の社交会は」
その後、男女問わず独身者のみに限った社交の会が、魔法莢研究局、迷宮関係局、医務局の魔法省三局で行われたのだとか。
「そういえば百々代ってまだ子供は作らないの?」
「予定はないかも。迷宮の活性化で忙しいし」
「それもそうよね。医務局員も引っ張り凧みたいだから」
「やっぱ大変なんだ」
「私達も早めに勉強過程を切り上げて、現地で経験を積ませようって動きもあるみたいよ。活性化なんて早く終わって欲しいものね」
「そうだね。その方が平和になるし」
「ふむ、百々代くんと一帆くんの子供か。将来有望そうな組み合わせだな」
「三人で夫婦なんだし、颯の子でもあるんだよ」
「そ、そうか」
(こういうところよねぇ)
紅潮する颯を見ては、結衣は納得していく。
「どちらに似ても当たりよね。才能も受け継がれれば尚良いのだけど」
「えへへ。子供が出来たら、無事に産まれてきてくれて、健康に育ってくれればそれでいいよ」
「百々代らしいわね」「百々代くんらしいな」
三人は甘味を食べ終えて食器を置く。
「さあ買い物にでるとしましょ。秋物の服なんかも欲しいのよね」
「触媒なんかもみたいかも、掘り出し物なんかがあればいいんだけど」
会計を終えた三人は店を後にするのであった。
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