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二五話③

 社交服に身を包んだ百々代(ももよ)一帆かずほはやてと並んで、木操もくそう莢動車きょうどうしゃ発表の会場へ赴けば来場していた者らは三人に視線を向けては挨拶へとやってくる。

「お久しぶりですわね、百々代さん。夜空を映したような綺麗な衣装、お似合いですわ」

陽茉梨ひまりさんお久しぶりです、学舎以来でしょうか。仏桑華ぶっそうげも羨む赤に、細かな意匠の装飾、よくお似合いの衣装ですね」

 誰よりも早く、カツカツと靴音響かせてやって来たのは陽茉梨。学舎の生徒で魔法莢研究局との関わりがあるわけでもない彼女は、紀光ことみつの力を使い半ば無理矢理に参加してきたのだ。

 まあ別に問題ないのだろうか。

 三人は一旦別れ、挨拶の対処を行いつつ人が揃うのを待っていく。

 百々代の許へやってくるのは主に港防関連。主には放散型ほうさんがた纏鎧てんがいについての続報が欲しい、揃えられる戦力を揃えたいと考える者達。戦となれば軍人が命を賭して戦うことになり、その命を守れる纏鎧技術は重要視されているからだ。

 一帆へよってくるのは政関連。一応は金木犀きんもくせい伯爵はくしゃく家の長子、嫡子が弟の英二と決まり、本人がどう考えていようとも、誘蛾灯ゆうがとうに惹かれる者は多い。

 最後は颯。彼女に関しては魔法莢研究局の面々が殆ど。莢動力船や莢動車を生み出したのは颯であり、なにか情報を得たくば足を向けるのは当然の結果であろう。

 賑やかしていれば第三王子の海良かいらが会場へ訪れて、華風かふうを中心とする黒姫くろひめ家、そして篠ノ井(しののい)夫妻へと挨拶にやってきた。

「百港王家の第三王子、高崎たかさき海良じゃ。このような催しに呼んでいただき感謝頻り、面白い発表を楽しみにしておるぞ」

「お初にお目にかかります。金木犀伯爵家の篠ノ井一帆と、妻の百々代と颯です。妻が制作に携わった莢動車、海良殿下のお気に召す者であればと思っております」

 慇懃いんぎんに頭を下げて、礼を欠かない挨拶を行う。

「ほほう。篠ノ井夫妻の噂は色々と耳に届いておってな、時間があったら色々と伺いたいのう」

「話し程度であれば何れ」

「では儂は」

 王族ということもあって忙しい身だ、簡単な挨拶だけを終えれば次の者の対応へと移っていく。

 海良への挨拶が終りを迎えた頃を見計らい、木操莢動車が庭に入ってきて会場の一同はぞろぞろと窓際までやってくる。発条の心臓機を用いた莢動車と比べればやや速度に劣り乗れる人数も限られるが、それでも馬無しで軽快に走る様子に歓声が上がり始める。

 既存のものより車体が小さくなり。積載量が半減したので乗員は四名から二名へ。そして速度は襲歩の半分程(時速35km)、遠出をする為の乗り物というよりかは市街地で運用する代物であろう。藤華は「軽莢動車」なんて呼び名を即興で発表していた。

「すみませーん、版屋なんですけど質問いいですかね?」

「どうぞ」

「黒姫工房がこの軽莢動車なるものを販売しだすとなれば、天糸瓜港馬車組合が黙っていないと思うのですが、正面から対立するお心算でしょうかね?」

「ははは、そんな愚かなことはいたしませんよ。既に組合とは話し合いを終えていまして、こちらから一部の工房へ車体の製作を下ろすことで協力関係を取り付けました」

(莢動車の勢いが強まれば姿を変えざるを得ない組織です。手を差し伸べて上げたことには感謝してほしいのですがね)

 爽やかな笑顔で記者へと返答を行い、他の質問はないかと逆に尋ねていく。

「そうですねぇ、一台辺りの金額は如何程になる予定ですか?」

「先ずは七、…いや六五〇〇〇()前後で事前にご購入の契約を結んでくれた者からの限定販売となります。売れ行きが良く幅広く展開出来るようであれば値段も下がりましょう」

「そうですか。最終的には市井にも、と?」

「ええ、勿論」

「なるほど、ありがとうございました」

「好い記事を期待していますよ」

 そして会場に足を運んだ者らは順々に試乗していき、試乗感などを口々に語り合っていく。


「はっはっは、座席は狭くあったが乗り心地は悪くないのう」

(こちらに移り住むのなら購入も視野にはいるか。…いや、護衛の付け難くあるがそのあたりはあやつらなんとかしてくれるはずじゃな)

「よし、先ずは儂が購入の名乗りを上げよう!」

「おお、これはありがとうございます、海良殿下」

 大蕪の王族が率先して購入の名乗りを上げたということで、会場の者らも口々に購入を検討するかのように話していく。

(これは渡りに船。何をするにも金子は必須、多くの契約が取れると良いのですが)

 頭で算盤を弾いては黒姫工房の利益を算出し、表情を変えない程度に北叟笑ほくそえむ。


 莢動車の発表は恙無つつがなく終わり、百々代は寝台に倒れ込んでは思い息を吐きだしていた。

「学舎の頃ならまだ慣れてたんだけど、ここ最近は機会が少なかったから疲れたよ…」

「吾もだ…」

 そう、颯も一緒に。

「二人はひっきりなしに話しかけられていたから当然か。俺はある程度の縁作りを出来たから満足のいく結果だが」

「吾は元々知り合いが多かったからそういうのはないな」

「わたしはちょっと…」

 百々代は颯の膝に頭を乗せて、曖昧な笑顔で名前と顔の整理を行っていく。今後も顔を合わせる可能性のある相手だ、対応を間違えれば面倒なことになりかねない。

「ふぁ、今日はこんなところでいっか。金木犀貴族を覚えるのもそこそこに大変だったけれど、天糸瓜貴族を覚えるのも大変だね」

「流れで覚えられるものなのだがな」

「吾も流れで覚えているな。百々代くんは市井暮らしが長かった影響だろう」

「わたしは実質的に一四歳からだし、少し出遅れてるんだよね。社交に顔を出してから少しして姿を隠しちゃったから」

「ふっ、ゆっくりやればいいさ。黒姫工房のある天糸瓜港は滞在する機会も多くなるのだからな」

 夏場ということもあり百々代のじゃれつきをやや熱く感じる季節、冷気の魔法莢で室温を快適に保ちながら三人は就寝をする。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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