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二五話②

「木を強化する魔法かぁ、なるほどね」

「そう、新しい木材を探すのも大事ではあるが、既存のものの硬度を高められる魔法を製作すれば、現状の莢動力きょうどうりょくに新たな光が差すのではないかと思ってな」

「でも強化って、どうしたらいいんだろうね。木材に纏鎧てんがいを展開するとか?」

「木材に纏鎧を、なぁ。百々代(ももよ)くんなら遠隔対象へ纏鎧を起動する魔法陣も描けるだろう?」

「出来るけど、簡単な素材で仮組みしてみよっか」

 ウミネコも日陰で涼む夏の昼下がり、黒姫くろひめ第一工房にやってきていた百々代とはやては魔法莢の準備を行う。

 幾人かの職人は百々代の手元を覗き込んでは、精緻せいちな魔法陣を見て「仮組み…?」と首を傾げていく。

 そこから不要な部位を削ぎ落としては導銀へと彫り込んでいき、六角に変形させては触媒と共に外莢がいきょうへ挿入する。職人顔負けのお手並みに、本職の彼ら彼女らも腕組みで頷いていた。

 百々代の魔力質が低ければ、魔法莢の職人として黒姫と、魔法莢研究局と関わっていたのだろう。

「起動。纏鎧」

 十八番たる自身意外に纏鎧を用いる魔法とその魔法陣は問題なく起動し、木材を薄く覆っては耐久性の強化を行う。

「強度は…十分。金属系の素材に近いくらいの性能は有しているな」

「問題は現状の莢動力の器構へ組み込めるかどうかなんだけど」

「それは実際にやってみる他ありませんね!」

 職人たちもやる気のようで、数日掛かりで試験用の船舶に積み込むことになる。結果としては推力不足で、水を掻き重い船体を海上で滑らせることは難しいという結論に落ち着いてしまった。

「やっぱり発条はつじょう心臓機しんぞうきが必要ということですね」

 なんて落ち込む職人たちであるが、転んだままでいないのが百々代と颯。

 「莢動車なら使えそうだなぁ」と考えた二人は、莢動車の設計図を写してはあれやこれやと話し合って動力部を完成させたのである。

 一帆は大いに喜んでいたとか。


 報紙での簡単な報告で終わらせようと、そそくさ次のあれこれへ進もうとしていた百々代と颯なのだが、そうは問屋、…ではなく藤華とうかが許すはずもなく。大々的な発表を行う為に予定を詰め込んでいく。

 そうなると莢動車に興味関心を寄せる者、そして利益になるかどうかの品定めをしたい者などが接触を図るわけで。迷宮管理局勤めをしていた一帆は、毎日毎日辟易した表情で帰宅する。

「なんせ莢研内や数歩譲って魔法省内の者なら理解できるのだが、外部からも待ち伏せみたく寄ってこられては迷惑千万他ならない…」

「大変だねぇ」

「はっはっは、慣れですよ慣れ。百々代さんと颯を妻に持った以上、避けれぬ道ですからね」

「はぁ…、そうですね」

「そうそう、今回の発表を兼ねた社交には、現在天糸瓜島視察の名目で滞在している第三王子殿下もお越しになるから、失礼のないようにね、颯」

「流石に侯爵こうしゃく様と王族くらいには敬意を払うさ」

「第三王子殿下ですか、高崎たかさき家の…」

「高崎海良(かいら)様ですね。次期国王により近いお方ですよ。…とはいえ、故に疎まれて天糸瓜島視察なんて名目で、こちらに飛ばされたみたいですが」

「大変なんですね」「大変そうだな」

 百々代らが他人事なのはまつりごとに関心がないからだけではなく、大蕪おおかぶ島で王が誰に決まろうが、天糸瓜島には関係のないのが大きい。

 天糸瓜へちま島及び平豆ひらまめ群島は自治を認められており、それは国王でも揺るがすことができない。

 国の法、そして信ずる三天魚さんてんのさかなは同じでも、海で隔てられているが故に二島一群島は各々が国という感覚が抜けないのだ。

(プレギエラの動きもそれなりに関係のあることなのだろうな。大陸国が攻めてくるのであれば、大蕪と平豆も他人事ではないのだろうし)


―――


「プレギエラの暗躍に、天糸瓜大魔宮の再動。難儀じゃのう」

大蕪おおかぶ侯爵こうしゃくの立ち位置に陰りが出たのも中々に難儀とは思いますがね」

「先代は優秀で世話にもなっとったから、多少の問題であれば大目に見て抱え込んどったのが災いしたわい。…はぁ」

 お互い苦労が絶えない二人が、示し合わせたかのような溜め息をしている。青い髪を揺らす三〇前後の男が第三王子、高崎海良。そして話し相手は紀光ことみつだ。

「国庫から金をくすねて賭博三昧、良い気になって口を滑らせた相手が第一王女の息の掛かった相手。後は叩けば埃が出るわ出るわのお祭り騒ぎ、…今まで隠蔽は上手くやっとったのに何故口を滑らせるのか…」

「ご愁傷さまです。大蕪侯爵家の今後は如何に」

「妻が侯爵を次いで、あやつは謹慎じゃよ。今生のな」

 派閥の長である海良が自身の持つ個人資産から埋め立てて、視察という名目で左遷のような形となってしまったのだ。

 即位するまで隠し通せれば如何様にも対処できたのだが、残念ながら時の運がなかった男、それが彼である。

「とりあえずはプレギエラに対して睨みを効かせるため、そして大蕪島から増援を呼びやすくする為の駒じゃな、儂は」

「いっそのこと屋敷でも建ててこちら移住なさっては如何ですか、海良様であれば大歓迎ですよ。…他の王族の方々はお断りですが」

「昔なら冗談と割り切れたが…悪くないかもしれんのう。儂の派閥も大幅に動いてしまった故」

「こちらに同行くださるのは、棕櫚しゅろ伯爵はくしゃくの御子息と葉鶏頭はげいとう子爵ししゃくの御子息あたりでしょうか。大陸のことも考えると護衛の名目で大蕪港防軍を予算付きで引っ張って貰えれば嬉しいのですが」

「それくらいならできるじゃろう。第一第二も儂がいなくなれば王座により近づく、大喜びで暫くの予算をつけてくれよう」

「おや、冗談で申したのですが」

「冗談でいえたならよかったのじゃがなぁ」

「畏まりました、それではお屋敷の準備を致しましょう」

「ああ、頼む」

 本当に大きな痛手を受けた海良は、酒を飲みながら窓の外を眺める。

「そうそう、お忍びで港を見て回る件なのじゃが、あれはどうなった?」

「問題ございません。天糸瓜島は歩き易いと思いますよ」

「はははっ、王権が弱いからの!第一第二が毛嫌いするのも理解出来よう」

「王族の海良様ご自身で言わずとも…」

「事実は事実、仕方あるまいよ。儂的には上位貴族程度に扱ってくれる天糸瓜は楽じゃ」

「それならばいいのですが。天糸瓜うちの気風は変わりませんから」

 からから笑う海良に、苦笑いの紀光であった。

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