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二五話①

 余裕もあることだ、と天糸瓜へちま港へは大回りで移動をする篠ノ井(しののい)一行。

 運転手を務めるのは金髪碧眼の美青年、篠ノ井一帆(かずほ)。そしてその妻である赤茶色の髪を揺らす糸目の百々代(ももよ)に、名目上は彼の側妻で黒髪に黒縁眼鏡を掛けた黒姫工房の工房長を務めるはやて。工房長の侍従として同行している三才さんさい虎丞こすけの計四人が、莢動車きょうどうしゃに乗って移動している。

 海岸線を走っている彼らが盛り上がった岬を抜ければ、一望できるのが蕪瓜海ぶかかい。天糸瓜島と大蕪おおかぶ島の間に広がるそれなりの広さがある海だ。百港国ひゃっこうこくとして二島一群島が一国になる前では、大蕪島と天糸瓜島の主戦力がしのぎを削っていた場所でもある。

 とはいえ大陸が一つの大きな国となり、船性能と造船力が上がり島同士でやり合っている暇がなくなり、当時の大蕪王国おおかぶおうこく天糸瓜連邦へちまれんぽう平豆ひらまめ王国連合おうこくれんごうに呼びかけて、百の港を有する国、百港国を樹立。蕪瓜海は平和な海域となっているのだ。

 「何処どこが主体になるか」という揉め事があったものの、対大陸国からの脅威から遠く守り易い大蕪島を代表へ。大戦が落ち着いてからは、二島一群島が各々自治権を持ち、運営していく地方分権化へと切り替えていった。

 当時、何故に中央集権にしなかったか。なんて証拠は既に歴史の波に拐われてしまい、様々な説が語られているのだとか。

 そんな歴史と蘊蓄うんちくが終われば、蕪瓜海には豪奢な装飾のなされた帆船の船隊が海上を滑っており、帆に描かれた百港王家の王章を目にすれば。

「王家の船だ、初めて見たよ」

「王家がこちらに来るなど珍しいな」

 と百々代と颯が感想を述べる。

 一帆は車速を落として一時停車、視線を彼女たちの見る方へ向ければ王家の船隊。

「本当だ。珍しいこともあるものだ」

 一言呟いて莢動車を走らせる。

 そう、元々天糸瓜連邦には王家が存在せず、百港国樹立から早くに島毎の自治を渡された都合。天糸瓜島における王権というのは非常に弱い。珍しい、貴族よりちょっと上の立場、程度の認識なのだ。

 そんなこんなで気にした風もない一行は莢動車を走らせて、残夏季の初旬に天糸瓜港へと到着する。


―――


 どうせなら王族の船を見ていこう、なんて野次馬心のある百々代の一言で、行き先は港の一角。そこそこの同じような精神構造の方々(野次馬)がいるので近づけはしないが、大蕪島造船力のすいが集められた帆船である。

「アレなら吾々黒姫の莢動力船の方がイケてるぞ。なにせ最新技術なのだから!」

 こんな事を言ってもいさめられることがないのが、王権の弱さの証左と取るべきか。

「船の事は詳しくないけど、装飾はすごいね。一隻で莢動力船といい勝負する金額なんじゃない?」

「それは間違いないだろう。内部にも王族が十分に過ごせるだけの凝ったこしらえがあるはずだ」

「そういった面では吾々も未だ未だではあるな」

「商船とか軍船に近い意匠だもんね」

「船本体で殆どの金子を吹き飛ばしてしまったからな!ハッハッハッ」

「あの時は流石に堪えました…、黒姫家が傾きかけていましたからね…」

「馬鹿となんたらは紙一重、ということだ」

「そういうときは天才となんたらというべきなんだが?」

「天才かどうかは兎も角、馬鹿は確定しているのだから間違いではない。くくっ」

「はぁ、これだからわからんちんの一帆くんは。莢研でも随一大天才を天才と認められないとは」

(馬鹿は否定しないのか…)

「お二人共、争いというのは同程度の相手でしか起こり得ません。人が多くなる前に撤収しましょう、動き難くなりますよ」

「…そうするとしよう」

 釈然としないながらも莢動車の運転を再開した。

 そんな折りに船を眺めていた百々代は、朗らかな笑顔を振りまき民衆へ手を振る青髪の男と視線が交わり、そして途切れる。

(馬のない馬車と、妙な女?天糸瓜島に来たのは存外に当たりかね、邪魔者が居らんことが条件なんじゃが。然し…反応が悪いのう、大蕪ならば良くも悪くも大賑わいじゃのに)

 男は王権の弱さを感じながらも、市井にお忍びで足を運ぶ算段を見積もりながら侯爵邸へと移動していく。


―――


 さて、今回の黒姫家滞在は事前に郵送屋で報告を入れている故に、黒姫家に仕える使用人の面々も余裕を持って行動でき、小忠実な性格の虎丞へ感謝していた。

 こうも頻繁に長期滞在をして良いものかと百々代と一帆の二人は考えたのだが、百々代と颯の二人は黒姫家にいてくれた方が魔法莢関連で助かるので、是非とも滞在してほしいと藤華の談である。天糸瓜港に三人の屋敷を持つのであれば話しは別だが、あちこち駆け回り一年の半分も過ごさないような屋敷を持つかと問われれば…三人は首を横に振っていた。

「おかえり三人共」

「戻ったぞ兄上」「またお世話になります」「世話になります」

「急な依頼だったのに対応してくれて助かりましたよ。首魁として現れました蒼炎猟犬は素材を丸々黒姫家(こちら)で購入しましたので、お好きに使用してもらって構いませんので」

「事前に購入したいということでしたので、黒姫工房で使用するのかと思っていましたが、そういうことだったのですね。ありがとうございますっ、使い道が思いつけば試してみたいと思います」

「役立ててくださいね。ああ、そうそう、今井(いまい)達吾朗たつごろうさんは百々代さんの後援をなさってくれていた方ですよね」

「はい、そうですね。恩を返しても返しきれない方なんですよ」

「なら朗報でしょう。正式に黒姫工房と今井商会連盟で事業を提携することとなりました」

「おぉ、そうなんですか?」

「ええ、一部の汎用魔法、それも六角式の物を、傘下の工房で制作販売してもらうこととなります。手数料はありますが、百々代さんとのご縁もありますので、格安となっております」

「兄上よ、よからん契約を押し付けてはいないだろうな?」

「そんな事をすれば颯が大暴れすることは目に見えています、しっかりとお互いに納得がいくだけの金子きんすで契約していますよ」

「ならいい」

安茂里あもり工房も率先して制作をするみたいで、工房を大きくするとお話しを伺いました」

「えへへ、ありがとうございます、藤華さん。今井商会連盟と良いお付き合いを長くお願いしますねっ」

「是非にも」

 荷物は使用人に任せて、一行は一旦腰を下ろす。

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