二四話⑥
「得意なことを伸ばすのも大事だけど、基本となる戦闘手法は片っ端から触って、どういう妨害を入れられたら嫌か、どこが致命足り得るか、ということを学ぶと対人戦に於いて役に立つよ。勝永くんにはあんまり関係ないと思うけど、二年もすれば一対一の模擬戦闘があるわけだし覚えておいてよ」
「うっす、了解です」
叢林と勝永、短期休暇で二度目の顔合わせ。毎日の鍛錬を行っていることを喜び、序で程度に対人戦闘の心得を教えていく。
「というわけで主要な魔法莢を持ってきたから自分で扱ってみて、どういうものなのかを理解していこう」
「おぉ!」
手提げ鞄を開けば整然と並べられた魔法莢の数々。どれも港防軍で正式に採用されていて且つ一般に公開されている品だ。
「まあ成績が上がってくるような人たちは大体迷宮遺物を使用しているけれど、その根本は魔法莢だからね。「使うこと」は良い勉強になるはずだ。さあ、片っ端から全部使っていくよ」
緩く飄々《ひょうひょう》とした風の男という印象が前に出る叢林だが、魔法と戦闘に関しては徹底的に基礎を突き詰めていく性質のようで、自身にしているように勝永が納得できるまで何度も教え込んでいく。
時二つが経過して、すべての魔法莢の理解を触りだけ掴めた彼は一旦休憩となる。
「勝永くんは早期試験を終えれば百々代さんたちと迷宮巡りなんだろう?」
「はい、祖父のお陰で。…ちょっと強引だったと聞きましたから、嫌われてないか不安ではありますが」
「なら存分に学んでくるといい。彼女たちは最新魔法の宝庫だから」
「父や祖父からも同じことを言われました。次世代を担う新たな風だと」
「今でこそ黒姫工房の魔法莢は迷管への供給しかないけれど、ここ最近の評判を考えると増産から港防軍に支給される日も近い。…実力の全てを魔法莢の性能と迷宮遺物、なんて極端な事を言うつもりはないけれど、港防軍でも迷管でも命を預ける仕事で生き残るのには性能が高いほうが確率も上がるからね」
「少し前に百々代さんから発表された放散型纏鎧というのも量産体制が整えば、多くの人の守りにもなりますからね」
「希少龍の素材を使ってるなんて噂だけど、アレはすごかった。僕の攻撃を防いでみせたのだから。早くほしいところだよ。然し…羨ましいなぁ」
「雷の纏鎧がですか?」
「いいや、篠ノ井の旦那さんだよ。はぁ…百々代さんの事さ、かなり好みだったんだ。背が高くて、明るい性格っぽくて、なにより顔が良い。もっと早くに出会いたかったなぁ」
「そ、そうですか」
「君もぐっと来る相手がいたら早くに口説かないと誰かに取られちゃうから気をつけなよ」
「あっはい」
「そろそろ鍛錬に戻ろうか」
こうして二人は汗水流し己を鍛えていくのであった。
―――
折れていた腕を治療して、一息つきながら百々代は首魁での戦闘、その状態を聞いていく。銀の瞳が作用して勇魚に化けたていた事を重点的に。
「銀の瞳が。蘢佳が外にいる状態で作用したなら、わたし個人に力が戻っている状況なんだろうね」
「身体に異常はないか?前の時は半日寝込んだだろう」
「今のところは何もないかな。鼻血も出てないし」
なら問題ないか、と三人は納得し胸を撫で下ろす。
「はぁ、今後の芝原迷宮への出入りは、少し考えなくてはならないな」
「いやはやご心配をおかけしました」
「まさか獣になったらあそこまで聞かん坊で暴れまわるとは思わなんだ」
「敵は何が何でも絶対倒すって気持ちが膨れ上がっちゃってね。迷宮を出るたびに驚き頻りだよ」
「根本にあるのはローカローカなんだろうね。手前たちはさ」
「多分ね。……沈丁花での一件で覚えがあるよ」
「…。」「「?」」
「えへへ、とりあえずは芝原迷宮の制圧も終わりってことだし、次はどうしよっか?」
「鉱山迷宮は固定の巡回官は赴任しているから必要はないだろうし…。ちと早いが天糸瓜港に戻って、蘢佳用の迷宮遺物を見たりするか」
「さんせーい!」
「あっ、そういえばここの宝物殿はどうだったの?」
「これだ」
そういって手渡されたのは拳鍔。第二指から第四指までを通して握り込む事で、殴る際の威力を高める器具である。
「戦闘中は纏鎧を展開している以上、百々代にも必要はなさそうだがこれでも迷宮遺物、蒐集品に加えよう購入をした」
「へぇ、どういう効果があるの、これは?」
「名は不壊、壊れることのない拳鍔だ」
「ほう、試してみたいな!」
「ふむ、それも一興か。百々代の攻撃をどれだけ耐えられるか、試してみるとしよう」
「いいの?」
「壊れたのならば迷宮管理局に伝えて改名してもらうまでだ」
半分くらいで納得した百々代は四人で外へ出ていき、その攻撃を使うかの相談をしていき。纏鎧を用いた手刀、蜉蝣翅、零距離擲槍、零距離擲槍踵落、零距離擲槍で加速した剣となった。
迷宮管理区画内ではさすがに迷惑。虎丞も交えて邪魔にならない空いた土地へと移動しては、実験の準備を行っていく。
石に固定された不壊は陽光を反射してキラリと光り、迫りくる手刀を受け止めた。次いで蜉蝣翅も問題なく、零距離擲槍は固定に使われていた石が砕け散ったのである。
お次は踵落、ここからは雷放が欲しいとのことで、周囲への被害を抑えるため、一帆が全周を衝撃で覆っていく。
「雷放。」
高く高く持ち上げられた足が擲槍の加速で振り下ろされて、土台の石はおろか地面さえも凹する衝撃と、それを受け流す放電で障壁内は目茶苦茶。然し百々代と不壊だけは傷一つなく佇んでいる。
「すごいねっ、これ!」
「不壊の名は伊達ではなかったということか。最後のを頼む」
「りょうかーいっ!起動。数打『蜉蝣翅』」
炎が揺らめくような動き模様をした刀の一振りを展開し、百々代は天高く掲げて意識と魔力を集中し始めた。
前回の逆袈裟斬りもだが、雷放で受け流せなければ自身を傷つける可能性のある攻撃。細心の注意を払って蜉蝣翅を振り下ろす。
音すら斬り捨てる一撃は、不壊を通り抜けることなく刃半分で停止して、纏鎧から雷を無数に放っては周囲を破茶滅茶に変えていった。
「…、お?おーっ!相打ちってところかな」
「どうなったんだ?」
「見てこれっ!」
百々代が掲げるのは半分まで切れてはいるものの、蜉蝣翅を止めてみせた不壊の姿。蜉蝣翅自身も半ら折れかかっており、相打ちというのに相応しい状況であろう。
「壊れきってはいないが、まさか攻撃が届くとは…。面白い蒐集品として保管しなければな。くっくっく」
楽しげな一帆は衣嚢に不壊を入れて、一行は迷宮管理区画へ戻っていく。
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