二四話④
「勉強をするわ!座学の!」
「うふふ、こんなこともあろうかと!」「散秋季末の試験範囲は予習済みですわ!」
試験勉強を宣言した陽茉梨に、教える気満々の取り巻きたち。座学の成績が完璧とは言えない彼女の、早期試験のための猛勉強が始まろうとしている。
「早期試験に受からなければ、学舎外活動の時期は冬季の初旬からになってしまうわ。貴女たちが頼りなの、よろしくお願いするわ」
「「合点承知ですわ!」」
陽茉梨も成績が悪いわけではない。
第四座に着けているのだから、筆記試験の成績もある程度は高くないといけないわけで、一〇本指に限々入るか入らないかくらいである。とはいえそれは二人に勉強を見てもらってのもので、一人であれば中々に厳しい結果になってしまうだろう。
「ところで陽茉梨姫。学舎外活動中も盛春季と散秋季の試験が、早期試験を除いても三回あることになりますが」
「その際は如何致しましょうか?」
「貴女たちは学舎に残るのですよね?」
「はい」「その予定です」
「なら直前に勉強をみてもらうことになりそうね。範囲は狭く限られたものになるはずだけれど、信頼できるのは貴女たちなのだから力を借りたいわ」
「お任せください!」「陽茉梨姫の為であれば御茶子さいさい!」
頑張ってみせますわ!と声を揃えて息巻いていく。
「昔から本当にありがとうね、二人共。親友なんて言葉では足りない、魂の友だわ。私が力を貸せそうな事があったら気兼ねなく言ってね」
「「ひ、陽茉梨姫〜!」」
友情を確かめ合っては勉強に戻り、筆を進めていく。
取り巻きちゃんたちは第五座第六座、陽茉梨の世話を焼いている内に上位座で入学。総合成績は彼女の後ろ辺りをふらふらしている実力者たちだ。
「金魚の糞」なんて形容し嘲る者も一年の頃にはいたのだが、大体の生徒が成績と実力で敵わず二人の方が厄介だと察して嘲る者はいなくなった。
勉強に一段落つけて、茶菓子を食みながら雑談へと移っていけば。
「そういえば姨捨勝永様が、港防の千曲叢林様にお稽古をつけてもらっているらしいのです」
「へー、張り切ってるわね」
「学舎外活動は一部の人にとっては三年四年の花ですから、気合十分なのでしょうね」
「私も他人のことは言えないのだけれど」
「うふふ、陽茉梨姫は大はしゃぎでしたものね」
「当然よ!当代随一の魔法師の百々代さんと組めるのよ!篩い落とされないようしがみついて、卒業後も一緒したいわねぇ」
「学舎外活動からそのまま組むことってあるのですか?」
「あまりないって話しよ。大体が年齢的な問題で、結構な開きがあることが多いみたい」
「早い人は三〇には引退って聞きますものね」
「そうよ。だけど、百々代さんたちは私たちの三つ上だから全然ありえるわ!二人組だし頑張って良い所を見せないといけないわね」
「「応援してますわ、陽茉梨姫!」」
賑やかな三人組である。
―――
「あっ、ヤバ!避けて百々代!」
ピクリと垂れた耳を動かして、直ぐ様に零距離擲槍で跳び抜ける百々代(犬)。
数日を掛けて六階層まで足を進めて、わかったことがいくつかある。
先ず、百々代の体力消費が普段より割増であるということ。そして実力そのものも大きく落ちているのだが、それ以上に調整手としての立ち回りが失われていた。
前者は慣れない状況による負荷。後者は獣化による知性と理性の低下なのだと一行は考えている。
加えて戦闘中の静止も効かず、敵と見れば暴れまわる状況で「昔っぽい」と蘢佳呟いた。そう、侵略者とみたら暴れる暴虐の龍の姿である。
敵味方の区別はつくものの、一帆と蘢佳の立ち回りは考慮されておらず、今までは調整手として凄腕だった為に戦い難くてしょうがないとのこと。とはいえ手を抜ば百々代が大きく消耗するので、任せっきりにもできない状況。二人の精神もそれなり削れているのだ。
迫りくる双牙の爪撃を伏せながら避け、頭の角度を調整してはすれ違いざまに後ろ足を切り落とす。動けなくなった相手は一度無視しては、飛び跳ねながら体を捻り、二匹を切り裂いて致命傷を与えた。
着地を狩ろうと攻めたてる相手を認識した彼女は、シュルンと尾装を伸ばして一匹に突き刺しながら自身を引き寄せて、擲槍移動の衝撃と槍、放電で始末しながら蜉蝣翅を振り回す。
もはや犬と言うのは可怪しな身の熟し、百々代だからといえばそれまでだが、彼女への負担を考えると静観していられないのが後衛たちで。
邪魔にならないよう、そして同士討ちにならないよう、百々代の速度に合わせた戦闘が求められながら双牙を討っていく。
なまじ一面の芝景色で障害物もなく、相手が一斉に襲いかかってくるのも難点の一つであろう。
「…わふっ」
「お疲れ。もう少し落ち着いた戦闘をしてくれると助かるのだがな…」
「無理だろう、…今までの行動を考えると」
「休んだら戻るよ百々代」
「わふっ!」
戦闘が終われば、荒い息遣いの百々代が戻ってきては横たわり、休憩をしつつ迷宮外に戻る準備を始める。双牙の死骸の処理等は防衛官が行ってくれるものの、彼らも動物に変わってしまう者がいて大変の一言。
逃げてしまった場合に大変な小動物、そして冬眠しているのかってくらいに動かない熊は、防衛官が絶望の眼で空を仰いでいた。
現状何もしないが持ち運びにも苦労しない猫の組と、大人しい中型犬の組が防衛官としての活動を行ってくれている。今後、この迷宮に配属される防衛官は対処しやすい動物に変化する者が選ばれることになるのだろう。
「後何階層残ってるの?」
「安心しろ、二階層だけだ」
「良かったぁ」
「首魁も数日の内に再胎する。さっさと終わらせて、こんな迷惑な迷宮を終わらせるとしよう」
「吾も同行必須で、中々に苦労させられたぞ…」
「颯はもっと運動をしたほうが良いな、太るぞ」
「一帆くんは繊細な女心というのをわかっていないな」
「百々代に愛想を尽かされても知らんが」
「ぐぬぬ…」
茶化し合いながら、三人と一匹は迷宮を出ていく。
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