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二三話③

 蘢佳ろかが主体となって進めていた迷宮探索も首魁しゅかいの再胎によって、そろそろの終わりを迎えることとなる。

「首魁が変わっていないんなら、戦大蝸車いくさおおかしゃっていう一五尺(4.5メートル)くらいの蝸車で、上に蛙党あとうを沢山乗せている魔物なんだ。本体も水の魔法を使うし、乗っている蛙党も弓矢で射撃を行うってことだから、先ずは蛙党を対処してから本体を叩こうか」

「了解。百々代(ももよ)擲槍てきそうで援護してくれる?」

「いいよ、任せて。蝸車かしゃはニ回戦ったから覚えていると思うけど、拡散鏃石(ぞくせき)の効き目は悪かったよね。首魁ともなると顕著になるから、蛙党を倒し終わったら直ぐに切り替えてね」

「わかった。よしっ、頑張ろう」

 自分に言い聞かせるように呟いては、石火砲かしゃ魔法莢まほうきょうを確かめていく。

(中々、様になってきたねっ)

(だな)

(なんだか微笑ましくていいではないか)

(一応一帆(かずほ)も攻撃の準備だけしておいてね)

(勿論だ)

 篠ノしののい夫妻三人は魔法師らしくなってきた蘢佳に笑みを向けながら、密々(ひそひそ)と会話を交わしていく。

 蘢佳は実戦に身を置き経験を積むことで成長をしていることから、こういった学び方が性に合っているのだろう。実際、樹氷林迷宮では大きく実力をつけていたわけなのだし。

 徹底的に基礎を積み上げて地道に力を付ける百々代とは違っており、ローカローカの魂が直接に成形体を得ているのと、人から産まれての変化を感じさせる一面である。蘢佳は蘢佳、百々代は百々代だ。

「準備は大丈夫?」

「大丈夫!へへ、手前が首魁を討ち取ってやらァ!」

 拳を高く突き上げて彼女は意気揚々と進んでいく。

 回廊階層を進んで視界が開ければ再びの一面の紫陽花。そして先には一五尺(4.5メートル)程の殻を持つ大きな蝸牛が蛙党を乗せて移動をしており、篠ノ井一行を確認し回頭する。

「二匹いるね、戦大蝸車。わたしが一匹を担当するから蘢佳と一帆で一匹をよろしく」

「何かあったらこっちに合流しろ、いいな?」

「うんッ!それじゃあ二人を任せたよ、一帆」

 もう一匹の戦大蝸車へと走っていった百々代を見送り、一帆は視線を戻しては障壁を展開していく。

「というわけだ。俺が援護してやるから好きに戦ってみろ。はやて、一応障壁の準備くらいしておけ」

「了解ッ!」「りょーかーい」

 右手に握る石火砲の銃口を戦大蝸車の上に乗っている複数の蛙党へ向けては引き金を引き、一匹一匹処理していき数を減らしては、飛来する矢弾は一帆の障壁に身を隠しながら軌道線を描いた擲槍で攻撃を行っていく。

「水球が来るぞ」

「わかった!」

 障壁の範囲を狭めて一応の備えを行うことを伝えれば、軽い足取りで一帆の近くまで蘢佳は引いては戦大蝸車を観察する。

 頭を高くたて小触角を頻繁に動かせば魔法を発動する為の条件、これまでにも蝸車で同じ光景を見ていたのだが熱がこもった思考では判断が遅れてしまったのだろう。気をつけるように自身を戒めてから、銃口を調整し障壁がなくなると同時に引き金を引いた。

(魔法を使う相手に、使うための条件がある場合はそれを潰すように攻撃を行う)

 狙いは小触角。二度外したものの、三発目四発目は見事に命中し二本伸びていた小触角は消し飛ばされる。今回は偶然にもわかりやすい条件であるが、魔物という存在はそんなに優しい相手ではなく不条理に魔法を扱う。どちらかといえば接触起動用の腕や口頭起動用の喉を潰す対人技術である。

(殻に籠もられたら手前じゃあ力不足だ!させないよ!!手前で、倒すんだ!)

「一帆、前に出るから!」

「わかった」

 降り続く雨の中、泥濘ぬかるむ足元に気をつけながら蘢佳は駆け出して、石火砲に装填されている魔法莢を入れ替えた。僅かに飛来する矢弾は一帆の氷矢によって撃ち落とされ、ついでに蛙党が処理されて。

 肉薄せんばかりに近づいては拡散鏃石を乱射。魔物の魔力耐性も短時間で同じ部位へ攻撃を受けることで脆弱化するので、相手がくたばるまで攻撃を続かられるのであれば何れは死ぬということ。殻に収まるまでの時間を攻撃に費やし蘢佳は勝利したのである。

 殻から頭がはみ出して動かなくなった戦大蝸車を目に、彼女は拳を握りしめ雨の中で初めての首魁討伐に喜ぶのであった。

「よっし!!」

「お疲れさん。上手くやったな」

「鏃石を上手く使うようになったではないか」

「へへん、手前は強いんだから当然だ!」

「ふっ、これからの活躍に期待している」


―――


 泥濘の影響など微塵も感じさせない足取りで紫陽花あじさいの中を進んでいく百々代は、牽制がてらの擲槍で蛙党を次々処理していき一気に距離を詰めては起動句を口にする。

雷放らいほう。起動。数打かずうち蜉蝣翅かげろうばね』」

雷纏鎧いかづちまとうよろいなら出来るはず、イアイドーッ!)

 蜉蝣翅を後ろに構え意識と魔力を集中するは刀の背。武王で二度使っていた零距離擲槍ブースターで加速した剣技、さやの存在しない成形武装の都合上、居合術でも抜刀術でもないのだが、そんなことはお構いなし。手を鞘代わりにしているわけでもなく、両手で柄を握っているので完全にただの切り上げ、逆袈裟斬さかげさぎりである。

(停止機能は付いていないけど、切り上げなら地面との衝突は避けられる。後は雷放状態で衝撃を殺しきれるかどうか)

 ――――。

 音すら切り裂く神速の一閃は戦大蝸車の頭部を見事に切り落としては、百の雷が鳴らんばかりに鳴り頻り百々代の身体に掛かるはずの負荷を逃し切る。

(上手くいった、けど。蜉蝣翅が結構破損しているし、普段遣いは出来ないかな)

 ひびが入り刃毀はこぼれした蜉蝣翅を解除しては残党が残っていないかを確認する。蘢佳たちも終わったようで、七変化迷宮での仕事は終わり。残るは宝物殿の回収だけ。殻の上に飛び乗って周囲を探ってみれば、宝物殿らしき洞を発見しては駆け出していく。

(当たり。導銀の純度が高そうなのと…箱が…あったあった。さっさと戻ろっと)

 箱を抱えながら移動していれば空に探啼が飛んでおり、手を振っては箱を見せて足を早め合流する。

「お疲れ、宝物殿の回収も終わったし戻ろっかっ」

「手前、箱の中身みたい!!」

「雨降ってるから外でね。まだ、何が入ってるかわからないしさ」

バレ(わかった)!ふふーん、楽しみだなあ」

 迷宮の外で箱を開けてみれば流物の色鮮やかな靴が出てきて、蘢佳の記念にと購入するのであった。

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