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二三話①

 百々代(ももよ)も十分すぎるくらいに動けるようになり、天糸瓜(へちま)港でやるべきことも終わった盛春季せいしゅんきすえ陽茉梨ひまり勝永かつながの合流までは二季程の時間の猶予があるため、篠ノ井(しののい)夫妻一行は手頃な迷宮へ向かうため莢動車きょうどうしゃで移動を行う。

 天糸瓜領そのものは非常に広い土地を有し、迷宮の数も多い。長距離での走行試験も兼ねているので、天糸瓜港からやや離れた所まで向かっていく。

 ちなみに運転は一帆かずほ虎丞こすけの交代制だが、一帆が楽しげに運転しているため彼の割合が比較的に多いのだが。

 今回向かうのは天糸瓜領北部に位置する合歓里ねむり街、天糸瓜港から離れていることもあり長閑のどかな街で、春には養蜂ようほう、冬には林檎りんごとご婦人の喜びそうな場所で、実際に合歓里蜂蜜や合歓里林檎といった商品を前面に押し出している。

 養蜂が盛んということで、天糸瓜島で冬流祭に使われる蜜蝋も多くが合歓里産だ。

「一帆楽しそうだねっ」

「ああ、楽しいぞ。莢動力きょうどうりょくの研究が進んで、現実的な値段になったら是非とも欲しい一品を、半ば自由に乗れているのだからな。黒姫くろひめ第一工房で乗った三輪も悪くないが、長距離なら断然こっちだ」

「一帆くんが大いに気に入っていた、なんて報告が上がってきていたな。他の買い手が付きそうであれば量産の流れになるから、兄の腕の見せ所だろう」

「なるほど。次に天糸瓜港に滞在する時に、港を走って宣伝してやるか」

「凄い気に入りようだね。木操で扱う木の耐久性をどうにかできれば、もっと運用しやすくなるだろうからその辺りの梃入れしないと」

「合板辺りが理想なのだがどうにも耐久不足でな」

「合板だったら木そのものの方が硬くない?」

「色々と試作中らしくてな、木材の柔軟さを維持しつつ硬度を保てるような接着材などを探しているのだ」

「なるほどなるほど。どうせなら触媒としての価値はないけど、木材として優秀な木があるかもしれないし、今後はそっちも調査してみようか」

「クックックッ、理解が早くて助かる」

「そういうことなら俺も協力を惜しまないぞ」

 成婚しようとも賑やかで変わることのない三人だと、虎丞は小さく笑いはやての幸せを祝福する。


―――


「巡回官二人と莢研局員、従者の計四人だ」

 身分証を確認した職員は区画の門を開いては、莢動車ごと中に入れて再び扉を閉ざす。ここは七変化しちへんげ迷宮、絶えず小雨の降り頻る色取り取りの紫陽花あじさいが咲き乱れる迷宮である。迷宮そのものが変化するのではなく、紫陽花が時と共に色を変える様子から七変化迷宮と名付けられているのだとか。

 宿舎を取っては家鞄かほうを一部屋に運び込み、蘢佳ろかの魔法莢を起動して呼び出す。

オラ(ハァイ)!船上以来の久しぶり、手前の参上だ!」

「天糸瓜港じゃあ呼び出せなくてごめんねっ」

「新しい魔法作ったり、鍛錬積んでたり、新しい魔法を…作ったり…、…。百々代って魔法莢弄ってるか鍛えてるかが殆どじゃない?羨ましい~!!って怒ろうと思ったのに全然羨ましくないんだけど!!」

「わたしはすっごい楽しかったんだけどなぁ」

われも楽しかったぞ!」

「楽しいのはお前らくらいだよ…。そうだな、色々と蘢佳に窮屈な思いをさせてしまったようだし、観劇にでも連れて行ってやるか。百々代が行けば観れるだろう?」

「行きたーい!!戦うのがいいかな」

「そういったのは人気だから何時でも観れる、安心しろ」

 一帆とて百々代と天糸瓜港を満喫できなかったことに、少しばかり思うこともあるのだろう。観劇や遊びの予定をたてては颯ごと引き込んでいく。

「吾は観劇をする趣味はないのだがな」

「はぁ、颯は損をしている。あれほど楽しい時はそうそうない、いい機会だ解説も兼ねて見に行くからな」

「はいはい。」

「観劇の話しは程々に、荷物の準備を手伝って下さい。便利ではありますが大変なんですよ、家鞄は」

 家鞄から出てきた虎丞を手伝いながら、明日から行う探索の計画を立てていくのである。


―――


「七変化迷宮に出てくるのはかえる蝸牛かたつむり、そして蝸牛に乗った蛙。まず蛙は蛙党あとうという武器を用いて戦う二足の魔獣で、武器の種類は剣槍弓と様々、弓に関しては一帆の障壁内にいれば大丈夫だし近接武器も纏鎧で大方防げる。前に出るのはわたしだけだから、飛来する矢にだけ警戒してもらうことになるね」

「次は蝸牛。蝸車かしゃといってな、移動の鈍い魔物だ。水球を放ってくるとのことだが、こちらも問題なかろう。百々代一人で多くのお釣りが来る迷宮だが、夏が終われば学舎外活動者の二人が合流することになり、それなりの脅威度の迷宮にも向かう予定だ。蘢佳が足を引っ張らないよう、実力の底上げをすることが一つの目標だから忘れるなよ」

「了解!」

 ピシッと背筋を伸ばしては、石火砲を手にして格好良く構えてみる。

「そうだな…、俺の想定する水準まで石火砲せっかほう擲槍てきそうを使いこなせるようになったら、新しく迷宮遺物を買ってやる。暇な間に迷管務めをしていた金子もあるからな」

「いいの?!よーし頑張っちゃうぞ!今の手前は無敵の勇者ヒーローだ!!」

「潜るのは明日からだがな」

「そうだった」

「こんなところだね。纏鎧てんがいがあれば問題はないけれど、雨の降り頻る迷宮だから防雨関連の準備は必要かな」

「それなら準備は出来ております」

「流石虎丞さん、いつもありがとうございます」

「これが私の仕事ですので」

「それじゃあ明日から頑張ろうっ」

「おー!」「ああ」「そうだな」

 なんとも纏まりのない返事ではあるが、これも四人らしいといえば四人らしいというもので。春の終わりに夜は過ぎ去る。

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