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二二話⑧

「起動。いかづち纏鎧まとうよろい

 起動句を言い終わりと同時に百々代(ももよ)の身体を弾性の纏鎧てんがいが覆っていき、手足を中心に硬性纏鎧が展開される。身体の動きを阻害しない部分的な纏鎧は、彼女ならではであり印象的な姿と言えるだろう。

「よしっ、治療の際に魔法へ反応して放電が起きてたけれど、纏鎧は問題なさそう」

「そのようだな。身体を動かして調子を確かめてみてくれ」

「了解っ」

 走り回ったり側転をしてみたり変わった様子はなく、見学に来ている者もやや暇そうである。

「それじゃあ、次の段階にいくよッ。雷放らいほう

 言葉を言い終えると同時、返答など求めてない彼女は零距離擲槍ブースターを展開し、バチバチバチと擲槍の発射された足裏から放電が発生する。二度、三度、繰り返し使用すれば、毎回放電が起こっており雷纏鎧という相応しい賑やかさである。

「いいねっ、問題ない。それじゃ次」

 と試験場に置かれた案山子かかし、その脳天へと足を振り上げ踵落としを繰り出す。命中するとともに落雷めいた大音が鳴り響き、案山子は潰され黒焦げになっていた。

 土煙が消え去って、立っている百々代に視線を向けるも、放電の影響など皆無。全くの無傷で構えを取っていた。

「フハハハハ、良さそうだな!次はこちらから、訓練用の擲槍を放つから硬性部で受け止めてくれ」

「わかったー!」

 元気よく返事をした百々代は硬性装甲で全身を覆い、はやての放つ擲槍を正面から受け止める。着弾と同時に放電が発生するものの傷一つなく、威力の高い、制限のより少ない物へと変えていき、実践用の擲槍ですら受け止めてしまった。

 使用者の颯が魔法を得意としないので、攻撃者を変えても変化はなし。次いで実剣での攻撃も行うが鉄壁と言って差し支えない性能を発揮し、見学者一同は目を丸くしていた。

零距離擲槍れいきょりてきそうの反動も雷で散らしてたし、再生がなくても全然余裕だよ」

「受ける衝撃を電に変換して軽減し受け流す、面白い魔法陣を描いたものだ!フッハハ、流石百々代くん!」

「えへへー、なんとね今後の纏鎧に応用できるようにいくつか魔法陣の図案を描いてもあるんだよ。放散ほうさん式纏鎧とでも仮で呼ぶとして―――」

 纏鎧を解除しては腰にいた六角魔法莢(まほうきょう)を外し、導銀筒盤どうぎんとうばんを取り出しては魔法陣の説明を一同に説明していく。

 焦雷龍しょうらいりゅうの魔力耐性の高い鱗を多く用いることで強靭な装甲を得つつ、出力制限を解放することで被弾時の威力を魔力に変換し放電という形で外へと逃がす構造。

 複合魔法莢方式且つ六角魔法莢で筒盤には表裏面にぎっしり限界まで魔法陣を彫り込み、触媒も触れ合う部分ごとに配合調整のされた見学者からすれば狂気の一品である。制作期間は一季弱、この間百々代は魔法陣を何度も書き直しながら身体の鍛錬を行い続けていた。

「――というわけで試作も未だですが、纏鎧の新たな形式の一つとしての選択肢になれればと思っています」

「素晴らしい構造だとは思いますが、ただでさえ手間の掛かる六角式に、ここまでしないながらも細かな彫り込みは量産が難しくなるのではないでしょうか?」

「正直省ける無駄を省いて、魔法陣の突き詰めを密にしない限りは量産化と一般化は先ず無理でしょうね。二重の纏鎧に関してはわたしの得意分野なので、使用感を蓄積しつつ突き詰めていくつもりです」

「颯工房長も十分凄いのですが…物凄い方を捕まえてらっしゃいましたね」

「ハッハッハ照れてしまうな!ふむ…とりあえずの試作汎用型を作ることは…できそうだな。素材の選定は大変そうであるが、作るだけの価値は大いにある。覚え書きでもいいから資料を貰っても?」

「いいよっ、七分(70パーセント)くらいで纏まってるから完成させて渡すよ」

「作りながら纏めてたのか、助かるぞ!」

「よぉーし、これで一段落だし、そろそろ武王ラクエンとも再会しないと」

 雷纏鎧の完成を終えて、百々代は大きく伸びをしながら武王の魔法陣を脳内で組み立て始めた。


―――


「これで必要な魔法莢は揃ったかな」

「また随分と大所帯だな。雷剣が蜉蝣翅かげろうばねに変わって一つ減ったとはいえ」

 装帯具まで用いて魔法莢の収納が拡張された百々代。他の魔法師からすれば軽く倍以上も佩いている状況だ。

 擲槍、障壁は黒姫工房のものをそのまま。肉体強化も黒姫工房製ではあるが、細かな調整が加わった重い仕様のを。零距離擲槍は颯と一帆かずほの共同制作。難を逃れた蘢佳ろか尾装びそう雹透族はくとうぞくの爪を用いた成形武装の剣、数打『蜉蝣翅』。残りわずかなむくろ武王ぶおうの大太刀を用いた、武王ラクエンの新型。最後に雷纏鎧。

 迷宮を潜る際であれば上記に加えて不識や蘢佳用の魔法莢に石火砲せっかほう。緊急用の物資なんかも持ち歩いており、中々の荷物量である。

「必要なのばっかりで、削れないんだよね」

「今までも問題なく扱えていたから何も言わんがな。まあ今日行う天糸瓜へちま学舎での公開試合、相手は昨年の第一座卒業者で港防の大型新人だそうだ」

「ということはわたしたちと同い年で、小梧朗こごろうさんたちの同期の生徒だったんだねっ」

「そうなる。だがどうにも天糸瓜学舎の長は、金木犀学舎の卒業生である俺たちが天糸瓜学舎の成績優秀者二人を抱えるのが気に入らない、なんて噂も聞いている。警戒して挑むようにな」

「観客として色んな人が来るみたいだし、目に見えたイカサマはしてこないでしょ」

「百々代くんは人を信じ過ぎだ。学舎長なんてどんなんだったかは覚えてないが、くだらんことで目角めかどを立てるような者なのかもしれないのだぞ」

「礼儀足らずは人足らず、貴族であれば貴族らしい礼節はすると思うんだよね。腹に一物があったとしても」

「「だといいのだがな」」

 やれやれと一帆と颯は呆れつつ、天糸瓜学舎へと向かうため莢動車へと乗り込む。

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