三話⑥
トンデモ戦闘を見せつけられ同級生が皆唖然している中、実技の初授業は終わりを告げて一帆たちは食堂で昼餉を食む。
「…あれはどういう仕組で吹き飛んでいたんだ?」
「射程を極々短距離にした擲槍射撃を条件起動で足の裏から発射してまして。爆発的な衝撃波で身体を推し進めて接近する魔法なんです」
「そうなると脚への負担が酷いことになりそうだが?」
「負担に関しては二重に纏鎧を用いてまして、昔に一帆様と魔法莢についてお話していた時、葉錬鉱の纏鎧に弾力性があるってなったじゃないですか」
「ああ、あったな」
「あれの模倣品を下地に硬度のある纏鎧で二重に護っているんです。装甲そのものは損耗していたので、これからの勉強でもっと適した魔法を探していこうかと」
「なるほどな。…踏みつけることで攻撃にもなるのか」
「ええ、そうです。ですがですが、えへへそれだけじゃないんですよ。そもそも零距離擲槍、わたしの仮で付けた名称なんですけど、この魔法は殴る際に威力の増加を目的として魔法陣を刻んだもの、つまり腕でも使えますっ!」
(腕で使う時は零距離擲槍!かっこいい…!)
「三回目で威力が落ちていた様に見えたのは接地してなかったからか」
「はいっ」
「実用性は兎も角、面白いな」
「面白いでしょ。実用性があるかと聞かれれば微妙なんだよね。二重の纏鎧を使用する必要があるし、勢いを制御するのにも苦労したよ。…庭で練習してたら流石に怒られちゃって、冬に砂浜で練習したんだ」
「使う度に地面は穴だらけか。ふっ、随分と俺は置いてきぼりになったようだ」
「でも、追いつくんでしょ?」
「当たり前だ。俺は百々代、お前に勝つ心算だからな」
「負けないよっ!」
満面の笑みを浮かべては二人の空間を作り出している頃、結衣たちは完全に置いてきぼりなわけで。
「いやー…面白いものが見れるかも、なんて言っちゃったけどとんでもなかったね」
「ええ、そうね」
「…そうですね」
「開いた口が塞がらない、という状況を初めて体験したよ」
「てっきり肉薄して戦う系の魔法師の戦いが早い内に見れるとおもったんだけどさ」
「港防とか迷宮にいる系のね」
「そうそう、纏鎧で護って生成武装で相手を削る系。一年だと見ることは多くないから、早い内に見ておければ選択肢も広がるかなってねー」
港防省警務局に縁のある杏からすれば、前衛寄りの魔法師も珍しい相手ではない。故に友達らに選択肢の一つとして見せておきたかったのだ。
「杏ちゃんはやっぱそっち系の魔法師を目指すの?」
「まだ悩みちゅー」
「駿佑様は…?」
「僕はまだなーんも考えてないよ。未来は未決定」
「わたくしは後衛ね…足が竦んでしまうわ。…熱々の二人も落ち着いたみたいね。百々代、ちょっと耳を貸しなさい」
「はいっ」
(一帆様とのお喋りが楽しいのはわかるけれど、言葉遣いを気をつけなさい。悪く言われたくはないでしょ?)
(っ!気をつけます!)
「申し訳ございません一帆様っ。乱れた言葉遣いをしてしまい」
「ん?あー…俺の方でも気付いてやるべきだったな。次から気をつけるように」
「はいっ」
―――
「想定外、だったな」
昼餉を食む雲雀が向ける視線の先には楽しげに学友と話をしている百々代の姿。
「聞きましたよ、件の娘。松本さんが推してただけありますね」
「いやね、ちょっとした発破をかけるだけのつもりだったんだよ、僕は。手を抜いて、いい感じに華を持たせてあげれば他の生徒もやる気になるかって。驚いて遅れを取ったとはいえ、一方的に成形獣を潰されるなんてさ。凹むなぁ」
「聞いた限り実技首位は在学中に譲ることはなさそうですし、一部の生徒はやる気が削がれてしまったかもしれませんね。庶民に負けてられるかって子達もいるみたいですが」
「ああいう子達は、既に火が着いてるんですよ。首位を奪われた時点で」
「そういわれればそうですね」
どうしたものか、天井を眺めながら雲雀は考えを巡らせる。
「小試験は兎も角として、散秋季末の試験結果を見て方針を考えませんか?」
「…まあそこ次第ですかね」
「ところで…実際にはどうやって成形獣を潰されたのですか?」
斯々然々、理解できる範囲で同僚に説明すれば、驚き半分感心半分。理解の外側から降ってきた星に命中したようなものだと笑い飛ばす。
「出身は工房でしたし自作品でしょうか。学舎に新しい流れが生まれそうで私は楽しみですよ」
「貴族の子であればもっと良かったのですが」
「今更養子になる利点も、婚姻くらいしかありませんし、どうしようもないですよ」
「はー…僕は庶民に敗けたのかぁぁ…」
実技教師の雲雀は暫く落ち込んでいたとか。
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