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二二話⑦

 百々代(ももよ)はやてが工房へ足繁く通うようになり、暇の多くなった一帆かずほは迷宮管理局天糸瓜本所で机仕事を始め、時が経つは一季弱、盛春季せいしゅんきとなって陽気も暖かくなり鮮やかな春の花々花弁が風に揺れる頃。

 百々代は結衣ゆいからの誘いで医務局へと足を運んでいた。

「お初にお目にかかります、西条にしじょう結衣の義妹いもうと金木犀きんもくせい伯爵はくしゃく家の篠ノ井(しののい)百々代ですっ」

「話には聞いていたけれど、本当に大きな身体ですね。よく鍛えられていますし」

 結衣が集めてきた女人の医務局員と自己紹介を交わしては、皆一様にペタペタと百々代を触って再び鍛えられた肉体を確かめている。

「少し見ない間に半ら元に戻って…、無理な鍛錬はしてないでしょうね?」

「魔法陣を引いたり魔法莢を製作したりで、鍛錬をしてない時もそれなりにあるから大丈夫だよっ」

「はぁ、見た感じは…健康そのものだし大目に見るわ。というわけで今回百々代を呼んだのは、貴女の脇腹と肩に有る傷跡を消し去るためよ。名目上は臨床試験って形になるけどいいわよね?」

「問題ないよっ。臨床試験っていうとまだ正式発表されてない魔法って事?」

「ええ、そうよ。百々代なら何かしら知っているんじゃない?」

「医務局関連となると療専部だから…第三棟舎からの報紙で発表されてた、『術後痕除去における治癒魔法の発展と展望』って記事に載ってたやつ?去年くらいだっけ」

「…なんでポンと出てくるのかしら。まあそうよ。…というわけで皆様、こういう義妹ですがよろしくお願いします」

「任せて、結衣さんの義妹さんなんだから頑張っちゃうわ!とりあえず療専部の方々が来るまで、患部の様子を確かめてみましょ」

 服を脱いで脇腹、そして肩を中心に広がる樹形の火傷痕を確かめれば、医務局員たちの顔は驚き一色へと変わっていった。

 そうそう見ることのない、見事な樹形模様の火傷痕は刺青を入れたかのような見事な模様に息を呑んだ。落雷被害者に火傷痕として現れたりと、医務局員であれば知識もあるようだが、実物を見るのは初めてらしく具に観察し記録として残していく。

 そうこうしていれば魔法莢研究局の療専部から局員が一人やってきて。

「ごめんなさい、遅れてしまって。少し立て込んでいたのよ、おほほ」

「こちらも患部の観察、調査を行っていましたので問題ありませんよ」

「それは良かった。はじめまして、篠ノ井百々代さん。先日発表された成形魔法を用いた人体拡張、楽しく拝見させていただきましたわ」

 と局員は自己紹介をしては、臨床試験へと加わり記録を残していく。

 さて、それから半時(1じかん)が経って。脇腹の傷跡は綺麗さっぱり消え去り、肩の火傷痕へと移り始めた時。

 治癒の魔法を患部に施した途端、火傷痕から微弱な電撃が発生し医務官の一人が悲鳴を上げた。

「きゃっ!」

「なんでしょうか今のは」

「もしかしたら、…原因となった魔物の影響かもしれませんね。素材も放電していたので」

「百々代様に痛みなんかは?」

「わたしの方は何もなく」

「良かったです。…然し、どういたしましょうかね」

「纏鎧を起動するのなんてのは如何でしょうか?素材を砕く際にも纏鎧を用いましたので」

 自身が実験台になっているのにも関わらず、妙に乗り気だなぁ。なんて一同は考えながら、纏鎧の展開をしながら治療を再開した。

 パチリパチリ、バチバチと治療始めこそ軽度の放電であったものの、掛かる魔法が強くなれば抵抗するように放電も強くなり、一時中断となった。

「効きもよくありませんし、今現在の魔法では特殊な火傷痕の除去は難しい、ですね…。お力になれず申し訳ございません」

「いえいえ、脇腹の傷跡は綺麗さっぱり消えましたし、有り難い限りですよ!火傷痕は希少龍なんていう特殊も特殊な相手なので、仕方なかったと割り切りましょうっ」

「…、お優しいお言葉痛み入ります。何れはその火傷痕すら消せる魔法を開発してみせますので!」

「はいっ!首を長くし待っていますね」

 という事で、百々代の治療は一旦終わりを告げたのである。


―――


「はぁ…綺麗さっぱりした身体に戻してあげられると思ってたのだけど、残念ね」

「えへへ、十分だって。一帆と結衣姉が気にしてたことは知ってたし、なくなってよかったよ」

「とんでもない傷跡は残ったままなのだけどね。まあ百々代がそういうなら、そういうことでいいわよ」

「色んな人たちを引っ張ってきてくれてありがとねっ」

「奔走なんてする必要もなく、話しが独り歩きして勝手に集まってきたんだけど。…どういたしまして」

「流石結衣姉、人望あるんだ」

「貴女の名前よ、きっと。莢研では有名らしいし?」

「あはは、どうなんだろうねっ」

(少しの間くらい離れたところで変わらないわね、百々代は)

 ころころ笑う百々代に笑顔を向けながら、結衣は自身のやりたかった事の一つが終えられたことに安堵して目の前を見つめる。

「こっちからも礼を言っておくわね、ありがとう。百々代がいてくれたから、自分の目指したい路をその先を見つけられた、そんな気がするわ」

「えへへっ、どういたしまして。これからも頑張ってね、結衣姉」

「ええ、百々代もね」

 笑い合いながら二人は歩いていき、祝いがてらの甘味を楽しむ。

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