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二二話⑥

 ご満悦の一帆かずほが試走から戻ってくれば、百々代(ももよ)はやて焦雷龍しょうらいりゅうの樹様鱗を砕きり潰しては触媒調査へ移っていた。工房の様子を確かめたり、百々代の顔見せなんかもあるのだが、本命はこっち。

 この鱗、未だに雷を帯びているので、擂り潰す才際には職員が纏鎧を起動し万全の状態で挑んでいく。実際に砕いた際に放電が起こり、乳棒にゅうぼうでかき混ぜている最中にもバチバチと音を鳴らしているので、纏鎧てんがいを纏う判断は正しかったと言えよう。

 調査の結果は百々代と颯の想定通りで、雷に関する魔法全般への適正が現れて、二人はどんな魔法にするかという話し合いを始めていく。

「百々代くんの魔法なのだから、…壊れてしまった雷剣の代わりに近接戦用の、成形武装へ鱗を混ぜ込んだ魔法ものだろうか?」

「それもありだね。わたし的には放電そのものを魔法にして、近距離に於ける範囲攻撃化なんかもいいと思ってるんだけど」

「放電か。小物に囲まれることの多い百々代くんなら選択肢に入るな。ただ、そうした場合には、自身の纏鎧への損傷を考慮しなければな」

「再生持ちの纏鎧で、制御弁を外した雷剣を使用すると再生が追いつかなくなっていたか」

「うんうん。一触二重いっしょくふたえの纏鎧うろこよろいも失われちゃったし、放電する場合は放電に耐えうる纏鎧も必要になってくるんだよね」

「ならば普通に魔法射撃なんかでもいいのでは?」

「それもあり。だけど素材に限りがあるのが問題だね」

 使える鱗は一枚大きさこそ大きいものの、失敗をすれば直ぐに失われてしまう範囲内だ。慎重に使い道を選び希少龍力をものにする必要がある。

「というか纏鎧をなんとかしないと構成を決めかねるし、その辺りから用意してこっかな」

「纏鎧な。吾と一帆くんで零距離擲槍を作成してあるが、アレに耐え得る若しくは再生を間に合わせるだけの二重纏鎧を、と考えると案外にも難しいものだな」

「普通に暴発するわ、変なところからでるわ、反動がキツイわで二度と使いたくない魔法だ…」

 一帆が試験運用した際、それはそれは大変で最終的には小梧朗こごろう担がれて迷宮外へと帰っていったのだ。

「そういえばさ、覆成氷花ふくせいひょうかは焦雷龍に弾かれちゃったんだっけ?」

「ああ、そうだな。側面から入って氷花も起動したのだが、雷を放つばかりで傷一つ付けられなかった」

「ふむ。…だけど今は、難航していたとはいえ擂り潰すことができてるし、高い魔法耐性が影響してる感じかな。これも素材の特性として発現するのなら、纏鎧にするって手もあり、だね」

「僅かに混ぜ込んで耐久試験を行ってみるか!」

「いいねっ!」

 百々代は楽しげで、一帆と颯と顔を合わせながら数多の魔法陣を引く。


―――


「やあ將煕まさよしおう

「お早いですね、長野ながの様。私よりも先にご到着とは」

 椅子に深く腰掛け、將煕と顔を合わせているのは天糸瓜島の統治者たる天糸瓜侯爵の長野ながの紀光ことみつ

「君たちの根回しのお陰で娘から礼を言われてね。胸の空いた心地よい一日を過ごせ、仕事も順調に終わったのさ」

「それは何よりで。こちらとしても孫一人ではやや力不足を否めなかったので、巻き込めたことは喜ばしい限りですよ」

「…情報を読むに当代でも随一と言って過言にならない巡回官らしいが、天糸瓜学舎長の眉を曇らせウチの子を傍に付ける程の者なのか?新しい噂も陽茉梨から聞いたが、…推し(百々代)が何か珍しい希少龍と対峙して生き残ったのだとか」

「直接の対峙で全滅以外の結果がない相手、ですよ。彼女以外では」

「巡回官でもなければ諜問や護衛官にほしくなるね。…そんな巡回官が必要になる状況になると將煕翁は読んでいるのかい?」

「先日到着した報では、完全停止していた天糸瓜大魔宮の内部環境が低速ながら再動を初めたとのこと。長野様に書簡をお送りしたとおり、要警戒状態へ移行しました」

千生龍せんしょうりゅうの再来、か。まさか私の治めるこの時代に起こるとは…、活性化は?」

「今のところ有りませんが、活性化する可能性も考慮し天糸瓜領近辺に彼女たちを縛り付けるため、孫や陽茉梨様の引率として付けたのですよ」

 天糸瓜大魔宮。大昔に姨捨おばすて古永ふるなが率いる魔法師らが挑み、多大なる被害を出しながらも制圧を行った百港国でも最大級の迷宮。首魁であった千生龍が討たれたことで、迷宮そのものの動きが停止してしまったのだが活性化の煽りを受けたせいか、僅かずつ再びの活動を見せ始めているのである。

 天糸瓜大魔宮は天糸瓜領に隣接する、無人領地の大魔宮管理区画に存在してる。

「港防なんかも動員したいが…迷宮内に入れるものはやや限られるし、大陸の動きも厄介だ。限界まで大魔宮の情報は伏せるが、千生龍が再胎したともなれば混乱に乗じて干戈を掲げるのは目に見えている。主に前線を張るのは東側領地となるけれど」

「応援は必須。大陸国が分裂してくれたおかげで再びの大戦は避けられそうですが、戦に積極的な国々は勇んで攻め込んでくるでしょう」

「損な時代に島政の長になってしまったが、子どもたちの代でなくてよかった」

「引退と引き継ぎを考えていた私からすれば、大きな藤壷ふじつぼが出来てしまったようなものですよ」

「はっはっは、將煕翁にはまだまだ頑張ってもらわねば」

「ご無体な」

「ところで引き継ぎと言っていたが次の迷管局長は賢多朗か?」

「ええ、そうですとも。本人はどんな顔をするか知りませんが、人望もあり人の上に立つには十分な素質を持っております。未だ若いところもありますが、追々に積み重ねていくでしょう」

「そうか、賢多朗がね。…よしっ、私も島政の長としてやるべきことをやらなくては。大魔宮のこと、任せたよ將煕翁」

「ええ、お任せを」

 立ち上がった紀光は上着を羽織り、部屋を後にする。

(大魔宮、どうでるか)

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