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二一話⑬

「これが雹透族はくとうぞくの素材を用いた成形武装ですか」

「そう、形状は一昨日にわたしが使った片刃の剣。切れ味は上々、耐久性も問題ないよ」

 小梧朗こごろうに手渡された魔法莢まほうきょうと掛かった費用のまとめ。爪以外には追加触媒の金斂鉱こんれんこう、魔法陣を彫り込む導銀、外枠たる外莢のみ。百々代(ももよ)たちへの支払いは然程多くない部類。

 爪に関しては討伐者の一人として、巡回官として、そして現在探索に加わっている事も考慮されての特価価格。懐に優しい一品となっている。

「昨日に調査の作業を行っていたのですよね?」

「はいっ。いやぁ楽しい作業でした」

 手元の魔法莢、そして費用の一覧まで一日かからずに終えたのかと遠い目をしつつ、ツヤツヤとしている百々代へ感謝を述べて迷宮探索の準備へと小梧朗は戻っていく。

 六人が準備を終えて探索の続きへと向かう最中、小梧朗は試し斬りにと道中に現れたら静雹透じょうはくとうと戦闘をすることに。

「起動。成型武装、剣」

 掌中に現れたのは僅かに揺らめく炎模様した薄水色の刀。

(…。)

 いくつもの成形武装を見比べて最良とする品を選んできた小梧朗なのだが、これほどに目を奪われるものはそうそうないな、と心の内で呟く。

 後方で百々代を始め全員が動けるように待機している中、一人踏み出し静雹透へと挑む。

 相手は三匹。基本的に同時に攻め込んでくる事は学習済みなので、小梧朗は一歩横へ飛び、相手の到着時間をズラしてから一番近くにいる相手へと刃を振り下ろす。

「!?」

 スーッと手応えなど微塵もない軽快な一閃は、使用者ですら驚きを隠すことが出来ず、目をまん丸と剥いて断面へと視線を直す。最初から切られており、彼が刃を通しただけなのだと錯覚する程の歪みのない切口がそこにはある。

 実は迷宮遺物でした!なんて言われても一切の驚きなく納得出来る剣。それを前後で反転させて、迫りきたもう一匹を斬り上げで首を刎ね、最後の一匹を垂直の斬り下ろしにて両断し戦闘が終わった。

「凄いですね、これ。名前は決まっているのですか?」

「付けていませんよ」

「ならこれに名前をつけて呼んでも良いでしょうか!?」

「ええ、どうぞ。気に入ってもらえたようで何よりです」

「はいっ、大事にします!ではこれからよろしく頼むぞ、蜉蝣翅かげろうばね

「この迷宮でご一緒している間は、使用感や希望の点を伝えてもらえれると今後の為にもなりますので是非」

「喜んで!」

 小梧朗は歓びのあまり百々代の手を掴んでは、一帆かずほに睨まれていた。

 お触りまで許したつもりはないのだろう。


―――


 さて、それから順調に足を進めて現在は一〇階層。百々代たち一行は少しばかりの変化が迷宮内にあることに気がついて、探索がてらの調査を行っていく。

「むこうにもあるね、ひしゃげて焦げた樹氷」

「妙だな。天候が変わった様子がないのにも関わらず、落雷でもあったかのような痕跡。雷に関する魔法を有する魔物でも現れたか?」

「放電する泳鰭族みたいな?」

「「「あー」」」

 納得するは魔物化した銛持ち泳鰭族に辛酸を舐めさせられた平原隊。なんだかんだ慣れた後は、安定した対処が可能になっていたためそれほど思うことのない相手だが、面倒くさそうというのが彼らの感想。

「然しこの迷宮には、現在静雹透と雹透族しかいません。新しい魔物が増えたと見るべきでしょうか?」

 直睦なおちかの言葉に小梧朗と小衣こころは、そういえばそうだ、と相槌を打っている。

「ですね。迷宮がただ模様替えしただけとかならいいのですが」

「警戒はするにこしたことはない。百々代、周囲への警戒は密に頼むぞ」

「うん、任せてっ」

「手前も探啼を飛ばしながら移動しようか?高頻度で使うから慣れてきちゃったし、歩きながら程度だったら出来る筈」

「そうなの?」

「へっへっへ、手前も凄いってところ見せてあげないと!起動。探啼たんてい

 成形獣を起動した蘢佳ろかは、片目の視界だけを探啼に紐付けて両方の視界を維持しながら、あっちへこっちへ動いてみせる。

「一応足元には気を付けてね?」

「成形体が怪我なんてしないよ!」

「それでも。大事な仲間なんだから」

バレ(わかったよ)

 そうして警戒しながら進んでいくも、それらしい相手は見つからず一一階層到着した。


 こちらにも落雷を受けたような痕跡のある樹氷はなくなることはなく、あちこちに点在している。模様替え説なんかが濃厚になりつつも、一行は確実に足を進めて十数日、一五階層まで到達する。

「…そろそろ、往復が堪えるな」

識温視しきおんしが到着すれば防衛官さんも静雹透へ対抗できるんだけどね。金木犀きんもくせい椿崎つばきざきは案外にも遠いんだね」

「手紙は送ったのだったか?」

「一応ね。用意したほうがいいかもって」

「ならばもう直きに届くであろう」

 現在、この迷宮に於いて内部で寝泊まりできる、中間拠点なるものは存在しない。それらの運営を行うのが防衛官なのだが、対抗するための力が足りていない状況で無理強いをすることなど出来るはずもなく、一行は潜る事に遠くなる道を毎回歩んでいるのだ。

「百々代さんは商家の生まれなんですか〜」

「工房ですよ、金木犀港にある安茂里あもり工房っていう。商会の連盟に属しているんで、そちらに手紙を出してたんです」

「そういえば識温視って百々代さんの発明って颯さんが言ってましたね。それでご実家に生産を、孝行者なんですね」

「学舎の費用周りを全て出してもらっちゃったんで、商会への利益くらい貢献しないと流石に居心地が悪くなっちゃいますからね。もし金木犀港に寄る際は今井商会をご贔屓にお願いしますっ」

 そんな会話をしていれば、一五階層のお出迎えと遭遇し戦闘態勢へと移っていく。

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