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二一話⑧

 一〇尺(3メートル)にもなる長い尾装びそうを揺らしながら、雹透族はくとうぞくへと接近した百々代(ももよ)は鋸剣を手に一歩踏み込む。

「グル、グガォォオオ!!」

「おおっとッ」

 攻撃をする様子も防ぐ様子もなかった雹透族だったが、咆哮ほうこうと言うべき発声で周囲の雪諸共(もろとも)、飛来していた駆刃くじんと百々代を押しやって姿勢を低く駆け出す。狙いは雷を放ってが目立つ百々代だ。

 尾で姿勢を調整し迫りきていた相手の連撃を回避、零距離擲槍ブースターにて距離を取っては擲槍射撃で牽制しつつ踏み込んで、鋸剣を振りかざす。

「へっ?!」

 普段であれば強い引っ掛かりを覚え、更に力を込めて踏み込む所なのだが。雹透族の刃へ鋸剣が迫り合った瞬間に、熱した刃物で乳酪にゅうらくを切るが如く滑らかさで、雷鎖が剣部が斬り裂かれ踏み込んでいた勢いのまま百々代が吹き飛んでいく。

「おうわぁっ!」

「グゥ」

 吹き飛んだ鎖が無数の雷撃を放ち、相手の毛先その少しばかりを焦がすも魔力耐性を持つ相手への有効打足り得るはずもなく。雹透族は嫌な表情だけ見せ、吹き飛んでいった百々代へ振り返った。が、そこにいるのは武王ラクエン、お得意の変わり身である。

 形は違えど厄介そうな雰囲気を有する武王を見据え、駆け出すために踏み込めば斜め後方から飛来する鏃石ぞくせきが雹透族の脇腹へと命中。魔力耐性の影響か、貫通することはなく石が腹部に残留し、牙を見せつけるような苦悶の表情を露わにした。これを皮切りに平原隊の擲槍と駆刃が矢継ぎ早に押し寄せては、羽虫にたかられたかのような煩わしさを隠さずに駆け出した。

 体躯を向けて脚を動かす先は一帆(かずほ)ら小煩いの集団。動くこともなく一処に留まり魔法射撃に専念している彼らなど、取るに足らんと言わんがばかりに鏃石だけを的確に剣で振り払い、瞬く間に距離を詰める。


(百々代の鋸剣が斬られる程の攻撃、三枚四枚、これくらいか)

 くるりくるり、そばへで浮かせた佩氷はくひょうを回して作り出すは分厚い多重障壁。百々代と二人での行動が主となった今、攻撃手として立ち位置が多くなっているが本職は防衛手であり、振り下ろされた二振りの剣を難なく受け止めて嘲笑う。

(鋭いが、遅い上に直線的だ)

「グルル」

 ただ、正面に障壁を張るということは、一帆たち側からの攻撃も一工夫必要になるわけで。下手に障壁下から飛び出そうものなら命はない、故に雹透族は一方的に剣を振り続け、正面突破を試みていく。

 そうしていれば背後から迫りくる二つの影。小梧朗こごろうと武王は左右に展開し、挟み撃ちにすべく距離を詰めては、成型武装を大きく振るう。

(左右からの同時攻撃、どうでる?)

 攻撃に出るか防御に回すか、手に握られている成形武装の様子を確かめながら慎重に踏み込めば、雹透族の胸部が大きく膨らみ。

(先の咆哮か!――まずい、)

 小梧朗が慌てた僅か後、炸裂音が後方で響き渡り雪中から現れた百々代が大きく片足を上げて、零距離擲槍踵落パイルドライバーを雹透族の後ろ足、その踵へと決めた。

 確実に骨の砕けた鈍い音と共に、雹透族は溜め込んだ空気をむせながら吐き出して姿勢を崩していく。四本ある内の一本とはいえ、百々代が繰り出す全力の一撃を防御もなしに食らったのだ立っていられるはずもなかろう。


「見せてあげるよッ、イアイドー!」

 武王が後ろに構えた太刀を手に、腰を落としては魔力を集中する。場所は太刀の背。

 背負招せおいまねき戦でも見せた零距離擲槍ブースターを用いた超々高速の一閃は、倒れゆく雹透族目掛けて振り上げられて不可視の剣閃は肩を綺麗に斬り落としたのである。

(早すぎて仕留めきれてないッ?!しかも腕ごと剣が吹き飛んまでいっちゃった!?)

「武王、解除ッ!」

 彼女の予定では上体を真っ二つにし戦闘を終わらせる予定だったのだが、結果は失敗。急ぎ武王を解除しては一帆と小梧朗へ目配せをし、残る後ろ足へと追撃を行った。

「グガォオオ!」

(あんな速度の剣撃は出来ないが、こちらも腕の一本は貰っていく)

 悶えて振り回される成形武装を回避しつつ内側まで入り込んだ小梧朗は、脇から肩へと刃を滑り込ませて振り抜き、残る腕も切り落としては全力疾走で駆け抜け距離を置く。

(よくやった)

「――氷花!」

 一帆たち四人の魔法射撃が炸裂し、蜂の巣となった雹透族は完全に倒れピクリとも動かなくなったのである。


―――


「お、終わった〜」

「お疲れさん。ぁ゙ー…」

 雪に塗れることなどお構いなし、小衣こころが雪に座り込み緊張を吐き出して寛いでみせ、隣には直睦なおちかが大の字で寝転んだ。

「はぁ、はぁ、これ…静雹透ではありませんよね?」

「違うな。新種、上位種とかそういう類いであろう。今後の階層はこれらが現れることを考慮せねばな」

「よく平常心でいられますね…、一帆さんも百々代さんも」

「慌てたところで有利になるわけでもなかろう。それにデカブツには多少慣れているからな」

「もっと凄いのとも戦ったので」

「敵わないなぁ」

「場数を踏めば慣れてるだろう、慣れていいものかは知らんがな。…次階層への方角は大方目星がついている、この新種を回収して一旦外に出るか」

「は〜い」「了解しました」

「それじゃあわたしが胴体を本体を担いでいきますねっ。起動。成形兵装武王」

 先程吹き飛んでいった腕も元通り。百々代は武王と共に蜂の巣になった雹透族を持ち上げては、わっせわっせと移動を始めるのであった。

「体力あるね〜、百々代さん」

「えへへ、鍛えていますんでっ!」


―――


「おおー!新素材か!」

「そう!新素材!すっごい鋭利で斬れ味のある成型武装を使ってたから、そっち側への触媒適正があるかもしれないよ」

 防衛官らが解体作業を行っている間、百々代ははやてへと報告へ向かいあれやこれやと話しを詰めていく。先ずは調査として各部位を融通してもらえるという点、そして有効部位があった場合に割安で譲ってもらえるという点である。

 魔法莢研究と製作を行っている百々代たちからすれば割安での販売は大助かりで、本来であれば素材の調査に長い時間を掛かるところ現地ここで行ってくれるのは防衛官としても大助かり。利害の一致というやつだ。

 迷宮の、魔物魔獣素材なんぞ普通の巡回官であれば即時売却だが、現在は百々代と颯が滞在及び活動をしていることから、小梧朗らも素材の扱いには結果が出るまでの様子見するらしい。

「君たち三人も様子をな」

「はい、代金はお支払いしますので優秀な魔法莢を制作できるのであれば是非にと」

「一応確認ですけど、何かあった際の修繕等は一般の工房では行えなくなる可能性が大いにありますが、大丈夫ですか?」

「呼びは持ちますので問題ありません」

「クククハハハハッハッハ!百々代くん、他人の金子きんす魔法莢まほうきょうを作れるぞ!」

「頑張ろー!」

「お前ら…、使い手のことは考えてやるように、いいな?」

「何を言ってるんだ一帆くんは。黒姫工房の魔法莢は一通り触らせているし、障壁だって最新式だ。どれも巡回官防衛官問わず使える仕様になっているのだぞ!」

「うんうん、わたし専用なら兎も角、蘢佳の使う魔法莢だって使いやすいはずだよ。探啼なんかも現在進行系で一般化できるように、颯さんと調整しているところなんだからっ」

 「それもそうか…」なんて思い出せば、百々代が使うもの以外は一般的な規格に収まっている。

「お手柔らかにお願いしますね…?」

「なに、安心し給え。法外な価格は取らんし、超えてしまってもこっちで負担しよう」

「…颯様。」

「あっ…」

「軽々しく口約束をしないでいただけますかね?」

 偶然に鉢合わせた虎丞こすけは雷雲を纏っていたのだとか。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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