二一話⑦
「さて次階層の探索だが、探索に有利な成形獣なんかは持っているか?」
「は~い、それなら私が雀偵持っています」
「僕もありますよ雀偵」
「ほう、二人も雀を使えるのか、これなら手早く見つけることが出来そうだな」
「これでも天糸瓜魔法学舎では優秀な方だったので」
直睦と小衣が魔法莢を取り出してみれば、百々代と一帆は感嘆の言葉を漏らす。鳥系の成形獣を用いる魔法師は多くない、三人が使えなかったのなら足で探索に出る予定だったのだから。
「天糸瓜魔法学舎では使えるおのが多いのか?」
「上位座なら半分くらいは使えますよ。上位座じゃないと二分半くらいですかね」
「すごいな。成形獣の授業に力を入れているのか」
「一年から二年までそこそこの回数があったはず、金木犀はどうでしたか?」
「二年に少しだけだよね」
「ああ。授業方針は二校で違うのだな。それでは探索に移るわけだが、こちらは蘢佳が鳥の成形獣を扱う。三基飛ばせるわけだから三方向へ散らせるつもりだが、…何かあるか?」
「「問題ありません」」
「そうか。ならば各々準備をして飛ばし始めてくれ、護衛は俺達が確実に熟すから安心しろ」
「静雹透はそれなりの跳躍力あるし、高所を飛ばしたほうが良いですよ」
「は〜い」
「起動。探啼」「「起動。雀偵」」
三基の成形獣が飛び去っていき、探索の時間が始まっていく。
探索を始めて四半時。護衛組はこれといってすることもないので手持ち無沙汰、百々代は一人身体を鍛えるために鍛錬を行っている。雪の中で。
「百々代さんは何時も鍛錬をしているのですか?」
「ん?ああ、この迷宮では単独で動かないようにしているからな、護衛自体は俺一人で足りるし、肉体強化魔法の仕様上日々鍛錬を行っている」
「底上げ型でなく、割増型ですか」
「そうだ。本体が基本となる魔法だから空いている時間を見つけては、ああして鍛えている。こっちの手は足りているから、真似したいのなら真似してくるといい」
「…。…っ。…そ、それじゃあ」
一度飲み込もうとしたのだが、小衣から目配せを受けて小梧朗は雪を掻き分け百々代に合流し、鍛錬に付き合っていく。
「いんですか〜?一帆さん程の美人さんでも優秀さもありませんが、ああいう実直な男に弱い女の人は多いですよ」
「平原は色恋の瞳で百々代のことを見ていないだろ」
「へぇ〜、しっかり見てるんですね」
「百々代に寄る虫はな」
小衣は多少余裕があるようで暇つぶしがてら言葉を続けてみる。
「波と風の噂で聞いたのですが百々代さんって市井の出身ですよね。伯爵家の一帆さんとどんな切っ掛けで出会って、どうして婚約したのですか?」
「…お喋りな鸚哥だ」
「仕方ないじゃないですか〜、市井出身の女の子と伯爵家子息が大恋愛なんて、恋愛劇の定番ですよ」
面倒なのが残ったな、とうんざりしながら成り行きで出会って成り行きで婚約し成婚したと告げる。身柄を狙われて助けられ、分かたれた二人は二年して学舎で再開。身を挺して一帆の命を守って、という話し。
「うわぁ、百々代さんってキラキラの貴公子じゃないですか〜」
「ああ。突っ走って危ないところもあるがな」
「私も好い人、見つけないと」
などと雑談をしていれば、直睦が小さく声を上げ。
「それらしい構造物を見つけました」
「よし、よくやった」「いいね〜!」
「おーい二人共、見つかったみたいだ!」
大きな声で呼んでみれば、大分温まった百々代と若干疲労の色が見える小梧朗が戻ってきた。
―――
人数も増えて、今までと比べ簡単に四階層への道が見つかったので、百々代は距離を置きすぎない程度の先遣として、雪を掻き分け進んでいく。非戦闘時の太い形状の尾装を身体の舵取りに、静雹透の襲撃などお構いなしな健脚っぷりである。
待ち伏せているわけでもない疎らな襲撃、数匹程度が相手であれば片手間での対処が可能までに静雹透の動きを理解していっていた。
魔物化以前の彼らは単独行動が基本で、樹氷の上から背後を狙って襲い来る少し厄介な魔獣だったが、魔物化後は目に見えて静雹透同士で協力し集団戦を主として動いている。
然しながら主力は出入り口の付近に屯し、こうして離れた位置で出会う相手は小規模な群れが多くなり、やや魔獣寄りな行動が主になるようだ。
「おっと、甘いッ」
右手から零距離擲槍を起動し、樹氷上から迫り来ていた静雹透を回避。軽い身のこなしで自身の速度を殺しながら尾っぽを展開、樹氷に引っ掛け起点にしては次々と繰り出される爪牙を去なし反撃へ出る。
牙は兎も角、
(急襲用の爪は次の行動を阻害する要因になってる、よッ!)
尾っぽを発条に全身を用いた浴びせ蹴り、そして零距離擲槍で一匹を倒しつつ。
「起動。成型武装」
雷鎖を展開し鞭のように振っては相手の攻撃を躊躇わせる。
バチバチと雷撃を放ち続ける鎖とたじろぐ静雹透。先に動いたのは勿論百々代で、連続の擲槍移動を用いた高速且つ特異な軌道に追いつけずにいた一匹へ膝蹴りを入れ、瞬く間に鎖を巻きつけては敵集団に蹴り飛ばして雷撃を散らす。
追撃で終わらせようと踏み込んだ瞬間、後方から飛来した擲槍と鏃石が一掃し終幕。
と思われたのだが、僅かに樹氷が揺れて襲撃を駆ける白い影。
百々代が即座に後退、巻き上がった雪が落ちるのを待てば静雹透の首と頭の間に人の上半身が挟まった、幽谷迷宮で見かけた鹿獣族の様な六肢獣が牙を剥いている。
「新手だね」
「そのようだな。…両手に成型武装、…静雹透の爪牙でも百々代の纏鎧が抜かれたことを考えると喰らえない攻撃だ」
六肢の静雹透、雹透族は体高が一間半、両の腕には一振りずつ一対の剣が握られ刃を百々代たちへ向けている。
「前衛は百々代、小梧朗は相手からの距離を維持しつつ百々代の援護、他は防御と牽制。いいな」
「「了解!」」
擲槍移動で距離を詰めた百々代の後を、少しばかり緊張の色が混じった小梧朗追う。今までも、巡回官に同行していた二年間に首魁と相対す事はあった、だが彼の心には一抹の不安。
(百々代さんたちの足手まといにならず動けるのか…?)
先の戦闘を見ても実力差は一目瞭然。そして静雹透よりも上位の相手と渡り合えるかどうかの心配が滲む。
(せめて邪魔にならないように、…なんて弱気じゃ憧れには届かないか。気合を入れろ小梧朗!)
成形武装を固く握り締め、駆刃にて牽制を行っていく。
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