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二一話⑥

 一日の休みを経て迷宮に潜る人数は倍の六人となり、三階層へと向かっていた。

「これが公言されていない試験中の魔法ですか?」

「前に百々代(ももよ)さんの使っていた成形獣せいけいじゅうに見えますね、鎧や剣はありませんが」

 小梧朗こごろうたちは蘢佳をみて、多少風変わりな人型の成形獣程度の感想しか抱くことなく視線を向けて眺めている。すると。

「はじめまして、手前てまえ蘢佳ろかだよ!」

「わぁ!百々代さんみたいな声で喋った!」

「発声とか魔法の発動を可能とした自律型の成形獣なんです。量産どころか二基目の製作も不可能な特別仕様な魔法で、ある程度の目処が立つまでは秘匿しておきたいので口外はしないでくださいねっ」

「あ、はい。わかりました。よろしくお願いします蘢佳さん」

「よろしく!」

 元気よく三人と自己紹介をして、百々代が魔法莢まほうきょうを手渡していけば自身の腰に佩いて、最後に石火砲せっかほうを受け取り貫通鏃石(ぞくせき)を装填した。

 前世の魂、その一部が入っています。なんて荒唐無稽こうとうむけいを言ったところで嘘としか思われないのだから、自律型の成形獣としてしまった方が色々と都合が良い。

 そんなこんなで六人が三階層へ到着すれば、待っていましたと言わんばかりに静雹透じょうはくとうが樹氷上から狙いを澄ましており、警戒態勢へと移っていく。


「小梧朗はあまり前へ出過ぎるな今回は様子見でも良い」

「は、はい!」

直睦なおちか小衣こごろうは百々代を気にせず魔法射撃を行え、アレに当てられたら褒めてやる」

「え?」「は、はぁ?」

「蘢佳は前衛に小梧朗が増えたことを意識して魔法射撃を行え」

「了解!」

 百々代へは特別に何かを言う必要もない。二人は僅かに視線を合わせて、戦闘が開始となる。

 平原隊は雪に足を取られるようなこともなく、零距離擲槍れいきょりてきそう尾装びそうを用いた百々代の自在の近接戦闘に目を奪われながらも、自身の役割を果たすべく各々動き出す。

 小梧朗は剣の成形武装を用いた近接戦闘、距離のある相手には駆刃を主力とする定型的な魔法師の戦い方。雪でも上手く立ち回っている姿を見るに、雪中戦闘に慣れているか悪所での戦闘を意ともしない才人なのであろう。

(識温視、なければこんな相手に対してここまで動けなかったか)

駆刃くじん!」

 手元で成形武装の振りを調整し、やや広範囲への駆刃を展開し三匹の静雹透を討ち取り、迫りきていた一匹を斬り伏せれば背後から数本擲槍が飛んでいき倒していく。

 振り返り仲間である直睦と小衣へ視線を向ければ、力強い頷きが返ってくる。

(二人も大丈夫そうだ。やれる、な)

 前に出すぎるな、この迷宮の先達である一帆の言葉を思い出し、一度気持ちを落ち着かせては迎撃へと戦闘手法を切り替えていく。

 そんな中で二人の擲槍てきそうを見事に躱し迫りくる静雹透の一匹を体温で捉えて、駆刃の準備をしていたら、鏃石が撃ち出され風穴を開けては吹き飛ばす。

 射線の元は蘢佳。魔法を使う、と説明はされていたし迷宮遺物を渡されていた所も見ていた。だが、実際に魔法戦闘を行うとは思っていなかったので驚きである。

(迷宮遺物を用いているとはいえかなりの威力、そして精度。うかうかしていれば立場がなくなってしまうかもしれないな)

 殆どが見知らぬ専用の魔法を使っている百々代、そしてめ莢研局員の颯と合作で作られたらしい魔法だ。自律型の成形獣を実戦配備できるくらいになってしまうのではないかと思っては、小梧朗は闘志を燃やし静雹透を討っていく。

(三人とも動きは悪くない、巡回官になれるだけの実力はあると。俺や百々代と違って蘢佳の刺激になるといいが)

 謀環むげんの溜めが終わるまでの最中、三人の観察をしていた一帆。そのお眼鏡にかなったらしく、蘢佳を刺激する要因、そして探索の仲間として頭数へ入れていった。

氷花ひょうか

 撃ち出された無数の紡錘形をした成形弾は外れることのない軌道線で敵に命中し、必殺の花を咲かせて戦場を静かに変えていった。


―――


「お疲れ様ですっ。皆さんお強くて、これからの探索は楽ちんになりそうで良かったです」

 この場に於ける最強がそれを言うのか、という話しだが、まあ嫌味を言うような為人でもないので、気にするものはおらず賛辞と受け取って互いに労っていく。

「百々代さんもお疲れ様でした。戦いっぷりを拝見したのは二度目になりますが、驚かされるばかりです」

「えへへ、魔法莢弄りが昔から楽しく、好きが高じて気付けば独自な戦闘手法となってました」

「今度、手合わせを願っても宜しいでしょうか?一度窮地を救われてから、百々代さんに憧れていまして」

「いいですよ。何処かの休みにでも模擬戦闘しましょうか」

「模擬戦闘するなら仲間の二人も加えてやれ」

「「え?!」」

「一人では相手にならないだろうし、厄介な魔物と思えば良い訓練になるはずだ」

「わたしは構わないけど」

「いい機会だし〜?」「胸を借りるとしましょうか」

「了解しました。金木犀魔法学舎の第一座として恥じない戦いをいたしましょうっ」

(俺の妻を口説いた意趣返しだ。医務室の世話にならないようにな)

(そ、そんなつもりは?!)

(冗談だ冗談。手加減もしてくれるだろうし、いい相手になると思うぞ)

 本当に冗談なのかは疑問であるが、彼女と手合わせするいい機会を得たと小梧朗は小さく喜んでいた。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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