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三話④

 数日が過ぎ学舎生活にも慣れてきた昼休み。百々代(ももよ)はのんびりと学舎を見て回るため一人、のんびりと歩いていた。

 向かった先は野外演習場。未だ魔法実技の授業は始まっていないため、少し物足りなさを感じて自然と足が向かっていたようだ。

 顔を覗かせてみれば二年から四年の生徒が魔法の練習をしており、自身と一帆以外の者が魔法を使っている光景に胸を躍らせて長椅子に腰掛ける。

 魔法に耐性のある物質を的に躑槍射撃等の攻撃に用いる魔法を撃ち込んでいる者と、成形獣を生み出し操作する者とそれを射抜こうとする者の三種類。

 熱心に鍛錬に打ち込む姿を見ては百々代も疼くものが有り、混じってしまおうかと考える始末。


(ちょっとくらい、いいよねっ!)

「お前、安茂里百々代だろ?」

 後ろから声を掛けられて振り向けば同じく一年の男子生徒が厳しい顔つきで立っていた。


「はい。安茂里あもり工房の安茂里百々代です」

「俺は下島商会の下島しもじま大吉だいきちだ」

「はじめまして下島大吉様。なにか御用でしょうか?」

「…。お前が演習場に行こうとしていたから声を掛けただけだ、実技首位を取ったのにも関わらず空いた時間に練習をするのか?」

「首位だろうとそうでなかろうと、わたしは魔法が好きなので鍛錬を積みますよ。それに今の位置に気を良くして踏ん反り返えるなんて面白くありませんし」

「面白くない?」

「ええ、まだまだわたしたちは路の始まりに立っただけ、殻の被ったひよこちゃんです。歩みだせば好きなところへと行ける可能性があるのですから、満足なんてできませんよっ」

(…。)

「…何故。安茂里百々代、お前は貴族とつるむ、俺たち市井の出と組まずに。貴族にでもなったつもりか?」

 若干の憎しみと苛立ちの籠もった視線に、小さく驚くも百々代は言葉を紡ぐ。


「潮の満ち引きが良い具合に合わさって、相まみえたからでしょうか。一帆かずほ様や結衣ゆい様、莉子りこ様、あん様とは二年前から交友がありますし、駿佑しゅんすけ様も良くしてくれますよ。…それと貴族になったつもりはありませんね、お話についていけない事も多いですし、根っからの庶民なんで」

(勇者に討たれた龍もほんのり混ざってるけれどっ)


「それだけの理由であれば、貴族なんぞに見切りを付けて俺たちに付け、お前は市井の出なのだから同族と組むべきだろう。魔法実技首位という十分な肩書もある、貴族共と対抗するだけの力はあるはずだ」

「…。下島大吉様は貴族がお嫌いで?」

「ああ、当たり前だろう。庶民というだけで見下し、相手にもしないあんな連中の何処がいいんだッ!?」

「そういう方がいることも理解していますが、わたしが一緒にいる皆様は」

「それはお前が魔法実技首位だからだろう!」

「えーっと。二年前から交友がありまして、すこし合格の時期は早かったのは確かですが、首位が判明したのは数日前ですし。久しぶりにお会いした社交会の前も迎え入れてくれました」

「どうせ最初から知っていたんだろ!あー…忌々しい、いいかお前は貴族共に洗脳されてるんだ、目を覚ませ。本当の仲間は同族たる俺達なんだ」

(貴族も人なんだから同種族だと思うんだけどなぁ…)

「先入観で距離を置いては見えるものも見えなくなってしまいますよっ。歩み寄ってみれば友情を育める人はいますし、高め合える相手は多いほうが楽しいです、絶対っ!…まだそんな友達といえる方は多くないので、胸を張って言えることでもありませんが」

「ッ!友情だの友達だの絵空事ばかり!いい加減にしろ!くだらん貴族の小判鮫め、せっかく首位だから組んでやろうと思ったのにッ、…汚らわしい」

 大吉の握り拳をみて百々代は小さく構えたが、暴力を収めるだけの理性は残っているようで、言葉を吐き捨てて校舎へと返っていく。


(こういう対立も王道だけど当事者となると難しいね…。学舎に通えて、一帆様と毎日会えて、皆と楽しく過ごせてちょっと浮かれすぎてたのかな)

 しゅんと落ち込んだ百々代はとぼとぼと校舎を目指せば物陰から見慣れた顔。


「百々代ちゃん…」

「莉子様。…難しいですね人間関係って」

 少しばかりバツの悪そうな表情を見せている莉子は、ジッと百々代の顔を見つめては意を決したように言葉を紡ぐ。

「そう、ですね…。で、でも!わたしは、百々代ちゃんをお友達ですから!」

「はいっ、ありがとうございますっ!わたしも莉子様は大切なお友達です。一帆様も結衣様も杏様も、あと駿佑様も、皆様わたしを、わたしに親切にしてくださいますし、初めてのお茶会の時にお声掛けしてくださってから、非常に心強いものがありました。まだまだ日は浅いですが、これからも共に過ごして何れは親友になりたいですっ!」

(他の人とも仲良くしたいんだけど、派閥っていうのは結構強固みたいで、あんまり交流がないんだよねー)

 茶会など社交の場を除けば基本的に派閥ごとに固まって動く。親の派閥だったり領地の集まりだったり、と理由は様々。寧ろ仲良し三人娘に一帆、駿佑、百々代の上位座三人が引っ付いている事の方が異色である。


「じゃあ、その様付けじゃない方がいいなって。余所余所しく思えちゃいますし」

「そうなんですか。なら、莉子さんっ!」

「はいっ、百々代ちゃんっ!」

 二人はきゃっきゃと戯れ合いながら学堂へと戻っていく。


「百々代ちゃんは実技楽しみなんですか?」

「はいっ、魔法を使ってる〜って感じがして楽しいので」

「そうなんですね、わたしはあんまり得意じゃなくて、授業に付いていけるか不安なくらい。…百々代ちゃんはどうやって魔法実技を優秀な成績に修めたのですか?」

「徹底的な反復練習です、よしみ先生に十分だと可を貰えるのに八年掛かりました。試験に合格した年ですねっ」

「は、はちねんですか…」

「楽しかったので、ついつい」

(前世では出来なかったから。生まれ持った瞳の力はあったけれど、炎を出したり光線を出したり、巨大具足ロボットを召喚し合体させて戦ったり、空を…空は魔法がなくても飛べたっけ。出来なかった事が出来るようになったのは、行動の源には十分だったねっ)

(コツとか聞きたかったけど厳しそう。杏ちゃんも似た感じだし、…一帆様か駿佑様に訊ねてみよう)

 のんびりと会話しながら二人は歩む。

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