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二一話③

「起動。探啼たんてい

 蘢佳ろかが起動句を述べれば黒の海鳥が現れて空へと飛んでいく。

「遠距離攻撃はしてこなかったけど、そこそこの高度を維持して飛んでね。この位置からじゃ援護はできないし」

「ん。」

 集中しているらしく相槌は半端。だが、確かな高所を飛んでいる姿を見るに聞こえてはいるのだろう。

「それじゃ反対方向を私が見てくるね、見つかったら信号弾をよろしく」

「ああ伝えておく」

 雪が積もっていようとなんのその、太い形状の尻尾を揺らして百々代(ももよ)は走り出す。重心調整は前回の潜行で感覚を掴み、悪い足場は纏鎧の形状変化で補って走る。

 それでも普段と比べて疲労が溜まりやすいらしく、所々で歩きに変えながら次階層への道を探っていく。


(方針計は問題なし。あそこにとんでるのが探啼だろうし、思ったよりも進めてないね)

 細視遠望さいしえんぼうの青を用いて青空に転がる一つの胡麻粒を見つけ、方針計と自身の感覚を結びつけて進んだ距離を大まかに判別。

(悪路に強い何かも欲しいけど。そろそろ魔法莢の配置が手狭だなぁ)

 扱う魔法そのものも多いのだが、複合式魔法莢が場所を取る。

(付けられる場所。…うーん、脇あたり?装帯具に武器を収めるみたいなのあった気がするし、記憶が正しければ)

 脇下に武器を収めていた勇者ヒーローの姿を思い出して、片側に三つ四つ入るかな、なんて考えた百々代は何処に発注するべきか悩んでいく。

 そもそもの話しだが、魔法莢をこんなに多く抱えて戦う者は彼女くらいのもの。接触、口頭、条件の三起動方式を用いて、常時効果があるものもあるとはいえ、脳内がこんがらがっては意味がない。

 備えあれば憂いなし、ともいうが択が多ければその分迷いも生じ、練達への時間も掛かるというもので。単独で動ける自己完結型の魔法師でも、基本となる纏鎧と肉体強化。そこに主力となる魔法と防御、上記に補助攻撃を加える程度なのだ。一部を専門とする魔法師、蘭子のような者は纏鎧と攻撃魔法に限っている。

 はたして百々代の魔法容積に限界はあるのか、甚だ疑問だ。

(離れるとまだまだいるんだ、静雹透じょうはくとう。移動するときは気をつけないとね)

 先の戦闘、つまりは迷宮門付近で見かけた個体群、彼らは防衛官への追撃や待ち伏せを目的に屯していた主力個体群であろうか。数も少なくやや小柄な個体の群れへ百々代が襲撃を掛けて、戦闘の開始となる。


―――


 同じ種で体格が小柄となれば、魔物だろうと弱い個体に他ならない。それなりに数がいようと脅威度は下がるもので。

 三方から同時に迫りくる静雹透の一匹を躱し、二匹を拳と細くの伸びた尾っぽで対処、躱した一匹目も擲槍を三本射出、牽制こそ外れるも本命の一本が命中。動きが鈍くなった瞬間に回し蹴りで蹴飛ばし倒す。

 彼女の強さは十分に相手へ伝わったらしく、機を伺うように距離を置き円を描くように歩き回っている。

「…。」

 雪中に尾を隠していた百々代は、勢いよく雪を巻き上げ自身への視線を一部阻害。

 妙な動きを見せた彼女へ静雹透も飛びかかるが、雪が舞い上がったその瞬間に息を潜めて不識しれないを起動し、尾装を切り離しては相手の横っ面をぶん殴り攻め掛かっていた。

「起動。成形兵装武王改」

 自切した尻尾へと飛び掛かって、罠だと気がついた頃にはもう遅く。一人と一基が大暴れできる土台は整っており、殲滅される運びとなった。

(よし、これでこの辺りは終わりっぽいか、――ッ!)

 武王を解除し雪を払って油断をしていた最中、雪中に潜んで難を逃れていた一匹が百々代の腕へと噛みつき、脚へと爪を立てる。迷宮内で纏鎧まで解除することはそうそうないので、腕千切られるような事態は避けられているが。

(力が結構強いし、動き辛いッ)

 ギリギリと音を立ててめり込む牙。余裕はないと頭を殴りつけるも、必死の獣はしぶとく弾性装甲を貫き百々代の肌にまで到達してしまう。

(やむを得ないね、運否天賦になるけれど!)

 零距離擲槍ブースターで跳ね相手を下敷き地面へと飛び込み、限々で動いた肘を喉へ突き立てれば牙から逃れることに成功。押し倒した相手へと零距離擲槍パイルバンカーを決めてしまえば、ピクリとも動かなくなる。

「腕が、動いてよかったぁ…」

 牙から逃れられていなければ、そのまま腕に貫通していたことは確か。かなりの強度を誇る纏鎧でも、油断ならない相手なのだと緊張感を持つ。

(結構ざっくりといってるね。脚は、…大丈夫。此処で解除して手当するより、戻った方が絶対にいいし、単独行動は控えよう)

 こんなところで命を失うわけにはいかない。百々代はそう力み、踵を返した。


―――


「百々代?!大丈夫か?」

「何かあったの?あっ、やば落ちる落ちる!うわぁー、解除解除!」

 一帆かずほの驚いた声に蘢佳が振りえろうとして探啼が墜落、騒がしく解除しては肩を落とす。

「ちょっと油断しちゃって、大事ではないけど医務室には行こうかなって」

「ああ、そうするべきだ」

「一旦戻ろっか。蘢佳の方はどう?」

「イマイチ、広くって見つからない」

「広いよね、静雹透の数はどう?」

「青もないし、探啼だと識温視ってのもないから見つけ難くって、わかんない」

「なるほど。大変な迷宮になりそうだね。今後はわたしも単独行動を控えるつもりだし」

「人手が増えてくれれば楽になるが、防衛官はあの様子だ。巡回官が新たに来るまでは小さな歩幅で進むとしよう」

「そうだねっ」

「蘢佳もお疲れ」

 三人は外へと戻っていき、百々代は医務室で簡単な治療を受けるのであった。

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