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二一話①

 百々代(ももよ)たち一行が向かったのは栂桜つがざくら街。

 一旦に椿崎つばきざき港に停泊し迷宮管理局で迷宮の周期やら情報を確かめてみれば、さほど遠くない漁港街で活性化と見られる魔物化等が確認されたらしく、彼女たちは莢動力船きょうどうりょくせんで乗り付けたのである。

 一風変わった船体に漁師たちは驚きに目を丸くしていた。


 いつもの通り真由まゆに船番を任せて、街外れにある管理区画へと向かっていく。

「ああー、どうもどうも。これはこれは。巡回官さんがもう来てくれるなんて、いやはやいやはや大助かりです」

 あわあわと慌ただしい職員は管理区画の扉を開けようとするも、手には鍵がなく周囲を見回しては机の上に転がっている鍵束を発見。走って向かえば膝が机に当たって険しい顔をしている。見てて不安になる職員だ。

「…。そんな大慌てする程なのか?」

「そうですどうです、それはそれはもう厄介らしく、防衛官の多くが医務室送りとなっていまして。昨日に急ぎで椿崎港の迷宮管理局へ要請を出したばかりなのです。まっさかまさか昨日の今日で来てくださるとは、出しに行った職員も戻ってきてないのに」

「こちらは少しばかり足が速いから、追い抜いてしまったのだろう。巡回官二人、魔法莢研究局員一人、侍従一人だ問題はないか?」

 四人が身分証を提示すれば首が振り切れ程に確認し、許可証の発行と押印を行っている。

「ええ、ええ、問題ありません。ここは資源迷宮ですので一応のこと許可証を紛失することないようお願いします」

「はーい」「了解した」

 一行は宿舎で部屋を確保し、管理署に足を運び状況の確認に向かう。


「巡回官の篠ノ井(しののい)一帆かずほと妻の百々代だが、どういった状況だ」

「これは巡回官殿、お早いご到着ですな。…状況ですが…厳しいの一言に尽きます」

 栂桜街の樹氷林迷宮は、氷に関する魔法の触媒として一部用いられる永年樹氷木を産出している資源迷宮。

 氷は生物なまものの保存から、夏場の製氷、攻撃魔法等々の様々用いられる便利な存在で、需要の多い魔法の一つとなっている。

 さて、そんな樹氷林迷宮の状況といえば、壊滅的の一言。

 先ず主要な魔獣であった静雹透じょうはくとうの魔物化。静雹透はまるで氷にも見える銀世界に溶け込むような体躯からだをした猫系の魔物で、樹氷上から獲物を狙い襲いかかってくる厄介な相手。元より見つけ難い姿をしていたのだが、姿を可視し辛くする阻害の魔法と爪と牙を作り出す計二種の魔法を得たことで、防衛官には手に負えない状況と化している。

 その上で全ての階層の構造変化が発生し、あまりに足踏みをしていれば氾濫が起きかねない状況なのだという。構造変化から三日なので秋桜こすもす街のような突発的な氾濫が起きない限りは心配ないのだが、何が起こるかわからないのが現在の迷宮事情。

 迷宮内に取り残された防衛官こそいないが、救出にでた者の多くが重傷を負い、現在は医務室で治療を受けながら生死の境を彷徨っているとのこと。死者が出ていないのが不幸中の幸いだ。


「不可視ではないが視認に対する阻害持ち、思ってた以上に厄介なことになっているな」

「氷のような体躯って事ですが、他の生き物のように血肉のある魔物なんですか?若しくは成形獣の様な生物せいぶつ的な見た目の非生物とか」

「特殊な体毛を持つだけで動物近い存在ですな」

「なら識温視しきおんしが使えるかもしれませんね」

「識温視、ですか?」

「体温を見る魔法で、視認し難い相手に対して有効な肉体強化なんですよ」

「なるほど。有効であれば椿崎所に要請をしておきましょうか」

「是非にも。ではわたしたちは準備をして迷宮に向かいますね」

「お気をつけて」

 百々代一帆は宿舎に戻っては潜行準備を整える。


―――


「起動。蘢佳ろか

「あれ?手前も連れてってもらえる感じ?」

「流石にちょっと危ないだろうからお留守番だよ。月梅つきうめじゃあ外に出れてないし、部屋内で羽根を伸ばしてもらおうとね」

「助かる〜」

「はいこれ、迷宮遺物の石火砲せっかほう。壊したり無くしたりしないでね」

「おおお!本物だ!うぇっへっへ、かっこいいー!」

 ご満悦な声色と石火砲を手に構えを取る様子に微笑ましさを感じながら、百々代は準備を進めていく。

「やあ百々代くん、状況はどうだった?」

「厳し目っぽいから二人で潜行してくるねっ」

「そうか、気を付けてな。ふむ、蘢佳くんを置いていくなら手伝いに借りてもいいか?」

「いいぞ!手前が手伝ってやろう!魔法を作るのか?」

「そんなところだ」

 宜しくねと預けつつ、魔法莢や防寒具を備えて一帆と二人、迷宮門へと向かっていく。


「はい、識温視。一帆も使ってね」

「有効だといいのだが…」

「だね。わたしたちで対処できても、今後に他の防衛官さんや巡回官さんが対処できなかったら意味ないもんね」

「ああ。同じところに常駐するつもりはないのだから、対抗策が用意できるに越したことはない」

「さて。起動。強化。一触二重いっしょくふたえの纏鎧うろこよろい。試作成形尾装(びそう)

「その尻尾を実戦投入するのか」

「うん。月梅で動作の調整は終わってるからね。後は実地での使い勝手を反映するだけだよ」

 百々代の腰部からは蛇腹模様じゃばらもようで中程が太い、ぶにっとした芋虫を彷彿とさせる尾が生え伸びていく。まるで蜥蜴擬とかげもどきのようである。

 これは以前から構想していた成形魔法を用いた義肢を応用した人体の拡張。武王ラクエンを軽々と動かせるように生った百々代だ、これくらい不思議ではないのだが…少しばかり異形感のある見てくれとなっていた。

「指示通り動かしてみろ。右、左、右、上、下、丸めて、叩く。問題なさそうだな」

「巻きつけることもできるよ」

 長さ四尺(120センチ)程の尾で一帆の足へくるりと巻き付けて、甘く締める。

「人体拡張なぁ…、腕を生やせば戯へよりも楽に杖を扱えるか」

「だね、今度増やしてみる?浮かせるのと違って、身体に重量が載るから疲労感は増えるかもしれないけど」

「…そうか自身に杖と成形魔法の重量は増えるのか、落ち着いたらやってみるとする」

 なんだかんだ新しい魔法に興味津々な一帆は少し考え、頭を迷宮の制圧へと切り替えて魔法の準備を行い。

「では行こう」

「うんっ!」

 二人は極寒の迷宮へと潜っていく。

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