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一九話④

 羽根を伸ばしつつ時を過ごしていれば散秋季さんしゅうきも半ばを過ぎて、そろそろ冬支度なんて考える頃合い。百々代(ももよ)たち一行は首魁に挑むべく回廊階層へとやってきていた。

「それじゃあ首魁に挑むわけだけど、はやてさんと蘢佳ろか一帆かずほから離れないように。活性化はしてないし今までのと変わらない金脆きんせいが現れるはずだけど、迷宮では何が起こるかわからないからねっ」

「承知した」「了解」

 基本的に百々代一人でも対処可能な相手ということもあり、見学二人を一帆が護衛する形で首魁へと挑む。

 天上高原に竚む多種多様な金属の寄せ集めが金脆きんせいで、土脆どせいと比べて固くなってはいるものの強いか、脅威か、と尋ねられれば首を横に振る相手である。


(それじゃあ、)

 百々代は零距離擲槍ブースターで跳び出し急速に距離を詰めては、飛び蹴りで以て腕部のような一塊ひとかたまりを破壊する。金脆はこの迷宮に於いて数少ない迷宮資源、防衛官からはなるべく原形を保った状態での撃破をお願いされた。

 つまりは覆成氷花ふくせいひょうかを用いれず、彼女が殴り壊す必要があるのだが。

(資料によれば弱点たる核は背部)

「起動。成形兵装武王(ラクエン)あらた

 至近距離で作り出した武王を囮に、百々代は金脆の脇を走り抜けては背部を確認すれば、黄金色に輝く金属が生えており金属の体躯を構成する核である。

 振り下ろされた腕を太刀で切り裂き、下半身と思われる部位へと刃を入れて転倒させれば藻掻くだけの金属塊が出来上がり、背部の核を全力で引き抜けば戦闘は終わりだ。


「百々代くんの戦う姿ばかりを見ていると感覚が麻痺しそうだ」

「近接戦闘を主体とする魔法師でも普通はあんなに動けんからな、魔法を作る際には参考にするなよ」

「わかっている」

「改めて遠くから見てると意味分かんないよ…」

 帰ってきた百々代は首を傾げ。

「何の話ししてたの?」

「百々代が強いなぁって話だ。あの金属塊は持って帰れそうか?」

「ちょっと無理かな、重すぎるよアレ。わたしと武王で腕一本程度だから、防衛官さんたちも総動員で少しずつ運ばないと数日は掛かっちゃうね。核だけでもこれだし」

 手に持っていた核を手渡してみれば、余りの重さに一帆は落としそうになって冷や汗を流す。

「よくもまあ片手で軽々と持ってきたものだ」

「肉体強化乗ってるし、これくらいなら」

「俺も肉体強化は起動してるが、底上げ型ではな」

「一緒に鍛える?」

「勘弁してくれ、ついて行けんよ。よし、持てる程度持って迷宮をでるとするか」

「「「おー!」」」

 それから数日間に渡る運搬作業を終え、いくつかの金属を受け取った篠ノ井一行の花滑莧街での迷宮仕事は終わりを告げる。


―――


 迷宮探索を終えて、報告書を書き上げた二人は迷宮管理局連翹所へと郵送し、借りていた部屋を軽く片付けては出立とする。次に向かうのは月梅領都、事前に貸切馬車を頼んでいたので荷物を積み込んでは馬車に乗り込み、防衛官らに見送られている最中。

「篠ノ井ご夫妻のお陰で我々も羽を伸ばすことができました、ありがとうごうざいます。階層も浅く資源も多くない、人気にはなり得ない迷宮なので、首魁が現れても防衛官で対処しないといけないこともしばしば、本当に助かりました」

「巡回官として当然の仕事をしたまでですよっ。その、長居してしまったので職員さんたちに迷惑がかかってないといいのですが」

「ははは、全然に構いませんよ!賑やかで楽しかったくらいです。また寄ることが有りましたらお顔を見せてくださいね」

「はいっ、その際は土産話なんかも持参しますね!それではまたー!」

 防衛官と職員らはニコニコと笑みを浮かべて、静かになってしまうと寂しがりながら百々代たちを見送り、各々の職務へと戻っていく。

 こうして旅立ちを惜しまれるのは人懐っこく朗らかな百々代の人徳であり、軽々と難なく迷宮から魔獣を処理してみせる二人の実力あっての物種なのだろう。


「次は月梅領、駿佑しゅんすけさんと莉子りこちゃんは元気かなっ」

下島大吉しもじまだいきちが言うには仲良くしているらしいから、元気でもやっているだろう」

「お二人の学友…でしたか?」

「はい、仲良しの大親友のお二人です。駿佑さんは月梅伯爵家の跡継ぎで、莉子さんは駿佑さんの婚約者なんですよ」

「伯爵家でしたか。たしか…沈丁花じんちょうげ伯爵家とも御縁がある様子でしたし、学舎を最大に活用できていますね」

「なんだ。吾に何かいいたいようだが、魔法下手の魔法馬鹿だと遠巻きにしていたのは他の生徒の方だぞ。まったく、百々代くんのような学友が現れなかったのが悪いのだ」

 ふん、と顔を背け鼻を突き出した颯は不機嫌そうにする。そこそこに変わり者であり、周囲と比べると年齢も二つ下で小柄な彼女は鼻摘まみ者…とは言わないまでも少しばかり浮いた存在だった事は確かである。

「そ、れ、に!今の吾は百々代くんと一帆くんと確固たる縁を手に入れたのだ、十分にお釣りのくる結果であろう!ハッハッハッハ」

「私的にはしっかりと正妻の地位で、真当な婚姻を結んでほしかったのですがね。三人共に不服がないようなのでこれ以上何もいいませんが」

 三人は顔を見合わせて僅かに考え込むが、現状の関係に文句はなく今後とも上手くやっていけそうな気がしているのは確か。

「結婚するってことはさ、颯さんも一帆と―――」

 百々代の発言に一帆と颯は吹き出し、顔をしかめて頭を抱えたのだとか。

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