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一八話⑯

「ちょっと、急に繋がりが断たれたから驚いたじゃない。何処で何をしてたの?」

 ダンジョンの大広間に立っていたアレックスのもとへ、光の粒子が集まり神族であるサテーリアが姿を見せる。

「仕組みは不明だがローカローカの転生体と遭遇した。遠く異なる世界でだが」

「転生…?ローカローカ、…そう。恨み言でも言われた?」

「はっはっは、驚け人族に転生していてな、全く気にした風もなく楽しく幸福に日々を過ごしているとのことだ。友に恵まれ成婚し、民のために尽力する勇者ゆうしゃのような仕事に就いているらしい。…そして、私達の事を赦すと」

 サテーリアは目を瞬かせては、彼の言葉を反芻はんすうし安堵の吐息と小さなが笑顔を浮かべる。

「そっか、そっかぁ。会ってみたかったなぁ、どんな見た目だった?」

「背の高い女の子だ。どうにも瞳の力は継承されてしまって、普段は隠しているようだが澄んだ青と金の瞳で――」

 百々代から聞いた話を語り、良かったと改めて二人は喜んだ。

「――以上だ。さて、心の荷も下りたところで私にはやりたいことが出来てしまった。どうだろうサテーリア、力を貸してくれないか?」

「なにするの?まあ長い付き合いだし、よっぽどなことじゃない限り協力するけども」

 二人はダンジョンを戻っていき、楽しげに会話を交わす。


―――


 扉を出た二人は先程よりも小さな広間へと出ており、顔を見合わせて無事を確認しては安心した。

「よかった、本物の百々代(ももよ)だ」

「偽物がいたの?」

「ニ年末の百々代と戦っててな、相性の有無を感じさせられた」

「今の一帆かずほの構成だと厳しいよね…」

「百々代の方はどうだったのだ?」

「わたしはローカローカを倒した勇者とお話しして終わったよ」

「偽物のか?」

「うーん…どうなんだろう、わたしを倒してから二〇〇年とか言ってたから本物だったりね。内容は後で教えるよ」

「わかった。…戻るか、もう随分と疲れたからな」

 戻りつつ報告を行い、首を傾げた一行が首魁階層と思われる階層へ潜行するも二人のような不可思議現象は発生せず、篠ノ井夫妻の二人が解決したという結果になった。

 そして一七階層が最終階層だったようで、宝物殿の回収を行って巡回官らは初踏破を知らせるべく迷宮を出るのであった。


―――


 首魁討伐から幾日の時を経て、それまでと比べればいくらか落ち着いたとはいえ未だに人の多い猫足村。資源迷宮ではないものの、流物が多く手に入る仕組み上これからも人の多い迷宮となるのだろう。

 村を治めていた貴族も子爵の地位を用意され、猫足村から猫足街へと名前が変わるのも僅かな時の後である。

「よっ、もう行っちまうのか?」

「初踏破の名誉は得たからな」

「そうかい、お二人さんならどこでもやってけるだろうし頑張ってな」

「はいっ!靖成やすなりさんもお元気で!」

 偶然出くわした靖成に見送られて、四人の乗った馬車は軽快な進みで連翹れんぎょう港を目指していく。


「次ははやてさんも同行できる脅威度が低めな所が良いね」

「名目上遊学だからな!猫足では随分と働いてしまったから、魔法弄りに専念できても嬉しいのだが」

蘢佳ろかの調整も必要だからねっ。起動。試作一号」

オラ(ハァイ)!手前の鍛錬に時間を使える場所だと助かるんだけども」

「脅威度の低いところに行こっか」

「そうだな」

「…何度見ても、不思議な光景ですね」

 胡乱な瞳を小さな成形体へ向ける虎丞こすけ

「わたしの腹話術だと思ってもらってもいいですよ」

「元は…一緒なのですよね?」

「はい、そうみたいです。アレックスさん曰く、はみ出たり分裂してしまう事は珍しくないのだと仰有ってました」

「そういうことであれば腹話術とでも思っています」

「今更だけど蘢佳って眼の力は使えるの?」

「ぜーんぜん。緑が百々代に入っていることを考えると、そっちに移乗したとか」

「なら黄色とか使えれば便形なんだけど、………うーん、無理そう」

「無理に出さないほうがいいでしょ、人の身には過ぎたる力なんだしさっ」

 それもそっか、と笑って目蓋を持ち上げれば青と金の瞳。

「黄色はどんな力があるのだ?」「吾も気になるぞ」

「浮遊と飛行だね。二町(220メートル)もあった体躯でも自在に空を飛べたんだよ」

「勢いよく湖に飛び込むのは気持ちよかった」「ねぇー」

 なんでもありな一人と一基だと思いながら馬車に揺られる三人でであった。


―――


「旦那様、虎丞の方から颯お嬢様の活動及び収支報告が届きました」

「“収支”報告と?」

「はい。そのように書かれております」

「…。」

 嫌な予感しかない華風かふうだが、報告書の封を切り書類に目を通していけば、連翹領の新規迷宮へ向かった事、内部は颯にはやや危険であると外で魔法莢研究局員として働いていた事、そして管理区画の建造に大きく尽力したと記されており、おっかなびっくりと紙を捲っては損失を検める。

 主のホッとした表情に華風の侍従も胸をなでおろしては、赤字ではないことに安堵する。

「如何でしたか?」

「…。」

 侍従は差し出された書面に目を通す。虎丞が上手く遣り繰りをしたのだろう、確かな黒字が記されており利益を旅費に当てるという旨まで付け加えられている。

「なるほど。…颯お嬢様が篠ノ井に嫁ぐことになりましたし、虎丞にも良い相手を見繕ったほうが良さそうですね」

「ああ。帰り次第、要望を聞いてくれ」

「仰せのままに」

 侍従が出ていった後、虎丞を付けて本当に良かったと華風は遠い目をした。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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