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一八話⑭

「ここは回廊階層…つまり一七も首魁と、これは骨が折れるね」

 肩を竦めた修太朗しゅうたろうはやれやれと百々代(ももよ)たちへ振り返る。背負招せおいまねき相手にも窮地に陥ること無く突破できた一行だが、首魁の連戦となれば話は別で辟易した表情が浮かんできた。

「んー…なんか看板みたいなものがありますよ。暗くて見辛いのですが」

「看板?どれ、進んでみるか」

 進んだ一行が見つけたのは看板と次階層を閉ざす両開きの扉。

「『力を示せ、汝が超えずある相手が待つ』ねえ」

「超えられていない相手ですか、すっごい強敵がいるんでしょうね」

「厄介そうな階層には違いない。どうする少数ででも様子を伺いに行くか?」

「ならわたしと一帆かずほでいく?いざという時に、一人くらいなら余裕で担いでいけるし」

「そうするか。相月あいづき、俺たちで様子を伺ってくる、一五階層との報告をよ頼む」

「わかったけれど…無茶はしないようにね。先の階層でも事故ったばかりなんだしさ」

「ああ、心得ている」

 篠ノ井(しののい)夫妻は臨戦態勢で扉を開き、一七階層へと潜っていく。


―――


 一帆が階層を潜行し穏やかな陽光の降り注ぐ大広間に到着すれば、隣に百々代の姿はなく、後ろを隣を確認して前へ向き直す。

 すると前方暫く先に彼女らしき後ろ姿を確かめて歩み寄ってみれば、どこか違和感のある風貌。

(…?何か…違う。…あぁ学舎の制服を着ているのか)

「百々代、制服なんていつの間に用意したんだ?というか、首魁は…いないのか?」

「…。」

 返事なく振り返った百々代の相貌はどこか少し幼く懐かしいもので。

「起動。強化。一触二重いっしょくふたえの纏鎧うろこよろいッ!」

 と臨戦態勢へと移って零距離擲槍で距離を詰めた。


「どういう?!」

 混乱しつつも佩氷はくひょうで障壁を展開しつつ進路を阻害、右手で腰にいた氷矢ひょうし魔法莢まほうきょうへ触れて迎撃を行う。避けられる事を前提に、左右への牽制と上への主力。飛び越えられた場合は距離を著しく詰めれてしまう為に上を篤く守る必要がある。

(腕からの擲槍でどちらかの横避け、そこから直進だろう)

 一帆の判断は間違っていなかった。後ろに引かれ構えられた左腕からは擲槍を出せず、右腕から零距離擲槍ブースターを行い左に小さく吹き飛んでから、直進するべく再度起動し加速した。

(腕を引いている…?服装もだが、これは…)

 在学中の百々代である。


(だが、速い!)

 今と比べれば大分実力の落ちる相手だが、そもそもの相性が悪すぎる。障壁を展開しようと軽々飛び越え、氷矢なんかは苦も無く回避され距離を詰められた一帆は腹に一発拳をもらった。

「ぐはっ!」

 零距離擲槍パイルバンカーこそ起動されていなかったが、纏鎧てんがいは砕かれ床を転がった彼は呼吸を整え起き上がる。

(鱗の纏鎧と構え動作が同時に存在する時期は、二年末から古海底に向かうまでだったか。…実技試験のやり直し、と)

 だが、現在の一帆の構成は中距離から遠距離への覆成氷花ふくせいひょうかを用いた固定砲台役。霙弓えいきゅうでもあれば未だ楽なのだが、焦げて炭化し篠ノ井の屋敷で手入れをされ飾られているので使用不可。

(超えずある相手、な)

 座り込み百々代擬(ももよもどき)に視線を向ければ、起き上がるのを待っているかのように、彼女らしい動きで待機している。


「お前は百々代本人か?」

「違いますよ。一帆様の見ている一抹の夢みたいなもので、お気兼ねなく倒してもらって大丈夫ですっ!」

「何故今は攻撃してこない」

「殺すことが目的ではありませんので」

「なら何が目的だ」

「目的はありません、そういう現象なんですよ」

「あくまで迷宮ということか」

 返事はないがニコリと微笑んで、一帆が立ち上がるのを待っている。

(攻撃してこないのなら状況を理解しよう。相手は二年末の百々代、撤退用の通路は…なくなっている。本人ではないから今の対魔物魔獣構成で倒してしまっても問題ない。氷矢と氷花でどうにかしないといけないが…)

 考え込み戦略を練る。

 擲槍移動に構えが必要な都合上、擲槍射撃と擲槍移動は同時に使用できず時期的に武王も不識もない、一帆の記憶にある強者の蕾だ。

「再戦だ」

 ニコリと微笑んだ百々代擬に一帆は、瞬く間にまた敗北した。


―――


 一二回ほど負けて一帆は床に突っ伏しては、今回は何が駄目であったのかを整理し次への糧に変えていく。

(走りながらの魔法も慣れてきた。…出来るまでやれば出来る、か)

 息を整え髪を掻き上げては、百々代擬を見据えてから立ち上がり深呼吸をする。

「これで終わらせる。昔の百々代も好みだが、本物の方が好きなのでな」

「えへへ、頑張ってくださいねっ」

 駆け出した百々代擬を視界に収めつつ、一帆は障壁で進路を潰しながら足を進める。足を動かし戯へで佩氷と涙杖を浮遊及び操作して、且つ相手を見失わないよう意識しなくてはならない。

 …加えて氷花の軌道線を描くのだ、彼の頭はいっぱいいっぱいになっていくも、あの時の百々代に勝ってみたいという感情が勝り身体を頭を動かしていく。


「起動。――」

「起動。成形武装。雷鎖いかづちとざす鋸剣( のこぎりのつるぎ)ッ!」

(早いな。だが腕での擲槍は制限された今が―――好機!)

「――氷花!起動」

 溜め終わった氷花と障壁で相手の進路を大きく制限し、踵を返して一帆自身も接近すべく全力で駆ける。

 くるり、くるりと月の涙杖を回す条件起動で凍抓を繰り出し、肉薄した百々代擬の剣撃を誘発。

「―氷花ァ!」

「…。ッ!」

  射出されると想定し、鋸剣を手放し右腕から擲槍を放って無理矢理に回避した百々代擬は、ニヤリと口端を釣り上げた一帆にしてやられたと確信する。

「あちゃー」

 視界に入ったそれは滞空状態の氷花で、無駄に擲槍移動を行ったがために魔力の集中が間に合わず、着地の寸前を狙った氷花は撃ち出され百々代擬の身体にめり込むんだ成形弾が炸裂し、彼女は霧散していった。

「はぁ、はぁ、これで終わりか?」

 返事らしき反応はなく、広間の中央に扉が現れて一帆は一切の迷いなく把手はしゅを引いた。

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