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一八話⑬

 六階層から一四階層までは、急いで潜る必要があったため進みが早く、凡そ一日と半分の時間で到着する事ができた。

 あちこちで構造変化が発生していても、使える人員を盛大に使った人海戦術で足を進め、巡回官一丸となっての到着である。

「きっつ…」

 休憩こそ挟んでいるものの、一帆かずほは目元を軽く痙攣けいれんさせ疲労の色が濃く出ていた。

「重症者が担ぎ込まれて以降、潜ったやつはいるか?」

「いいや、そんな無茶する奴は残ってないよ」

「お、修之字しゅうのじはこっちにいたのか」

「間に合わなかったけれどね」

「まっさか少数で突撃するとは思わないだろうて。そんで相手は?」

かに、だそうで。片腕だけが異様に大きい巨大蟹だってさ」

潮招しおまねきか。」

「他の特徴や戦闘方法なんかは知っていますか?」

「どうにも背中に魔法で援護を行う菟葵いそぎんちゃくがへばり付いてて、二匹で一対の首魁らしいよ。蟹本体もかなりの硬度をしているみたく」

「難敵と」

「俺と、百々代(ももよ)さんが前にでるか。そんで攻撃担当は一帆さん、…他は様子見しつつ防御を中心に援護ってところか。囮役いいか、百々代さんや?」

「問題ありません、後ろにいてはやれることが多くありませんから」

「こちらも問題ない」

「さっさと方付けて、この迷宮も終わりにしちゃわないとね」

「…終わるといいがな」

「止めてほしいな、そういう思わせぶりな台詞。まあ、既に首魁階層を抜けているわけだけども」

 そういして装備の構成を整えた巡回官らは、首魁を倒すという確固たる意志のもと一五階層へ足を向ける。


―――


 階層を移った瞬間、合図も無しに百々代と靖成が駆け出し後方の面々から距離を置く。

 走りながら鋸剣を起動し菟葵を背負った巨大な潮招、背負招せおいのまねきの注意を半ら一身に集めるべく立ち回る。

(誘導性の水魔法、結構速い。けど)

 百々代と靖成やすなりへ向けられた水弾は軌道を修正し迫りくる厄介な攻撃魔法。但しそれなりの速度で撃ち出されている都合上、限々での回避には対応できず足元に染みを作るばかり。自身を狙い来る大粒の雨を躱しながら相手の足元へ到着した彼女は、鋸剣から制動弁を引き抜いて回転力を上げ、全身全霊を以て八本生えている足、その関節へと刃を入れた。

「ッ!」

(かったい、なぁ!)

 零距離擲槍ブースターを糧に威力増しの斬り上げだが、関節部は傷が付いた態度で決定打足り得ていない。片手を離し擲槍移動をしては、背に飛び乗り菟葵へ視線を向けた。

(ッ!反応が速いッ)

 背の菟葵は既に数多の泡を宙に展開しており、合間合間から水弾が放たれては撃墜される。咄嗟の判断で身を屈めて致命的な損傷を回避するが、纏鎧への蓄積は割けられない。


「大丈夫かよ、百々代さんや」

「特別な纏鎧なんで、…問題ありません。解除」

 出力開放状態では回復性のある纏鎧といえど損傷が上回る。一度解除しては靖成の手を借りては起き上がり、接触起動で障壁を展開し水弾を防ぐ。

「異常な硬さから…硬化の魔法を持った魔物、ですね」

「俺も手が出ない硬さってことかね。暴れ散らかして一帆さんの攻撃を待つ、しかないか」

「ですね。それじゃあ」

「暴れっか!」

 障壁での時間稼ぎも終わり、纏鎧の損傷も治ったのを確かめて二人は左右に散る。


(泡を攻撃には用いてこなかった。…ならあれは守りの手段、と考えるほうが無難だよね。一帆の邪魔になっても困るから)

 走り出した百々代は左手を腰の擲槍射撃へと触れさせ、複数を泡目掛けて撃ち出すが一発では割れず三発は必要。ならばと捻り細め貫通性に特化させてみれば一発で弾けたので、連射性は落としても確実に一発一発で潰していく。

(これで位置的に割っている姿は一帆から見えているはず。あの程度じゃあ氷花ひょうかは炸裂しないけど、泡にしては硬いし一応懸念はしておかないと)

(百々代の剣で断てない装甲に、防御を務める泡の魔法。ある程度のお膳立てはしてくれているが確実性を増すために、軌道線を調整)

 前衛二人に攻撃が集中しており、手隙な後衛は不必要な敵視をされぬよう手出しはせずに一帆の準備を待っている。

「――大氷花だいひょうか!」

 成形魔法故に大きさや形状を小手先で変えることは出来ない。だが内部の炸裂機構は射撃魔法のそれ。相手の装甲をぶち抜く為に最大限まで威力の上昇に努めて、成形弾を高く高く撃ち上げた。

 当たらないような軌道線に誰しも目を疑うが、背負招の頭上へ到達した瞬間に魔法は角度を大きく変更、真下を目指して加速、再加速。

 威力減衰を失う謀環は急な軌道線を描いたところでなんのその、上昇に掛かる減衰もなくなる優れ物だ。

(泡を無駄に使わず、こちらからの射線切りと百々代たちへの妨害に集中してたから頭はお留守だ)

 菟葵部分へとめり込んだ成形弾は着弾と同時に内部の氷魔法が炸裂、潮招の上に巨大な氷の花を咲かせた。内部から無数の棘に刺されて、氷漬けになった菟葵は砕け散り氷片と変わるが潮招に変化はなく、多少甲羅に氷が這った程度。


「…硬すぎんだよ」

「これは、こっちが主力ってバレちゃったね。お仕事お仕事っと」

 修太朗しゅうたろうは短杖を手に取り相手の出方を伺っていく。

「魔法の射出前に杖を振る」

「了解さん」

 潮招はチョキチョキと右腕の大きな鋏を二回三回動かしてみては、飛び出ている目を動かして先程まで喧しかった百々代の姿を探る。着弾の瞬間までは確実に視界に収まっていた相手は僅かな隙に姿を消して、何処かへと潜んでしまった。

 どこか放置しきれない厄介な異物が逃げ去ったと判断した潮招は、有象無象の中で圧倒的な脅威度を誇る金髪の青年へと狙いを定めて、左腕の鋏を突き出した水の刃を射出し始めた。

(遠距離も完備と。見るからに水だし、とりあえずは)

「起動。水除結界みずのけのまもり。起動。障壁」

 外からの水魔法をに対して威力減衰と遅延の弱体化を付与する対水結界に、必要最低限の大きさで展開された障壁。味方の阻害をせずに相手の攻撃のみを確実に防いでいく、効率的とも言える手法なのだが…変態的と言う方が正しい戦闘手法だ。

 他の巡回官が牽制射撃に専念しつつ、修太朗が防御に専念。先に痺れを切らしたのは潮招で、巨体を動かしては突撃を敢行する。

「そうは問屋が卸さないってか。…かっったいな、おい!」

 進みだした足を迷宮遺物の着火焼刃つけやきばで殴り炎上させるも、これといった効果ない。…それどころか靖成の手が痺れている始末。


「やべっ!」

 バチン!反撃は大きな鋏から繰り出される強烈な一撃。目にも止まらなる速さで繰り出される鋏撃は、喰らってしまえば頭蓋だろうと胴体だろうと真っ二つ間違いなし。

 靖成は冷や汗を流しながら寸前の回避に成功した。

(流石に止まんねえのな。一帆さんは広範囲の魔法を使うから、あんまり近づけさせたくないんだが、百々代さんはどこに行っちまったんだか)

 後ろから魔法射撃で攻撃するも何する風か、お構いなしに潮招が進んでいく。


(悪いけど、これ以上は進ませない)

「起動。成形兵装武王(ラクエン)あらた

 現れたのは纏鎧を装着された人型成形獣。顔は面頬で覆われて見えないが、今までの骸骨兵と比べれば人というには十分足り得る姿。背丈は五尺七寸(170センチ)まで縮んでいるも、纏鎧を装着している都合上三寸四寸(10センチ前後)は大きく映える。

 腰鞄を漁り魔法莢を取り出しては武王の腰に嵌め込み、

「起動。成形武装。雷鎖いかづちとざす鋸剣( のこぎりのつるぎ)

 一人と一基は擲槍移動で駆け出した。

 蘢佳の試験で得た知見を元に改装された武王は魔法をも使える。

(初めてだけど上手くいった、これならッ!)

 実践運用はまだ先だったが問題なく稼働できたことに高揚しつつ、二振りの得物で足を落とすべく全力で駆ける。

 狙いは一度攻撃をした関節部。先んじて注意を引き付けるように進んでいた百々代は、鋸剣を飛び出た目に向けて投擲。どんな生き物も大体は目を弱点としており潮招も同様。急ぎ鋏爪を盾にするよう構えて百万雷を防ぎ、自身の視界を狭めて事なきを得る。

 だがそれは諸刃の剣。鋏を乗り越えて姿を現した百々代に気を取られて、足元へと潜っていた武王を見落とすこととなり。

(成形獣も成形武装もわたしの魔力で出来た、謂わば身体の一部。さっきも出来てたんだやってやれないことはないッ!)

 集中するは武王の持つ太刀、刀身の背に魔力を集中させては、擲槍を起動。肩に担ぐように構えられていた太刀は、猛烈な加速を以て得物を振るわれ。

 霹靂閃電。音すらも斬り落とした刃は四本の足を見事に切り裂き、止めることの敵わない刃は武王自らと地面に激突する結果となり派手に大破。

「ありがとね武王、解除ッ!」

 即座に解除をし、百々代は潮招の甲羅へと零距離擲槍踵落パイルドライバーで追撃。鋸剣で通用しなかった装甲、たかだか踵落としが通用するはずもないのだが、残った四本足への負荷を掛けて動きを阻害することには成功。

 攻撃手たる一帆へと目配せをして、大急ぎの撤退を行う。


「――大、氷花!これで終われ!」

 殻の硬さは前衛二人の戦いっぷりを見ていれば十二分に理解できる。入射角が斜めでは有効足り得ない可能性を考慮し、再度撃ち上げてから甲殻へ垂直になるよう軌道線を描いて、直撃。

 先の氷花、そして百々代の踵落としと視覚化されてない損傷疲労から、甲殻は罅割れ成形弾が入り込み内部へが炸裂した。とはいえ高い硬度を誇る殻、罅割れた部分以外は砕くことは叶わず、潮招の内部をズタズタに氷壊させるのみに留まった。

 動かなくなって僅かな間が一帯を支配する。内部から凍結した相手は徐々に表面に氷が這っていき、そのまま完全に沈黙。巡回官は勝利を収めたのだった。


―――


「はぁ…草臥くたびれた」

「靖さんは大変そうだったね、百々代さんも」

「直撃を受けていたが大丈夫だったか?」

「咄嗟に身を屈めたのでどうにか、…強敵でしたね」

「こんなんが毎回続くんなら、これ以上はしんどい迷宮になるな」

 靖成が顎で方向を指し示せば、宝物殿と次階層への道と思われる通路が見受けられた。

「あはは…次の首魁くらいには終わってほしいですね」

「もう蟹は勘弁だ」

 大の字になって倒れ込んだ靖成は、少し寝ると鼾を奏で始めて各々宝物殿を漁ったり、次階層への様子見へと足を動かすのであった。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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