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一八話⑫

 一階層をそそくさと抜けて二階層の枝道に入る百々代(ももよ)たち一行。

 地面から生えている光岩蔦ひかりずたを手に取り改めて調査を行っていく。身のような枝を手に取り潰してみたり、根本から折ってどれ程の時間を明かりが灯っているかを記録したり、地味なものである。

 続いて百々代が背負っていた背負い鞄から、触媒の調査を行う為の道具を取り出しては、慣れた手つきで部位ごと調べていく。

「ものの見事になんの反応もない。この迷路迷宮は資源迷宮としての価値はないと等しいな」

「迷宮側が設置した景観の一種過ぎないってことなんだね」

「それ以上に流物が手に入っているのだ、大賑わいだろうよ」

 生飾迷宮植物類にはこういった存在がそこそこに多い。


 それじゃあ次は、と百々代が取り出すのはいくつかの魔法莢で、蘢佳ろかの成形体等々である。

「起動。成形体、蘢佳」

手前てまえの登場でいっ!」

 方向性が破茶滅茶だが三人は慣れたものでお構いなし。

 さて、小さな人形ではなく等身大の成形体を得た蘢佳は、身長が五尺七寸(170センチ)、簡素な仮面を付けた人型状である。

 大きさに関して百々代と同じにしようと陣設計を行っていたのだが、試している内に今の大きさが一番均衡が取れると決定。仮面に関しては、人の顔で作ったのだが瞬きもせず口も動かず無性的で無表情、そんな状態で元気よく話されると違和感しか無く、不気味感を拭えなかったので仮面を付けて様子見である。

「ちょっと走ったり、派手に動いたりして成形体の違和感を浚ってみて」

バレ(わかった)!」

 走ってみたり拳を突き出してみたり動きは良好。本人も違和感を感じるような部位はないらしい。


「次は魔法だ。腰にいた纏鎧てんがいを起動してみてくれ」

「起動。纏っ鎧!」

 蘢佳の成形体を魔力の鎧が包みこんで、一般的な守りの魔法が完成。彼女には百々代と同等の魔力質があるらしく、魔力も問題なく扱っている。

「それじゃあ身体を動かしがてら、ちょっと手合わせしてみようか」

「お手柔らかにね!」

「起動。強化。一触二重いっしょくふたえの纏鎧うろこよろい

 強化と纏鎧を起動しては拳を構え、蘢佳が攻めてくるのを待つ。

 カン、と一歩を踏み込んで、肉体強化が付与されたかのような勢いで殴りかかるも、百々代は軽く受け止めて小さく反撃。力の籠もっていない軽い小突きだったのにも関わらず、蘢佳は小さく蹌踉よろめいて尻餅をつく。


「おわわぁ!」

「だ、大丈夫?!」

「うん、大丈夫だけど…廃迷宮の時みたいに動けなーいっ!」

 悔しがった彼女は百々代の手を借りて起き上がり、もう一度身体の動きを確かめては攻撃を仕掛ける。然しながら仔犬の相手をするかのように対処されて、更に悔しくなり自棄っぱちな動きへと変動していった。

「もう!全然駄目なんだけどっ!」

「肉体強化が乗っているくらいの威力はあるけども、身体の軸が定まってないからちょっとやそっとのことで、グラついちゃうんだよね」

「ふむむ…」

「ケンポージャーたちの修行で、こういうふうに鍛錬をしてたでしょ?あれは身体の軸を強くする修行だと思うんだよ」

 百々代は一切揺れ動くことのない姿勢を維持して見せて、蘢佳を始め一帆と颯も真似してみるが、一帆が辛うじて出来ている程度で二人はグラグラと揺れ動く。

「なるほど…修行が必要なんだねっ!」

 元は同じ存在、やる気になれる経穴つぼは理解している。お互いに好きな物を例えに成形魔法の操作を、文字通り身体で学んでもらう。

 一般的な成形獣にしぼれば百々代も大概苦手なのだが。


―――


 それから三日、戦闘に出すには心許ないが取り敢えずの動きとしては十分だろうと判断する。

「この迷宮は厳しそうだから、次にいく場所で色々と試そっか」

「はっはっは、手前専用の魔法にも期待しているぞ!」

「りょうかいっ。やっぱ出来るまで身体で覚えるのが一番だね」

「根本が同じだと習得方法も似通うのだな…」

「よしみ先生から教わった由緒正しい反復練習だよ?」

「はいはい。それじゃあ颯を送り届けたら俺たちは先に進むか」

「うむ。中々に色々と見れて楽しかったぞ!泳鰭族が宙を泳ぐ仕組みを知れればなお良かったのだが」

「迷宮にいる魚系の魔物魔獣は大体あんなのばかりだが、…まあそうか、考えてみれば不思議だ」

「でも章魚たこは泳がないよね、烏賊いかは泳ぐらしいけど」

「迷宮だから、で片付けられている部分も仕組みとして確立されれば」

「魔法の幅も増えるよねっ!」

「手前的にはあの、…一瞬で外に出れる仕組みが不思議でしょうがない。見てた限りどこの階層からでも帰れるのだから」

「逆に使えたら楽なんだけどね、一〇を超える階層を歩いて移動すると時間が掛かっちゃうし」

「迷宮は不思議だらけだ」

 そんなことを言いながら向かうは六階層。回廊階層と首魁階層見てみたいとの要望を熟し、六階層の袋小路で帰せば百々代たちは先に進めるという算段。


「回廊階層とは、本当にただの一直線な通路なのだな」

「質素な階層だよね。助かっているのも事実だけど」

「助かっているのか?」

「いきなり首魁と鉢合わせ、なんていうことにはならないからな。心構えもできる」

「なるほど。次が首魁階層と、…ここは海の底なのだな」

「物凄く大きな泳鰭族がいてね、倒した後は酷かった…」

「あぁー…」

 道中で出くわした泳鰭族、その死骸が朽ちる臭いを嗅いだ颯は卒倒寸前であった。興味本位で近寄ったのが原因なのだが。


 そうして迷宮内の案内を終えて、二人が次階層へ向かおうとした頃に、後方から靖成やすなり小諸こもろ隊が走ってきて。

「大変だ。一五階層に到達した奴らの一部が、後方の増援を待たずに突撃して失敗、助けにと入ってた奴らもデカくしくじったらしい」

「…。」

「失敗というと、死者がいるのか…?」

「幸い重症で済んでるが、…まあいい、さっさと行くぞ!」

 ドクン、と百々代の心臓が跳ね、血の気が引く。

(ここで時間を消費してなければ、手の届いた範囲なんじゃ…)

「百々代、自身のせいだと思い込むな。運が悪かっただけだ、これからこれ以上被害を出さないために尽力する、それだけを考えろ」

「あー…、道中は構造変化もあって、このことを知っているのでなければ短期間での潜行は厳しいはずですよ」

 一帆に続いて顔色の悪い百々代察した丹哲にてつも言葉を続けて、百々代を落ち着かせる。手の届く範囲ではなかったと。


「ごめん、ちょっと動転しちゃ、いまして。はぁ、大丈夫です。これ以上の被害を無くすため、急ぎ向かいましょう!」

 逸る彼女の手を握り、軽く抱きしめては呼吸を整えさせてジッと顔を見つめれば、左右で色の違う瞳が晒される。いくらか見つめ合っていれば冷静さを取り戻し深呼吸を行う。

「もういいな?」

「うん、落ち着いたっ。行きましょう皆さん!」

(案外に脆いところもあって、支え合ってると。いい間柄だ)

 二人の様子に小諸隊は他人事なのに照れて顔を背け、二人の後を追うよう走り出す。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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