一八話⑨
緩やかな休みを終えて再び向かう迷路迷宮。どうやら二階層と三階層は構造変化が起きたようで、新しくやってきた巡回官らが探索し道を拓いたらしい。
広かった三階層は構造変化で範囲が縮み、それは一階層と二階層でも見られたことから、踏破によって次からは少し楽になり、得られる物も少なくなるようだ。
「なら最前線を走ったほうがいいね、篠ノ井の名声も得られるだろうし」
「ああ、さっさと行くか」
二人は迷宮門を潜って迷宮を進んでいく。
そうそう、先日に成形獣へ受肉を果たした蘢佳だが、管理区画の建造やらで颯は忙しく百々代も休みがてら手伝っていたので、進捗はなく暫くはお預けとなった。
泳鰭族を蹴散らして、通路ばったりと出くわした擬宝足を凍らせ二人は六階層へ到着した。
「放電と纏鎧の魔法を使う泳鰭族だって、元々魔物の泳鰭族もいたけれど魔物化したのかな?」
「銛持ちの方でだろう。どれほどの威力化はわからないが、近接戦闘時には気をつけろよ」
「うん、わかってるっ」
二人は広間に戻れるよう準備を整えて、通路へと足を踏み入れる。
―――
進んでから暫く。見つけたのは銛持ちと杖持ち泳鰭族の一団、百々代が飛びだして殴り込み寸前に雷光が弾けて、零距離擲槍で一気に引いて見せれば銛持ちらは一斉に放電を行なった。
雷光に視界の一部を奪われていれば杖持ちが、水の刃を百々代へ放つ。
(なるほど、)
危なげもなく回避して再接近をするが、銛持ちらは放電を行う素振りを見せず銛で刺突を行ってきた。
(上手い連携だったけど、放電は連発できないんだね。それじゃッ)
少しばかり硬いだけの銛持ちに過ぎない、と一匹を蹴り飛ばし後方の杖持ちに激突させ、迎撃にと迫ってきた相手の鰓蓋をこじ開けるように指を捩じ込み頭から地面に叩きつけた。
「――氷花!」
飛来し咲かせる氷の花の範囲外へと百々代は退いて、戦闘は終わりを告げる。
「問題ないねっ!放電は連発できないし、纏鎧は指でも穿ける程度。囲まれないよう注意だけしてれば、今までのと変わらないよ」
「鋭利に尖らせた纏鎧で肉体強化を乗せたのだ、百々代であれば穿けるだろうに」
ひらひらと動かす指部の纏鎧は形状変化で鋭利に尖っており、元の硬さを考慮すれば並の守りでは容易く穿かれるのが必定。
「一から三階層までは変化してないところを思い出すに、六階層以上限定の相手なのだろうな」
「深く潜ると相手が強くなるってことねっ」
「未だ推測の域だが、な」
「何階層まであるんだろ、場合によってはかなりの脅威度になりそうだよ」
「ああ、その時は他の巡回官と協力しないと」
「だね」
と二人は泳鰭族が悪臭を放つ前にそそくさと移動を再開。少し歩いたところで百々代は何かを見つけた。
「なんか半透明の魚が泳いでるよ」
「水母か?」
「うーん…どっちかというと海牛か雨虎っぽい?」
一帆には見え難いようで一応の警戒をしてよってみれば、三寸弱の黒く半透明な魚が外套を靡かせるように宙をゆったり泳いでいた。
「海牛か雨虎のような魚だな」
「ちょっと離れてて、突いてみるから」
「わかった、危なそうなら俺を抱えて逃げろ。遠慮無くな」
「りょうかいっ」
纏鎧は常に起動したままなので、彼が下るのを待ってから小突いてみる。するとちょっと嫌そうに進路を変えただけで反撃をする様子はなく、百々代と一帆は顔を合わせてから再び魚へ目を向ける。
「危険は、なさそうかな?」
「数がいるわけではないし報告はしつつ、今回は無視しておくか。必要になったら狩ればいいのだから」
「そうだね、他の巡回官さんたちと情報交換してみよっか。それじゃ突いちゃってごめんね、通路の真ん中に出ないようにしてくれると嬉しいな」
伝達視の緑を用いて語りかけるも反応はなく泳いでいるだけ。
効果があるのかないのか疑問に思っていれば、光る括岩蔦に辿り着き食べ始め、魚が仄かに光っていく。
「へぇ、面白いねっ」
「あんまり入れ込むなよ。敵性の魔物魔獣だった場合に躊躇しないように」
「大丈夫大丈夫っ。えへへ、行こっか」
迷宮の小さな住人は、ゆったりと食事をする。
―――
「調子がいいな、次階層への通路だ」
「いいねっ!一応潜って次の階層も確認する?」
「回廊だったりしたら、また二度手間になるし見ておくか」
何か有っても良いように、二人が潜ったとわかる印を施して次階層へと向かう。先にあったのは通常階層の広間であり、二人は直ぐに蜻蛉返りとなるのだが。
そうして六階層の広間へ報告に帰っている最中、誰かしらの叫び声を聞いて百々代は走り出す。
「先に行け!」
「うんッ!」
(通路内は音が反響して判別し難いけど、…見つけたッ!)
泳鰭族の一団、その眼の前に巡回官の一人が転倒しており怪我もしている状況。纏鎧は残っていそうだが、集中砲火を受ければ厳しいことには変わりない。百々代は躊躇なく擲槍移動で跳び込みながら鋸剣を起動、大振りの斬り下ろしで先ずは一匹、斬り上げで更に一匹を討った。
「起動。成形兵装武王ッ!すぅ…」
武王を起動した後、不識を用いるために呼吸を調整。百々代は泳鰭族らの視線から外れつつ鋸剣を手放して、倒れていた巡回官を回収する。
何処からともなく現れた用に感じた巡回官は目を白黒させているも、そんなことはお構いなし。百万雷は爆ぜる雷撃の中を武王で相手を斬り伏せていき制圧となった。
「間に合いましたねっ」
「驚いたけれど、助かりました…。隊に快癒の魔法莢を持っている者がいますので」
「そうなんですね、わかしました合流します」
「助かりました~ありがとうございます」
バタバタ走ってきた巡回官の一人が快癒らしき魔法莢を握っていたので、前へと送り届けて様子を窺っていれば怪我は魔法で治り一同は安堵した。
「はぁはぁ。もう終わってたのか」
息を切らして合流したのは一帆、彼は彼なりに頑張ってくれていたのだろう。
「無事解決したよ」
「それはなにより」
「本っ当にありがとうございました」「急な鉢合わせをした上に放電魔法まで喰らっちゃって、私達は退けたのですが」「私は躓いてししまい、はははっ情けない…」
「困った時はお互い様ですっ」
「なら!なにかあったらこちらも力添えしますので、是非是非お声掛けください!」
「えへへ、承知しました。…そうだ、ここから向かった先は次階層への通路があるのですが、殆どわたしたちで探索してしまったので余り実入りは有りませんよ」
無駄手間にならないよう情報の共有化を行って、地図を見せ合っては未探索の場所を整合する。
「どうしよう、一旦戻ろうか?」
「一応医務官に見てもらったほうが良いかもしれないし」
話し合いをしている巡回官はかなりの若手、百々代たちと同年代であろうか。見慣れた顔ではないので、天糸瓜魔法学舎の卒業生の可能性は大いにある。わちゃわちゃと話し合っては一時撤退に方向が定まったようで、巡回官たちは二人に礼をして去っていった。
「俺達は埋まってない場所を探索してから戻るか」
「そうしよっか。次階層への順路が見つかったことはあの人達が知らせてくれるよねっ」
巡回官らの埋めた場所を確認しながら、百々代たちは迷宮を進む。
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