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一八話③

「よっと」

 二階層を進んでいた百々代(ももよ)たちは、虎柄というよりは黄と茶の斑点模様をした泳鰭族えいきぞくを遭遇し戦闘を開始していた。ただまあ数も多くなく、原種よりも俊敏で膂力りょりょくはあるものの難敵とは言い難く二人の足元にも及ばない状況。

 迫りきたもりを掴み手繰り寄せては、拳を捩じ込み零距離擲槍パイルバンカーを起動し吹き飛ばしては手元に残った銛で寄ってきた相手を一突きに刺殺。次は、と視線を動かす前に一帆がいくつも撃ち出した氷花ひょうかが炸裂し一層する。


「よし終わりって、うえぇ…やっぱ臭いねぇ」

「これだけは困るな」

 酷い安母尼亜あんもにあ臭に顔をしかめ、一旦退いては小さく休憩を取り銛や杖を通路端にまとめめ置く。光源が生えているとは視界が優れているとは言えない、つまずかないようにの同業者への配慮だ。

「こっちの道が未だ探索されてないし行ってみない?」

「行ってみるか」

 警戒を怠らないよう気を引き締めて、未探索の通路へと足を踏み入れる。一応のことこういった構造は罠があるのではないかと考えて、百々代が目を凝らしていたのだがそれらしい仕掛けは見受けられず、泳鰭族の数が多い程度。

「未探索の通路にこれだけいるってことは、行動範囲が結構狭いんだね」

「進行速度が早くない理由の一つだろう、一匹一匹は大した事ないが数が集まればその限りではないからな」

「だねぇ、さっさと探索しきっちゃって最前に合流しよっか」

「ああ、活躍をせねばならんからな」

 くつくつと笑いを溢す一帆と更に進み、いくつかの行き止まりへ辿り着いては地図に記し、案外に成果が無いものだと落胆する。

「全然見かけないし、もう誰かが探索した後なのかな?」

「にしては泳鰭族が多いが、…なんて言ってる傍からアレが宝物箱なんじゃないか?」

「どこどこ?」

「こっちに寄ってみろ、通路の壁が影になっている」

「本当だ!えへへ、初宝物箱だ。中身はどっちかな〜」

 締まりのない笑顔で歩み寄っては、箱を小突いて擬宝足ぎぼそが顔を見せないかを確認し、僅かに持ち上げた上蓋の隙間へ銛を差し込んでは宝物箱であることを確信した。


「この迷宮で初のお宝物はなにかなぁ…、うぇっ!」

「どうした?」

「一帆見てこれ!凄い!エーシュンピンクの可動人形だよっ!」

「えーしゅんぴんく?」

「クロオビ勇者の一人でエーシュンケンっていうケンポーを使う勇者ヒーローなんだよ!」

 百々代の手に握られているのは精巧な作りをした全身桃色の人形。前世でハマっていた勇者戦記類の一つで、ケンポーを使い戦い悪を討つ正義の味方である。

「前にあんが持ってきた銀色人形の色違いか」

「そんなところ!エーシュンピンクはクロオビ勇者たちの中では紅一点でね、皆のお姉さんみたいな存在なんだ」

「銀色がいて桃色がいて、皆という口ぶりからするにもう何色かいるのか?」

「うん、赤のカラテレッド、青のハッキョクブルー、緑のジュードーグリーンと桃色のエーシュンピンクの四人から始まって、銀色のジークンシルバーと金色のボクサーゴールドが追加勇者として加わるんだよ」

「そんなにいたのか…」

「クロオビ勇者戦記以外にも沢山の勇者が英雄(ヒーロー)として英雄劇ヒーローショーや映像として語り継がれてたんだ」

「ふぅん、百々代はさっきの六人なら誰が好きだったのだ?俺が姨捨古永おばすてふるながを好きなように百々代にもあるのだろう、そういうのが」

「ハッキョクブルーだよっ!普段は冷静沈着、というか冷血漢一歩手前くらいな人なんだけど、仲間が弱気になったりすると激励して立ち上がらせたり、身を呈して人々を守ったり熱い心を内に秘めた格好いいヒーローでねっ!」

 嬉々として語る百々代の話に耳を傾け、一帆は楽しそうに相槌をうつ。

「――連撃で敵を倒していって、って、えへへちょっと話しすぎちゃったね」

 照れ照れと頬を掻きながら紅潮する。


「休憩がしたかったし丁度いいさ。百々代の前世に見ていた英雄劇ってのは興味がある、どこでも観劇できる映像なんてのもこちらに転がり込んでくれればいいのだが…」

「不思議な道具だったよ。これくらいの箱がいくつも並んでて、どれにも同じ劇が映ってるんだから。でもそうやって偉人の偉業を教えられるのは便利かもね」

「そうか…教材になるのか。進んでいる国だったのだな」

「だねぇ」

「よし、それじゃ再開するか」

「うん!」


―――


(見て一帆、あそこに箱から足を出して這いずってる章魚たこがいるよっ)

(擬宝足は…泳がないのだな)

 宝箱に擬態し襲いかかるのが常なのだが、今はズリズリゴリゴリと箱を引きずり周囲を見回しつつ移動をしていた。

(みたいだね。倒した後にどうなるのか確認したいし、戦ってもいい?)

(気付かれる前に氷花を打ち込むか?)

(破壊力と範囲が大きいし、擲槍で処理するよ。粉々の氷片じゃわからないこともあるから)

(わかった、俺は様子をみてよう)

 密々話を終えた百々代は腰にいた魔法莢まほうきょうへ手を添えて、三本の擲槍てきそうを作り出しては箱内の章魚だけを的確に狙い撃つ軌道線を描き射出。ビクリと足を振るわせては、力を失うように動かなくなっていった。

 手元には突くため銛も杖もないので、警戒しながら近寄っていき死んでいることを確かめた。


「大丈夫そう」

「だろうよ」

 先ずは箱から取り出して内部に何かが入っていないかを調査、迷宮遺物等の有無は記載されていなかったので、一応のこと確認してみるもそれらしき物は無く、擲槍が突き刺さり内臓がぶち撒けられているだけ。

「普通の章魚って感じ、寄居虫やどかりみたいではないんだね。何本かの足を吸盤で箱にくっつけて、残りの足で這いずっていたのかな?」

「難儀な移動法だな。…どうする暫く待って様子を見てみるか?」

「うん、そうしよっ」

 四方山話よもやまばなしをしながら待機していても擬宝足の死骸に変化はなく、泳鰭族であれば溶けて消える倍以上の時間が過ぎ去って、消えないと判断を下した。

「消えないし持って帰ろっかっ!悪くならないように凍らせてほしいなぁ」

「まあいいが、…本当に食べるのか…?」

「章魚だし食べれるでしょ」

「毒が無いといいのだが…」

 好物の事となると妙に馬鹿になる百々代に呆れながらも、凍結の魔法莢を起動し箱内の章魚を凍らせる。


―――


 これといって成果もなし、二人は順調に足を進め道中に出会った防衛官らと三階層へと潜っていく。

「助かりましたよ篠ノ井巡回官、二階層で探索した通路はこちらで描き足しますので」

「お願いしますっ!そうだ、この人形を宝物箱から発見したんですけど、購入の手続きを頼んでもいいですか?」

「委細承知しました。証書の発行をしておきますので後日受け取りにお越しください」

「はーい。人形の方は防衛官さんに預かって貰ってもいいですか?壊してしまいたくないので」

「はい、お任せを」

 丁寧にエーシュンピンクの人形を手に取った防衛官は、各々の仕事へと就いていく。


「俺たちも俺たちの仕事を確認するか」

「そうだねっ」

「…青線はなし、まだ最前線はこの三階層ということでよさそうだ」

「赤線も多くないし…、なんとなくだけど一階層二階層よりも広いような気もする、かな?」

「探索には骨が折れそうだ。…ふむ」

 一帆が衣嚢いのうから時計を取り出してみれば、外の時刻は既に夜。

「一旦身体を休めようか」

「だな。広間には敵が入りこまないらしいから焚き火へ向かうか」

「うん。お邪魔しまーす、章魚って焼けば食べれますかね?」

 火を囲み休憩を取っている局員らと同席し、章魚を食べ方を尋ねればドン引かれていた。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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