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一六話⑩

 倒された樹董龍じゅとうりゅう一帆かずほは小柄だと評したが、あくまでローカローカを知っているが故。の龍は小型龍ではなく中型龍、そんな相手を新人二人で倒したことに防衛官らは騒然となったわけで。多雨迷宮は天や椀やの大騒ぎである。

 ちなみにローカローカは超の付く大型。伝説に残る千生龍せんしょうりゅうよりも大きいし、元の世界でも他に類を見ない大きさだ。

 そんな樹董龍を倒した報酬ともいう宝物殿からは、異なる国か世界の雄大な風景が描かれた絵画が出土し、篠ノ井夫妻は二人共不要と競売に出されることとなった。おまけとして高純度な導銀鉱石も納まっており、こちらは百々代と颯で購入、しばらくの間は導銀にこまらないだろうとホクホク顔である。

 さて、龍種を二人で討伐できるだけの魔法師なんてのはそう多くない、そしてここの首魁は龍種に変わってしまった。そんなわけで。 

「周期は二年と三季、遅い部類ではありますが…異質化で狂いが生じている可能性もあります。こちらに常駐してくれると助かるのですが…」

「ここの常駐であれば多くの資源に対して優先権が得られますし、多くの見返りもお渡しできますよ」

「悪いが俺達は天糸瓜へちまの迷宮をあちこち巡ってみたい」

 隣で頷く百々代(ももよ)に防衛官らは「やっぱり」と諦めの表情を露わにした。まあ、これは三回目のお誘いなので、彼らとしても重々承知。周期には立ち寄ってほしいとだけ伝えるに収まった。


「この後のご予定は?」

幽谷ゆうこく迷宮の首魁が再胎する周期なので、あちらの対処をしてから金木犀きんもくせい領に戻ろうかと」

「…一帆様の迷宮遺物と魔法莢まほうきょうが壊れてしまったと伺ったのですが」

雷蹄翅電らいていしでんという魔物なのでわたし一人でも対処できそうなので」

「…。が、頑張ってください」

「はいっ!」

 鹿と昆虫の混じり合った雷を操る魔物とのことだが、足場の悪さを除けばそこまで相手でもないらしく百々代でも可能という判断。中型龍を討伐している以上、防衛官らも納得する。

「今すぐに笹野ささの街を離れるわけではないがな」


―――


「誠に単身で向かうので?」

「はいっ、厳しいようなら撤退してきますので」

「畏まりました。一応のこと我々が出立できる準備もしておきますので、必要な時はお声掛けくださいませ」

 必要な物資を整えた百々代は幽谷迷宮へ、悪い足場などなんのその軽々と一六階層まで潜行する。

 手持ちの戦力ではどう足掻いても幽谷迷宮での戦力になれない、一帆は魔法莢の調整のため多雨迷宮管理区画へと居残りだ。

「既に再胎の鼓動は感じ取っており、階層を降りれば首魁がいるかと思われます」

「承知しました、皆様はこちらでお待ち下さい」

「はっ、回収の際は我々が助力いたしますので、是非に」

(さてと、一帆の援護なしだから気を引き締めないとね)

 相も変わらぬ移動し難い斜面。そんな中を雷模様の前後翅ぜんごしとフサフサとした蛾の触角を揺らしながら歩く、真っ白な鹿が雷蹄翅電。森林系の迷宮であれば、そこそこに見られる魔物とのこと。

 立派な翅こそ拵えているが飛行能力はなく、地上の移動も然程早くない。つまり。

(放電の範囲は広いし威力もあるけど、百万雷ほどの密度はないから見て躱せるねッ)

 そんなのは百々代くらいなもの。悪い足場と視界を奪う木々、本来であれば雷蹄翅電ののっさのっさ歩く機動力でも十分厄介なのだが、魔法師でも随一の機動力を誇る彼女からすれば呑気の一言。

 木を足場に擲槍移動で急接近し雷撃を鋸剣で斬り弾けば眼の前に迫り、一振りで首を落とされた。

(これで一段落だね。…これくらいならっていっちゃうのは良くないけど、今までの魔物と比べれば魔法を使うだけの相手なら戦えちゃうな)

 死骸を担ぎ百々代は階層を上がる。


―――


 所変わって多雨迷宮の管理区画。

 ここ数日の颯は新種の龍を解剖し新たな触媒だと大騒ぎ、三日三晩騒ぎ続け泥のように寝続けてまた調査を再開するのを繰り返していた。

「なあ一帆くん、百々代くんがどこにいるか知らないか?」

「ん?あぁそうかお前は寝てたな。今は幽谷迷宮に出向いている、明日明後日には戻るはずだ」

「首魁討伐か、なるほど」

「なんか進展でもあったのか?面白そうなことなら手伝ってやるぞ」

「君の大好きな魔法はおろか、まだまだ触媒弄り段階でな」

「触媒弄りか…、魔法莢にまでなってくれないとどうにも」

「はっはっは。面白いのだが、まあ仕方ない」

「で、なにか収穫はあったのか?」

「うむ、基本的には龍種素材の一般的なものが主だったのだが、見た目通り鱗には植物の属性に強い反応を見せていてな」

「植物か。分類としてまだ珍しくて、攻撃に用いるにはイマイチな印象だが」

「まあ事実だな攻撃の主力は取り回しの良い属性なし、使うのであれば氷雷炎の主要三種だからな。…魔法射撃の弾として運用される射棘いとげは硬く鋭利なのだが、発動から発射までの僅かな時間差と連射性の低さから不人気。だが!蘇鉄族の種子や木の龍の素材が採れるようになった今は変わるやもしれん!クックック」

「龍は地面から槍を出していて、掠っただけで百々代の纏鎧てんがいを削っていたらしいぞ」

「槍なぁ、地中から出す場合は起動場所を限られて使い勝手が悪いし、飛ばすのであれば擲槍に分がある」

「そうだな。……今のところは攻撃用途の開発は後回しでいいのではないか?」

「他にすることもなるし、…何か思いついたら教えてくれ。ふぁ、もう少し寝るか」

「…ああ、そうするといい。おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 欠伸をした颯は自室へと戻っていき、寝台へと倒れ込んだ。

 明くる日。百々代は雷蹄翅電の触角と後翅を一つずつを手土産に二人の許へ帰ってきた。


―――


 肉体強化を用いた一帆は蘇鉄族へと走り寄り、右手に持つ月の涙杖だじょうを振り至近距離で凍抓とうそうを起動し表面へ凍結を付与、脆弱化した部位へ擲槍てきそうを撃ち込むも樹皮が欠けた程度。

「…。」

(これを素手で叩き折っていたのか)

「百々代!」

「了解ッ!」

 一帆の隣をすり抜け、踏み込みをけいに拳を捩じ込み零距離擲槍パイルバンカーを起動し幹胴を一発で破壊した。


「はぁ、助かった。…思った以上に動けんし、有効足り得なかった」

「急拵えの構成じゃ難しいでしょ、壊しちゃったわたしがいうものアレだけど」

「気にするな。…暫くの戦闘は百々代に任せっきりになってしまうのだからな」

「任せてよ!他の迷宮に行く予定もないし、問題はなさそうだけどね」

「ふぅ、戻るか」

「うんっ」

 外へと出る最中、月眼蜥蜴が蘇鉄族の出現を知らせ防衛官らが複数人で討伐を行っていた。


「蘇鉄族はなんとかなりそうだね」

「ああ、月眼蜥蜴と協力している。これなら金木犀に戻れるか」

「色々報告したり、構成を整えたりしないとねっ」

「…報告か…気が重くなる」

「あはは、わたしも協力するよ」

「…いや俺がなんとかするさ、妻に尻拭いをされるようでは向かい風になってしまう」

「ふふ、じゃあ頑張ってねっ」

 迷宮門を使用し外に出ればカラカラと暑い夏模様の残夏季。真昼間には蝉もお休みのようだ。

 十分な戦力が整い、防衛官のみでも蘇鉄族へ対処できるようになった今、百々代と一帆の二人が残る理由もない。颯にも出立を告げて荷物をまとめれば、翌日にも準備は終わり防衛官や職員から見送られることとなる。


「ここ暫くありがとうございました。御三方が迷宮へ足を運んでくれたおかげで大事にはならず、戦力が整うだけの時間を作っていただき、そして有用な資源の発見にも繋がりました。…何より龍種という超常の相手を為さってくれたこと深く感謝を述べさせてください」

「なに俺達も有用な資源の多くを手に入れることが出来、どれほどの実力が有るかを再確認するに至った。巡回官となって初めて訪れる街が笹野ここで良かった。以後は月眼蜥蜴と協力し、街の安全の為、国を富む資源の為、防衛に尽力してくれ」

「はっ!」

「次の周期にはまた来れるよう調整をしますので、またよろしくおねがいしますねっ!」

 手を振り和やかに別れの挨拶をしていれば、後方が賑やかしくなってきて。

「こ、こら!外に出ちゃ駄目だろう!おーい!」

 タタタタ、と人集りを抜けて顔を出したのは月眼蜥蜴。

「ギャウ!」

「一階層の月眼ちゃんだね、外に出ちゃ駄目だよ。迷宮の外は君たちにとって住みやすいとは限らないんだから」

 ギャウギャウと鳴き声を上げているのは百々代が助けた一匹。なにか伝えたいらしいが緑の瞳は一方的に相手へ伝えるのみで、相手の意思を理解するに及ばない。

 前脚で掴んでいた多雨迷宮内に自生している木の実を百々代の前へ置き、ぴょこりと跳ねては踵を返し迷宮門を使って迷宮へ帰っていく。彼なりの選別なのだろう。

「またねっ、月眼ちゃん。…というか彼らって迷宮門を自在に使えたんですね」

「「…。」」

 とんでもない事実が判明してしまたっと、防衛官と職員らは天を仰ぐ。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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