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一六話⑧

 多雨たう迷宮、いや元多雨迷宮と呼ぶべきであろうか。名称に関しては後々に決定されることなので横へ置き、多雨迷宮で再胎が起こるまで三日と迫った頃。百々代(ももよ)は腰にいた魔法莢まほうきょうへ手を添えて、接触起動で魔法を展開する。

 すると手に持っていた長棍がぐにゃりと曲がり、彼女の意のままに動いていく。最初は鞭のように、慣れてきたら手の延長のように物を掴んだりと、緻密な魔力操作と形状変化を用いて自由自在に我がものとした。


「いくつか作り上げた中でも一番動かしやすいし、これで完成でいいかな?」

「ああ…、吾と百々代くんの完全新規魔法の完成だ!!!なんの役に立つかは知らんがな!!」

 二人が数日を掛けて制作した樹木を自在に操る魔法は、はやての言う通り完全新規の魔法である。既にある魔法を盤に刻み込んで魔法莢を自作するのとは訳が違う、魔法莢制作に携わるものの到達点が一つ。共同とはいえ新たな区分を作り出した偉業に、彼女は身悶え震える。


「使い道なぁ、強度は元の素材のままなのだろ?」

「うん。触ってみる?」

「ふむ。柔軟に動いているように見えたが、あくまで百々代が動かしているだけで木そのものは硬いのだな。不思議な感覚だ」

しなりも自分で調整してたけど、その辺は成形獣みたいな一定の規則性を折り込めばいいんじゃないかな」

「なるほどな、ならば強度は素材次第。なあ颯」

「なんだい一帆くん」

「これなら心臓機の代用にできるのではないか?」

「…。」

「俺は魔法陣にそこまで詳しいわけではないのだが、移動に必要な脚の動きなどは陣の方で設定されていて、百々代みたく動かし方をする必要がない。ならば木材を」

「…。」

「…?」

 言葉の一つもなく、顔を見合わせて目を瞬かせる女性二人に首を傾げた一帆かずほ


「ハーッハッハハ!一帆くん、君は素晴らしい事に気が付いてくれたな!!そうかそうか。そうか、ふむふむ。魔法史に…いや!百港史に吾らの名前が載るやもしれんぞ!!凡人も三人寄れば良き案が出る、吾々三人であれば、クククク」

「この迷宮はものすごい資源迷宮になりそうだね」

「…こんなこともあるのだな」

「急ぎ脚部の回収を行わなければ!!」

 脚部の回収作業や図面の纏め等々を颯が賑やかしくしていれば虎丞こすけやってきた。

「颯様この騒ぎは一体?」

「虎丞か、良いところに。今図面と覚書を三人で一纏めにするから、郵送屋に出してきてくれ。送り先は黒姫工房だ!」

「…。説明をしてください、説明を」

斯々然々(かくかくしかじか)だ!」

「わたしが説明しますね」

「どうも、ありがとうございます」

 斯々然々。発条の心臓機よりも安定して手に入る素材を用いることで、似たような機構を再現できる可能性が生まれたから、そちらで上手くやってくれ。といった内容の手紙を送りつけたいという話し。


「颯様…、現在黒姫工房はてんやわんやの大忙し、送り先は魔法省の方が良いかと思われます」

「それもそうか。黒姫で寡占する予定は無いのだし、お父上に送りつけて魔法省の判断を仰ぐとしよう」

「黒姫独自技術にして売り出すのではないのか?」

「元となった心臓機を用いた機構もだが、吾が一人で思いついたものではない。なんなら百々代くんが最初だったり、今回は共同開発だ」

「だから百々代式複合魔法莢なんて名前を広めてあったのか」

「そうだ。承諾を取れない状態だったが故に、帰ってくられなくともその名が残るようにな。今回は篠ノ井と黒姫の名を冠して発表するとしようか」

「なるほど。…ならば一枚噛みたいな、悪いが俺は篠ノ井家に書簡を送る。後は任せたぞ」

「…。黒姫工房って手一杯なんですよね?」

「そうですね、颯様が数々の魔法莢を生み出した結果と、先の莢動力船の建造やら凄まじい疲弊っぷりです」

「いくつかの工房を抱える商会と大船主おおふなぬしへ伝手がありまして連絡しましょうか?」

「今井商会連盟、と西条家ですか」

「はい。手を出すかはさておき、手を広げるなら是非にも紹介したい方なので」

(今井の小父様は学費やらの返金は受け取ってくれないし、こういうところで恩を返さないとねっ!)

「いいんじゃないか?元々他所にも六角式広めようって話しはあったんだ、大きなところなら万々歳だぞ」

「…。颯様と百々代様がそう仰有るのならば、先ずは連絡をお願いします。天糸瓜と金木犀は離れています、密な話し合いを以て連携をしてもらわなければなりませんので」

「はーい。半らこっちも終わったし、わたしも手紙をしたためてくるねっ!」

「はい」

 部屋を出ていくのを見届け、虎丞は肩の力を抜く。


「良い知己を得たな、五十鈴いすず

「運命の出会いだな、特に百々代くんは!」

 元気に高笑いする妹の姿を目にして、友達と呼べる確かな相手を得た事に虎丞は兄の笑みを浮かべる。

(これで輿入こしいれ先か、婿が見つかれば完璧なのだが)

「そうだ虎丞、お父上に文を認めてくれ」

「なんと?」

「内容は、篠ノ井百々、じゃなくて一帆の側妻そばめとして嫁げるように準備をしてくれと!」

「…?なんと?」

「聞いていなかったのか?内容は」

「聞いてました。聞いていましたが頷き難い内容といいますか」

「あの二人は確実に縁を深めておく相手だ、血の繋がりでな。友という間柄でもいいが…それでは弱い!新婚夫妻の邪魔をするつもりはないから、暫く先になるだろうが良縁に違いはない」

「弟君がいらっしゃいますよ、彼には」

「領主夫人などやれっこないのは虎丞が良く知っているだろう」

(こんな話しを切り出したら絶縁されてしまうのでは…?側妻自体、女好きの貴族なんかが抱えていたりするが彼はそう見えない。…どころか、百々代様以外目に入っていないだろう)

 虎丞は静かに頭を抱えた。


―――


「というわけで!どうだろう、吾を君たちの側妻にしてみないかい!」

(外堀を埋めたりやることがあるでしょうに…)

 夕餉の席で唐突な提案をされた二人はポカンと口を開けていた。理解を得られてないと、二人との強固な繋がりを糧に更なる魔法の発展を目指そう、などと語って見せれば、意外なことに一帆が考え込んでいた。

「君たちの仲を裂きたいわけではなく、行動を共にする理由作りたいのだ!」

(百々代を欲しいが手に入らないから、自分から入っていくのか。…黒姫工房そのものが手に入る訳では無いが、二人の生み出す技術が優先的に回ってくると考えたら断る理由は)

 百々代が反対した時くらいか、と視線を動かして隣に座る彼女の様子を伺ってみる。瞳は常に隠れているが、感情を読み取ることなど百々代を見続けていた一帆からすれば造作もない。…のかもしれない。

(否定的ではないか。ただ何かを考えているな)

「俺は悪くない提案だと思う。黒姫の技術を優先的に得られるのなら、おまけが付いてきても欲しい。百々代はどうだ?」

「いいよ、わたしは颯さんといるの楽しいし。ただ…」

「「ただ?」」

「どうやって皆に説明したらいいかなって。安茂里家、西条家、篠ノ井家の皆にね」

「あー…」

 一帆が思い浮かべたのは百々代の実父と養父、自身の母、そして大嵐夫妻。この五人からは確実に顰蹙を買う。反対こそされないが信頼は落ちるだろう、彼らは皆、一夫一妻なのだ。

 そしてそれを説明し説得するのは勿論一帆である。

「その辺りは俺が説明しよう…。ただし、実際側妻として迎え入れるのは先のことにしてもらう。こちらは成婚して間もない新婚なのだから」

「構わん!数年は待てるからな!それじゃあ側妻としてよろしく頼むぞ、百々代くん!一帆くん!」

 利益を考えれば「自身の信用など多少落ちたところで問題ないか」と、関係者への説得をするための文言を考えていく。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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