二話⑧
「というか前世はどんな人生だったのだ?」
前世の記憶がある、ならばどんな生涯を送ったのか気になるのが人の性、一帆は疑問を口にしながら寝台に腰掛けて百々代を見つめる。
「えーっと。そもそも人ではなくて、八眼百足の二町龍ローカローカと言われていました」
「「「「は?」」」」
「…そもそも人ではなくて、八眼」
「いや、聞こえなかった訳では無い。龍?」
「はい、眼が八つ、足が百本、身体の長さが二町《220メートル》くらいの龍です。瞳一つ一つに異なる力があって、現存するのだと遠くのものをみたり小さいものをみたりするのに便利な青と、狂い壊す金の二つが宿っています」
((((そっちにもなにかあったのか))))
「お、おう。龍とはどういう生き方を?」
「人が縄張りの近くに住み着くまでは木や岩を金の瞳で壊して食べて、偶に湖で水浴びをするだけの生き方を数え切れないくらいしてました。そしたら縄張りにしていた山の近くに人が住み着いて、気づけば街と呼べるくらいまで規模が大きくなってまして」
「争いになったと」
「いえ、偶に…生贄と思われる人を持ってきては襲わないで欲しいって言ってきたのです。ただ当時のわたしは木と岩しか食べないので無視しました、食べれないうえに棲み分けられてるので襲いに行くつもりなど毛頭なかったので」
人間のことなど眼中になく、生贄にも興味を示さない。なんかちょっと造形は邪悪だが温厚な生き物なのだ、と人間は山を禁足地として棲み分けをするようになった。
そんな折、遠方から魔獣の大軍が押し寄せてくる。助けて欲しいと人間に頼まれた龍は、縄張りを荒らし回る魔獣に腹を立て大奮闘。見事に撃退しては山に戻り、いつも通りの穏やかな生活に戻ったのだという。
「ならば百々代は…寿命で亡くなったのかい?」
「ううん。どこからか勇者がやってきて、人の街を支配する悪しき八眼百足の二町龍を討伐する!って来てね、普通に負けちゃったんだ。まあでも、その頃は眼の力で人に化けて街に潜り込んでは、人の作り出す創作物に触れてる時期で、巨悪と戦う勇者を目に焼き付けて満足のまま死んでったんだよ。物語や英雄劇の定番、合体巨大具足が出てこないのは残念だったけど」
「…のほほんとした生き方では巨悪にはならないだろう、百々代は」
「龍っていうのは生まれが悪なんだ!って言ってたし、人々からすれば悪だったんだと思いますよ。以上がわたしの前世です」
「小さい頃、積み木に齧り付いてたのって…まさか」「あー…」
「そ、そんなことあったかな…?というか信じるんだ、皆」
「超常の力が裏付けているからな」
「小さい頃から賢かったし、」「手のかからない子だったからね」
「…先にも言ったが、その前世よりもたらされた強力な力は私利私欲の為に使わないように」
「はい」
「今日は両親を屋敷で休んでいくといい。それではね」
「ありがとうございますっ!」
その後、少しばかり会話をするも疲労から泥のように眠り、家へと帰っていく。
―――
(前に外つ国の言葉と言っていたのは、前世の言葉か)
一帆が勉強の合間に考えるのは、やはり百々代の事。手隙になれば頭に浮かんでくるのだから、重症なのかもしれない。
(凄まじい力を有する瞳を所持しているが、それとは別に纏鎧のみで一人は倒していたのだから…俺よりも実力があることは確かなのだろう。うかうかしていられないな)
再開の時を心待ちに一帆は勉学を、魔法の修練を積む。
―――
安茂里工房には住み込みの職人が一人増えた。彼は慧悟の言った通り、周囲を警戒し護衛を行う一人であるため、実際に作業をすることはない。名目上での職人だ。
不自然でない程度に百々代と周囲に気を配り、必要であればなにかしら手を貸し、時折暢気に欠伸をしている。
(監視も兼ねてるって話だが、不審な点はなんもないな)
「百々代さんや、この後は何をするんで?」
「そうですね…、時間が空いたので身体を鍛えようかなって」
「そうですかい。んじゃお手伝いするんで頑張りましょう、格闘術の訓練はどうします?」
「お願いしたいですっ!」
「ういっす」
身辺警護を務める男の一人は川中島薫、どこか気だるげな相貌と時折暇そうに欠伸をしているが、職務には全うするようで悪い噂のない男だ。身体を鍛えていた百々代へ助言をしてからは妙に懐かれている風があり、彼も面白がって色々と体術を仕込んでいる。
「前に出れる魔法師を目指すんで?」
「…そう、です、ね。…ふぅ、まだ決めたわけではありませんけど、選択肢は多いほうが良いかなって。…は、ふっ」
「まあタッパもあるし体格も悪くなさそうなんで、全然有りですけど…大変ですよ?魔法とは別にこうして身体の鍛錬にも時間を割かなくてはいけませんし」
「いざ、という、時に、動ける、ように、…ふぅ、鍛えておきたいって気持ちもあるので」
「そんじゃ頑張ってください。体力はあるみたいなんで、筋力の下地作りは必須です」
「はいっ…!」
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