ハイルとハイル、藍と愛
今回は謎に包まれたハイルの回想編となっております。どうも、作者の白虎さんです。今回は文字数としては少し少ないのですが、内容はかなり濃いめなのでおたのしみに!
PS、いいね、感想など頂けると白虎さんが一分間シーサーになります。
「は、ハイルの師匠?それに…藍の色死神?」
俺は突如現れたその死神に圧倒されていた。
「ボウズ、アタシの事がそんなに気になるかい?」
「え、えぇ。色死神って滅茶苦茶忙しいのにこんな短時間で来てくれるなんて、それになぜハヤテさんが呼んできた死神がアニマさんなのかなって……」
「そりゃアタシにとっては愛弟子の危機だが死神全体から見るとそうもいかねぇのさ、最上位の死神の一角が倒れたんだ、それにこのまま死なれちゃ下手すりゃ郵便局自体が崩壊しかねない…他の業務なんて全て後回しにしてでも飛んで来る必要があるのさ。」
「な、なるほど……」
そうアニマさんは早口で説明する、アニマさんは俺が見る限り初めて確実に女性だと判る風貌をしていた。あと胸が大きい。身長は180センチはあり、色死神はみんな巨人なのかと思った、当然ながら藍色の髪と着物で、髪型は姫カットだった。細く切れ長な目で、こちらも藍色の瞳をしている。そして頭を見るとまるで狐のような耳が生えてあった……それが地味に俺の好きな耳だったのは黙っておこう。
「んじゃぁ始めるか…ハヤテ!」
「はい、承知しました!」
そう言ってアニマさんは正座し、ハイルを横に寝かせ、手を握った。そしてそっと瞑想?を始めた。ハヤテはどうやら近くでアニマを見守るらしい。そう言えばハイルから聞いたことがある…各色別の死神はそれぞれ夢見の手紙の届け方に違いがあって、藍色系統の死神は基本的に届け先の夢に入って手紙を届けるらしい、あとはイタコのように手紙の差出人を降ろして言葉だけを伝える事もあるらしい……しかし最近は悲しき事に変人扱いされることが増え、昔のように夢の中に入るらしい。アタシらに任せれば良いとはこういう事か。
……………………
これは後日聞いた話だがこの時アニマさんが呼ばれた理由、それはMPを使い果たしたハイルに起き上がれる程度のMPをアニマさんから移していたそうだ。そしてこの時アニマさんのような色死神でないとハイルを起こせるほどのMPが足りないらしい。(アニマでもギリギリなレベル)
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「ここは……?…そうか……」
ワタシは薄らいで行く意識の中、死神になったばかりの頃を想起していた。
ワタシは「緋」の色死神になってまだ500年しか経っていない、齢は、やっと1100を越えたか…しかし今、ワタシは悠久とも思える寿命を喪いつつある。
「久しぶりに、無理し過ぎたかもしれないなぁー。まぁこれも死神の本義、かな。」
……………………
師、アニマ様に拾われたのはワタシがまだ齢100の頃、
「アンタはこれからアタシの弟子だ、光栄に思いな。」
「え?オレ……ですか?」
冥界をふらついていたただの霊だったワタシの目の前に突然現れワタシは「藍」の色死神のお付きになった。未練を抱え、目的を失ったワタシには、死神という仕事の意味が解らなかった。
……………………
ワタシが初めてMPを使ったのは何時だっただろうか?アニマ様に「水」の着物を渡され仕事を始めてから10年は経っていた、
「アンタももうワープゲートくらいは出せるだろ、イメージして試してみな。」
「はい、分かりました。」
五体に意識を集めいつも仕事で使うワープゲートをイメージする。すると目の前にいつも仕事で潜るワープゲートが出来た。
「アンタ、やるじゃないか!流石アタシが見込んだだけのこたぁある。」
「え……あ、あぁ…ありがとうございます。」
それがなんだか嬉しくてワタシはその日からイメージと練習を繰り返し、MPを自在に使えるようになった。
「アンタはMPの扱いどころかアタシに並ぶほどMPが多いみたいだね、アンタはそれを誇りな、才能だよ。」
いつもピリついているアニマ様は珍しく、深い藍色の狐耳をぴこぴこ動かして笑っていた。
……………………
ワタシはアニマ様と死神の仕事をしていく内に、未練の事さえ忘れてしまった、しかし、それ程アニマ様の仕事を手伝ったりMPを使ったりするのはただ彷徨う事しか出来なかったワタシにとって、それは色に溢れた日々だった。
……………………
その色を初めて見たのはある日の仕事、その差出人は殺人の冤罪をかけられて処刑された男性であり、塾の講師をしていた。そしてその人は幼い娘がおり、娘は寺に預けられていた。冤罪で捕まり処刑され、幼い娘を置いて死んだ事を父親として詫びに夢見の手紙を出したのだった。
「サナ、すまなかった、お前を置いて逝ってしまって、可愛いお前を寺なんかでつまらない一生を過ごさせることにしまって……!」
「父さんが謝る事じゃないよ、それに私、寺で勉強して奉行所の役人になるの、間違った裁判が行われないために!だから父さん、見ててね。」
ワタシはそれまで差出人の顔など全く見ていなかった、この仕事の意味が解らなくて。でもその時見たものは親子でしか見られない絆、愛だった。ワタシはその美しさこそがこの仕事のやりがいだとその時気づいた。死神になってもなお、灰色だった心に鮮やかな色がついた仕事になった。死神は未練を解決すると同時に愛も届け、受けとる。ワタシは死神になって初めて人を美しいと思った。
……………………
「アンタは今日から「水」から「瑠璃」だ。これからはアンタ一人で仕事を請け持つことだってできる、「瑠璃」の階級はアンタ含めて5人しかいないよ、誇りな。」
死神になって300年、ワタシは死神としての階級があがった。周りによると300年で昇格なんてとても早いらしい、アニマ様に理由を尋ねると、
「アンタはMPの使い方やその量が他とは次元が違う、それにアタシの仕事に付いているから場数も踏んでいるだろう、アンタの能力を上は買ったのさ。…まぁ、1000年「瑠璃」をやっていたチグサが引退したのもあるがな。」
「はい、オレ頑張ります!」
瑠璃になってからは一人で仕事をすることが多くなった。お付きの「アサギ」、「ソラ」、「アイネ」にも慕われ、ワタシ自信も成長したものだ。同じ瑠璃の仲間達からは、
「次代の「藍」はナナシだな。」
と言われるようになった。ナナシというのはワタシに名前が無いから「名無」でワタシはこの渾名をとても気に入っていた。
……………………
死神になって400年目、ある日久しぶりにアニマ様に呼ばれてアニマ様の所へ向かうと、
「はい、これをやる。」
「これは……」
「仮面さ。」
それはカラスを象った白い仮面だった。
「これは、何ですか?」
「アンタは最近人と関わって仕事をする事が増えただろう?あまり顔が割れないように着けていきな。」
「は、はぁ。ありがとうございます。」
これは後から分かった事だが、この時アニマ様はワタシに会えなかったのを寂しく思い、からかうつもりでワタシに仮面を渡したらしい。会いたいなら素直に呼べば直ぐにでも向かうのに、気難しい上司だ。因みに仮面はほとんど着けていない。
でもそれから約600年、ワタシがかつて受けたこの冗談を新たなワタシの部下にするとは思いもしなかったな。全く、ある意味因果なものだぁーよ。
……………………
ワタシが死神になって500年目、ワタシは唐突に色死神に任命された。
「アンタは今日から色死神さ、おめでとう。ようやく、といってもかなり早い出世だがな…まぁ、アタシの後を継いで藍の色死神になるわけじゃないけどね……今日からアンタはアタシと同僚、みたいなもんだな。」
「ま、待ってください!どうして急に?それに、オレが配属される色が藍じゃないって?」
「アンタが色死神になるのは単純に能力が高いからだよ、アンタはまたその技量を上に買われたのさ。それにアンタのそのMPを自在に操れる能力は本来「緋」の色死神の能力さ、まぁ緋の色死神にはまだ及ばないけどね。」
「つまりオレが配属される色は「緋」、ですか?」
「まぁ、そうなるね。」
アニマ様はそっぽを向いてそう言う。どこか不機嫌でどこか誇らしそうな複雑な表情をしていた。
「ではもう、オレはアニマ様と仕事はできないのですか?」
「まさか寂しいとか言わないだろうね!それにアンタに教えられる事は全て教えた、藍の死神に伝わる「心を聞く耳」もアンタはある程度使えるだろう。」
「で、でも…」
「アンタの心から寂しいって聞こえて来るよ、気持ちは分かる、アタシだって愛弟子が居なくなるのは寂しい、でもアンタならやれるってアタシは知ってる。」
ワタシはアニマ様に仕えた時からアニマ様に嘘を付けなかった、藍の死神の持つ「心を聞く耳」を最大限使えるアニマ様には隠し事さえままならない。
「オレは、やれるでしょうか?」
「あぁ、間違いない。アタシが見込んでアタシが育てた逸材だ、ちゃんとやっていけないとアタシの顔が潰れる。ちゃんとやるんだよ。」
「はい……分かりました。」
ワタシは死神の仕事を通して人間の美しさと輝きを見てきた、初めはやりがいを見出だせなかったが今は違う、自分はその美しさと輝きを届ける死神の一人として自分を誇らしく思えていた。
「それとアンタに餞別だよ、アンタはこの500年の間ずっとナナシと呼ばれていたからね、アンタは今から「ハイル」だ。人の愛をよく見ていたアンタにぴったりな名前だろう。それと、一人称オレはやめなさい、格式高く、のんびりやるんだよ。」
「はい!本当にお世話になりました!」
あぁ、弟子を持つというのは自分に子が出来たような気分になるものだ。レン君もいつかワタシを離れる時が来るのだろうか?それまではせめて、ワタシの教えられる事を精一杯教えよう。そして、ワタシの目覚めはもうそろそろなようだ、師匠様、またワタシはあなたに迷惑をかけてしまったみたいです。すいません。
……………………
時代の流れと共に街並みは変わるものだ、私がかつて見ていた風景とは違う、しかしその変化はSFマンガのような物ではない。高すぎるビルも無いし街がホログラムで覆われていることもない、浮いて走る車も無いし平均寿命も飛躍的に延びた訳でも無い。しかし変わった物も確かにある。VRやAIといった技術などは日々進歩し、人々の生活を豊かにしている。でも今の世でも変わらないものはある。それは死者が生者を想う気持ち、別れ際に言い残した未練だ。
「だから私達はこの仕事をするんだろうねぇー…おっといけない、また語尾が間延びしていたようだね。」
死者は生者に想いを残し、生者は死者を悼む。これは人間がどれだけ進化しようと変わらないのだろう、技術がどれだけ進歩しようとも生者は死者を生き返らせようとはしなかった……まぁそんなことをされれば私達は死神では無くなってしまうのだがな。それにそんな事はマッドサイエンティストのする事、何度でも生き返られる世界なんて誰も何も頑張ろうとは思わなくなるだろう。人は人生が限られた時間しか与えられないからその限られた時間の中で輝くのだ。思えばその輝きを見られるのが死神の最大のやりがいなのかもしれない。
思えばあれから1500年、世界は滅んだ国もあれば新しく出来た国もある。現に私が今見ている街はかつて首都だったが今はもう廃墟と化している。1500年という悠久とも思える時間の中で人間は争いと進歩を繰り返してきた。
「あなたもこうして変わり行く街並みを見て同じ事を思ったのでしょうか?ねぇ、先代。」
空が暁に染まる夕暮れ時、緋色の着物に朱色の睡蓮の意匠が施された刀を携えた死神は空を翼を生やして飛び、かつて繁栄を極めた廃墟を眺め、ぽつんと呟いた。
「この翼を生やすのも初めは苦労したものだね。」
色死神には各々(おのおの)能力がある、緋の能力は「万物創造」、これは歴代緋の死神が受け継いで来た能力であり、とある死神がその効果を底上げしたものだ。MPはほぼ無限にあり、想像するもの全てを象にする。
「全く、便利なものだよ。でもあの人のような無茶はしたくはないものだねぇー。」
遠い記憶に想いを馳せながらそんなことをぼやいていると、
「あ!ここに居たんですね!探したんですよ。もう、ハイル様ったら暇さえあればここに来るんですから……」
部下に見つけられてしまった。名前はネオン、私が2年前新しく橙として迎えた死神だ。
「いやいや、暇だから来てるんじゃーないよ。此処は私のオアシスみたいなものだからねぇー。」
「やっぱり休んでるんじゃないですか!」
「まぁ、それもそうかもしれませんねぇー。では、そろそろ仕事に行きますか。」
「そうですね、行きましょう。」
私達死神はたとえ街がホログラムに包まれ、みんなが意識を統一しても存在するだろう。何故なら、人の輝きはどんなホログラムよりも強く、そして美しいものだから。
……………………
「ハイルっ!ハイルっ!」
「…………はっ!此処は?」
目を開ける、ワタシはレン君の声で起きたようだ。
「ワタクシ、もう駄目かと……」
膝にてを乗せ、ハヤテが涙を流している。ハヤテが泣いているのを見るのはこれでまだ2回目だ、初めて泣いたのを見たのは緋の色死神になって朱の部下達に挨拶に行った時の事、
……………………
「今日より、あなた達のまとめ役となります、ハイルと申します、よろしくお願いします。」
深々と頭を下げて挨拶をすると、
「漸く、逢えましたね……いえ失礼しました、ワタクシはハヤテと申します。以後、宜しくお願いいたします。」
そう5人の中で最初に涙を流しながら挨拶を返してくれたのがハヤテだった。何故泣いていたのかは解らない。
その後、「アカネ」、「エンジ」、「スオウ」、「カキツバタ」さん達にも挨拶を返して貰った。格好はみんな同じ朱色の着物を着ていたが個性溢れるメンバーだった。頭に大きな簪を着けた目の大きい女性のアカネさん、無造作に短く切った髪と手に杖をついた老年のエンジさん、鬼の仮面を付けていて素顔が見えないスオウさん、ノースリーブの着物に筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)のカキツバタさん、そしてハヤテさん、彼らもワタシを敬愛してくれて、本当にいい仲間達だ。
……………………
やっと意識が戻ってきた。
「どうやら、あまりに無茶をし過ぎたみたいですねぇー。師匠様、本当にすいませんでした。起こしてくれてありがとうございます。それにハヤテさん、心配掛けましたね。」
「いえいえ、そんな……」
ハヤテは相変わらず泣いている、不甲斐ない上司だな、ワタシは。
「まぁ、仕事にひた向きなアンタらしいといやアンタらしいね、でも二度と無茶するんじゃないよ……それに礼ならそこのボウズに言ってやれ、そいつがアンタを連れてこなければアンタはぽっくり逝ってしまってただろうからね。」
「レン君……これはすいませんでした、本当にありがとうございました。」
「俺は…出来る事をしただけだよ。本当に起きて良かった。アニマさんもありがとうございました。それにアニマさんを連れてきてくれたハヤテさんも。」
どうやらワタシはこんな駄目な奴でも慕ってくれる仲間達が居るみたいですね、ワタシは死神一、幸せ者なのかもしれませんねぇー。
……………………
一週間後、俺はハイルに「朱」の着物を渡された。
「ハイル、これって……」
「えぇ…朱の死神に昇格、おめでとうなのだぁーよ。」
「なんで?…こんなに早く?」
「まぁーレン君は能力も高いし今回の件で色死神一角喪失を防いだ立役者の一人でもあるからねぇー。妥当だぁーよ。それにエンジさんが引退したからってのもあるからあまり気にせずのんびりやるといい。」
「で、でも。」
「自分には無理だなんて言わないだろうねぇー。まだまだ経験は少ないがレン君なら出来るとワタシは知っているよ、それにワタシが見込んで育てた逸材さ、ちゃんとやってもらわないとワタシの顔が潰れるってものだぁーよ。」
そんな事を言われたら、
「はい、頑張ります!」
という他無かった。
「覚悟は、決まったようだぁーねぇー。」
「はい!」
……………………
今日はレン君に「朱」の着物を渡す日だ、かつてアニマ様もこんな気持ちになったのだろうか……教え子が成長する様は見ていてとても嬉しいものだが、それだけ自分から巣立つ時が近づくということでもある。着物を渡す時、戸惑うレン君を落ち着かせ、覚悟を決めさせるために放った言葉はかつて自分が聞いたものと似ていた。
「自分には無理だなんて言わないだろうねぇー。まだまだ経験は少ないがレン君なら出来るとワタシは知っているよ、それにワタシが見込んで育てた逸材さ、ちゃんとやってもらわないとワタシの顔が潰れるってものだぁーよ。」
レン君は初めてのワープゲートを作る時、一度目で成功していた、これはなかなか無いことでレン君が逸材なのは確かな事でもあった。
「覚悟は、決まったようだぁーねぇー。」
「はい!」
エンジさんは引退する時、
「ハイル様のお付きさんは老いぼれのワシより未来がある、でもワシが退くって事はキチンとワシの後を継げる程の覚悟がいる……ハイル様、あの少年にちゃんと覚悟を持たせてやっておくれよ。」
と言って3000年の寿命を終えて消えた、杖を遺して……レン君もこれならちゃんとやっていけるだろう。その杖を懐から出して眺め、
「エンジさん、お疲れ様でした。後継は任せても大丈夫ですよ。冥界から消えてもあなたの偉大な魂はワタシの心の中にあります。本当にお疲れ様でした。」
白虎さんが思う、このキャラ一言で表すコーナー(唐突)
・レン、主人公
・ハヤテ、性別不詳キャラ
・アニマ、ハイルの師匠
・ハイル、ヒロイン!
ではまた6話でー