お母さんと死神インターン
どうも白虎さんです。2話目が完成しました、どうぞお楽しみ下さい。あと感想、レビュー、いいねなど付けてくださるととても励みになります。
「…ん?」
俺は重い瞼を持ち上げてスマホを見る、
「…っおい、もう7時半じゃねぇか、遅刻しちまうやべぇやべぇ!」
バッと起き上がってバタバタと階段を下りる、机に放置された時間が経ってカピカピになった食パンを口に放り込んで飲み込む、
「ごはっ!、久しぶりに激チャ案件だなこれ…」
家を出る、激チャをする、6月の頭といえど日差しは強く、自分が汗っかきで無かったことを今人生で一番ありがたく感じる、ハアハア息をつきながら7時59分、階段をバタバタと今度は駆け上がる、そしてチャイムと同時に
「みんな、おはよう!」「キーンコーンカーンコーン」
「あ……」
なんでおはようございますじゃなくてみんな、おはよう!になったのかは分からない、咄嗟ってそういうものだ。一斉にクラスメートが振り返る
「お、おい…夕刻が喋ったぞ?」
「明日槍の雨でも降るんじゃね?」
「今のうちに鉄の傘沢山作って一儲けしようぜ。」
「夕刻君ってあんな声なんだ、案外イケボー。」
クラスメートが口々に俺宛の言葉を発する、そのうち担任の先生までも
「夕刻、チャイムと同時は遅刻扱いだぞ?…うーん、でも夕刻の声を初めて聞けたな…よし、なんか良いことありそうだから今日は不問にしてやる。アハハハ」
そう言ってHRが始まった。
………………
今日は消しゴムを落としたクラスメートに向かって
「はい、これ、消しゴム落としたよ…」
とだけ会話が出来た。たった一言だがその一言だけでも人と話せたのは嬉しかった。少し軽い足取りで家に帰ると
「よくぞここまで来たな褒めてやろうじゃーないか、しかしお前の冒険もここで終わりなのだぁーよ。」
何かペストマスクを着けたハイルがいた。
「え……?何?何でハイルがここにいるの?」
「ワタシの悪の大魔王ごっこには触れないあたり、ワタシが夢見の手紙を渡したのに何故いるかの方が気になるようだぁーね。」
「いやまぁそうなんだけど呆気に取られてラスボスごっこ全く聞いて無かったわ。」
「むきゅう、ワ、ワタシの渾身の一発芸が全くの無に帰した……まぁいい、今日は君にあるお願いがあって此処に来たんだぁーよ。」
「あ、遠慮しときます、壺はもう間に合っているんで…」
即答
「オイコラワタシの話を怪しい宗教勧誘みたいに扱うんじゃーない!」
「死神から言われた時点で怪しいだろ。」
「まぁそれもそうだが話くらい聞いてくれても良いだろう。変な話では無いさー。」
まぁ話くらいなら良いかと了承してハイルの言葉に耳を傾ける、まぁ言い出したことは何でそうなったのか全く理解出来ないものだった。
「君に、「死神郵便局」でワタシと共に働いて欲しい。」
「あ、遠慮しときます、壺はもう間に合っているんで…」
即答テイク2
「だーかーら、ワタシの話を怪しい宗教勧誘みたいに扱うんじゃーない、此方も忙しくて人手不足なんだぁーよ。ちょっとだけ、ちょっとだけだから…」
「死神と働くのにちょっとのクソもあるか!」
「それもそうだぁーね、んじゃこうしよう…今日の仕事を一日の間、研修生として試してみるのはどうだろうか?嫌なら後で嫌と言えば良い。」
まぁ一回くらいなら良いだろう、仕事とはいえコウともう一度話せる機会をくれたのもハイルだ。
「…まぁそれなら、一回だ。」
「?」
「一回だけって意味だからな。」
「成程、一回だけですか、まぁ一日だけといえど人手が増えるのは良いこと、ややっ!今日は仕事が一件しか無いじゃーないか!」
「楽そうで良いじゃん。早く行こうぜ。」
「うーむ、楽なのはいいが何か君相手だとやりづらいというか、何かあしらわれているというか……まぁ構いません、行きましょう。あと、この仕事は信頼が大事なのでその辺よろしく頼みますよ。」
「はいはい。」
ハイルは一瞬苦い顔をしたがそれも一瞬で
「あ、そうだ、これに着替えて貰いましょうかー。」
パチンっ!
昨日のように目の前が真っ白な光で溢れる……光が収まっておずおずと目を開けると俺はハイルと同じ緋色の着物を着ていた、でも何か色が薄い気がする。
「君はまだ見習いだから橙色の着物だぁーよ。まぁこれで仕事着にも着替えたことだし、あ、ペストマスクも着けたまえ。」
そう言ってハイルは懐からもう一つペストマスクを出す、どうやらこれを着けるのがルールというかマナー?らしい。因みにそんなもの昨日着けて無かっただろと言うと
「昨日は君のスマホから出てくるのにMPを使いすぎたからねぇー。」
と意味不明なことを言っていた。
「さて、そろそろ仕事に行こうか。」
おもむろにハイルが部屋の空に五芒星の魔方陣?みたいなものを描く、そんなもの昨日描いて無かっただろと言うと
「昨日は君のスマホから出てくるのにMPを使いすぎたからねぇー。」
と以下略。
……………………
魔方陣をくぐって移動中、ハイルから色々説明を聞いた。
・今回の仕事、届ける先は中学3年生の少女、「関谷エミ」であること。
・彼女は直近に母を亡くしており、差出人はその母であること。
・今回のように夢見の手紙が亡くなってすぐに差し出される場合、面倒な事になるパターンが多いこと。
「…面倒なパターンって何?」
「まぁ着けば解ることさーぁ。」
そう言ってハイルと移動を終えて関谷家に着く、家のドアには白い紙が貼られていて喪中であることを知らせた。軽い気持ちで研修生を受けた俺だったが、この仕事は人の死がどうしても関わってくる事なのだ、いつも、といってもまだ付き合いは浅いハイルが飄々としているから気が付かなかった。改めて気を引き締めてハイルの指示でチャイムを鳴らす。
ピンポーン
チャイムはその家がまるで喪中であることを全く気にしていないかのように間延びして高らかに鳴り響いた。暫くして
「はあい……」
今回の届け先の関谷エミが出てきた。身長は160くらいで平均より少し高いかって感じ、真っ黒の髪をボブくらいに切っていた…おそらく母親が亡くなったときに切ったのだろう。エミがぼそぼそと尋ねる。
「ど、どなたでしょうか?」
そこでハイルが話す
「ワタシ達は「死神郵便局」の者でございます、この度はお母さんの事、御愁傷様でした。貴方宛の手紙がございましたのでお届けに参りました。」
俺の時のような杜撰さの一切無い、丁寧な挨拶だった。しかし
「死神郵便局?ハハッおふざけなら帰って下さい、それとも、警察呼びますか?」
「おっとこれは失礼、一度帰らせて頂きます。」
「……おふざけなら二度と来ないで。」
……
「やっぱりこうなってしまうよぉーね。最低限喪中が終わるまで時間が経たないと手紙を受け取ってくれない事が多いんだぁーよ。」
「面倒なパターンってこういうことか、気持ちの整理が着くまで話し掛けられませんね、これじゃ。」
張りつめた空気のせいで敬語?になった。
「ハァ、レン君の初仕事がこれとはいやはや…申し訳ない。」
「ハイルのせいじゃないよ、それよりはこうなった時はどうしたら良いのか教えてくれ。」
「うーん、大体こういう時は喪中が終わるまで待つか、届け先が1~50年くらい経つまで待つ、どのみち待つしかないのだぁーよ。」
「1~50って何?振れ幅すごくない?1~5とかならまだ分かる、まだ分かるけどけど50って何だよ、初仕事で高校卒業はおろか人生の半分くらい持ってかれるじゃん!」
「うーん、それはそれでおもs…大変ですねぇー。」
「オイコラ今面白いって言おうとしただろ、第一、ハイルも仕事が出来ないと困るんじゃねぇの?その内寿命来るぞ?」
「あ、それについては我々死神は3000年生きるので問題無いねぇー、大体こうなると一度局に戻って別の仕事を貰うんだぁーよ。」
「我々人間は最長でも100年しか生きれないんだよ!」
「それもそうだぁーね、まぁ今日は一旦家に帰るといい、あ、そうそう。」
そう言ってハイルは夢見の手紙を差し出す。ん?と思っているとハイルが
「この仕事は建前上君の名義だからこれは君が預かっておいてくれ。」
そう言い残してハイルは魔方陣を書いてどっか行った。
「まじかよ……」
ハイルから預かった夢見の手紙はふわふわと浮かんで懐に収まった。これからどうしよう、服着替えられないじゃんと思いながら家に帰った、移動中にハイルから聞いたがこの着物、「死神郵便局制式着物 橙」はその夢見の手紙を受け取る人以外に姿が見えなくなるらしい…これでは何も出来ないではないか。高校行っても誰にも気付いて貰えない…それはいつものことか…
家に着くとハイルの置き手紙があった。
「レン君へ、その着物は脱ぎたくなった時用に「装身解除」と唱えるとコンパクトなバッチになるようにしておいたよ、まぁワタシはそれでMPを使い果たしたも同然だから本局に戻って休むとするよ。」
何かハイルが書いたにしては不自然だと思ったのは「だぁーよ。」とかの「ハイル構文」が無かったからだと気付いた。
「すげぇ、ハイル構文とかいうどうでもいいこと考えるのに5分も使っちまった。やばい。」
「装身、解除。」
しゅるしゅると音を立てて微かな光と共に着物が消えた、そして学校の制服になっていた。
「おお、すげぇ。」
…その後なんか楽しくなって変身したり解除したりを10分間楽しんで俺なにしてんだろう状態になった所でご飯を食べに下に下りた、因みにご飯は納豆ご飯に湯豆腐でした。あとハイル、関屋家に繋がったままの魔方陣が邪魔だから一回消してくれ……
……………………
次の日、学校終わりにバッチを見ているとバッチが微かに光った気がして変身してみた、ハイルが出したものだしなんか突然爆発したりしてもおかしくないと思ったのもある。
「ん?」
懐が光っている、いや、変な意味じゃなくて、何かを訴えかけるような光だった。
「あ……」
それはハイルから受け取った夢見の手紙だった。受け取り人である関屋エミが受け取りを拒否したのもあり、そのまま放ったらかしになっていた……死神には断られた仕事は受け取り人が手紙を受け取れるまでただ待つというだけだがその間、夢見の手紙の中の人が残した思いはずっと待ち続けているのだ、それなのに自分はハイルから貰ったバッチで遊んだりして手紙を出した人の事を考えていなかった…手紙を受け取れるまで待つのは手紙を出した人に対しての信頼を無下にしているようなものじゃないか、ハイルもこの仕事は信頼が大事と言っていた、そりゃあハイルも忙しいからこういう仕事は後回しになるのは解るが今ハイルがいないのなら俺がこの仕事をやるべきじゃないのか、そう思うと居ても経ってもいられず俺はペストマスクを着けてハイルが残した魔方陣に入っていった。
ピンポーン
チャイムは相変わらず緊張感の無い間延びした音で鳴り響くが今の俺は少しだけ違う、今の俺は死神なのだ、この夢見の手紙を差し出す事だけが今考えるべき事……そう自己暗示をしながら関屋エミが出てくるのを待つ。
「はい…またあなたですか?」
「話を、聞いてくれませんか……少しでいいので。」
「おふざけなら帰って下さいと言いましたよね?変な」
微かだが確かにこちらを拒絶する言葉に勢いを削がれるが挫けない。
「おふざけじゃ無いです、それにこの仮面もマナー程度の物なので…」
信用を得るにはと思いマスクを外す、ハイル、これ着けるの逆効果なんじゃないか、後で交渉してみよう。さて関屋エミの反応は?
「別に帰ってくれるならそんな物外さなくてもいいです、母が死んでからクラスでもみんなから腫れ物のように扱われているのに、こんな嫌がらせまで受けないといけないのはあなたは可哀想だとは思わないんですか……」
あぁだめだ全く効果が無い…どうしたものか……その時懐の光を思い出した…そうだこれを受け取って貰わないと帰れないのだ…もはや悲壮とこちらに対する積怒で顔を歪ませた関屋エミに向き直る。
「エミさん、これを受け取ってくれませんか…これは夢見の手紙といってあなたのお母さんがあなたに残した言葉です。」
「お母さんが?」
途端に関屋エミの顔から悲壮と積怒が消える、代わりに困惑気味の様子になった。
「はい、どうやらお母さんは君に伝えたい事があったみたいです…私事ですが説明が先日は足りていませんでした……私達も仕事なので、手際良く仕事をこなす事を考えていて、届け先であるあなたへの配慮も足りていませんでした、本当にすいません。」
「いえ、私こそすいません、昨日は突然あなた達が来て死神だとか色々矢継ぎ早に言われたものでよく理解できていなかったかもしれません。」
突然二人ともよそよそしい態度になったところで
「おやおや、どうやら手紙を渡す事が出来たようだぁーね、流石ワタシの見込んだ人材だぁーよ。」
そうチャイムに負けないほどの間延びした声でハイルが現れた。
「ハイル…MP回復?のために本局に戻ったんじゃ……」
「それについては回復済みだぁーよ、それにここで話していたら関屋さんが混乱してしまうよ。」
「すいません、関屋さん…それでは説明をさせていただきます、それは夢見の手紙といってあなたへの故人からのメッセージです。その夢見の手紙からメッセージを見るためにはそれに触れて故人…今回はお母さんの事を思い浮かべて下さい、そうすればお母さんからの最期の言葉を聞く事が出来ます。」
知らぬ間に敬語?もどきになっていたが気にせず説明を続けた。
「な、成程…それじゃ初めてもいいですか?」
「もちろん。」
ハイルが了承する。それと同時にエミが夢見の手紙に手を触れて目を閉じる。その時着物のせいかは解らないが関屋エミに向けた記憶、母からの最期の言葉を共に聞いた。
……………………
私は夢見の手紙?に触れた瞬間、暖かいような…それはまるで母親のお腹の中のようで……そこにはほんの一週間前に死んだ母がいた。
「ごめんね……」
お母さんは口を開いてまず謝罪の言葉を発した。
「お母さんね、昔…それはもう小さな頃からガンだったの、お父さんと結婚した時も自分があまり長く生きられないことも知ってた、だからエミが生まれた時お母さんはお父さんとエミを幸せにするって誓ったの。」
お母さん
そう言葉を掛けようとしてもなぜか憚られた気がして言葉を飲み込んだ。
「お母さん…本当はエミが5才の時に死んでしまうとお医者さんから言われたの、でもお母さんがんばった。でもお母さんはあなたに幸せになって貰うために勉強、勉強って、それがあなたの幸せに繋がるのは分かってたけどそのせいでエミの性格がちょっと歪んだのはごめんね。」
お母さんはたまに冗談を交えつつ昔話を続けた…さっきは憚らかれたような気がしたが、いつの間にか私はお母さんとつられるように話し始めていた。
「小さい頃一緒に初めてカラオケに行った時はエミが7才の時だっけ?初めて入る空間でエミは嫌だ嫌だと言っていたのに1時間もかからずに楽しそうに歌い始めたっけ…お母さんも楽しかったねぇ。」
「あの時お母さん「エミが歌う歌は最近の曲で全く分からない」って言ってたじゃん。でもそれが楽しくて一時期はアイドルになりたい時期もあったのよ。」
「エミには勉強ばっかりさせてきたから頭がよかったねぇ、今年中3でしょ、入学式には行けて嬉しかったわねぇ、小学生の頃からテストで100点を取ってきては嬉しそうに見せに来たっけ?でも学年が上がるにつれて勉強はエミの負担…ストレスになってしまったね、エミには頭のいい高校に上がって欲しくて…あなたのやりたいことも聞かずにごめんね……」
「ううん…勉強はどの道大事な事だからいいの、それにお母さんに満点のテストを持っていくの楽しみだったよ。その度にお母さん喜んで誉めてくれて、私嬉しかった。まぁ中学入ってからは満点がなかなか取れなくなって悲しかったけど逆にもっと勉強しなきゃって…そう思えたわ。」
お母さんと会ってないのはまだ一週間なのにまるで10年ぶりに会ったようだった。いつも勉強、勉強って口を酸っぱくしるお母さんに分かってるよ、今からするからどっか行って、とか色々言ってしまって最期までくだらないケンカしか出来なかった。自分ではそれが反抗期として当たり前なんだって…そう思ってたけど違う……どこかに行っていいお母さんなんていない。そう後悔してくだらない事で反抗ばっかりしてごめんなさい、そう謝ったがお母さんは笑顔で私を許してくれた……
……………………
「あら、もうそろそろお母さん…行かないといけないわ……まだまだ話したいのに。」
「え、待って……」
しかし私もこの時間が永遠ではない事は分かりきっている。そんな悲しみに涙を浮かべる私にお母さんは囁くように言った。
「エミ、本当に早く死んでしまってごめんなさいね…もう少しそばで成長を見守っていたかったけど…エミならやっていけるわ、お母さんは上からまたあなたを見守って行くからね、あと…お母さんはあなたを少し厳しく育て過ぎたかも知れないわ…これからは好きな事を存分に楽しみなさい。但し、並みの学力は持ってなさいよ。エミはこれから高校もあるし、青春を楽しみなさい。心行くまで……」
「お母さん…ありがとう。でも私……勉強続けるよ。」
「それはなんで?」
お母さんは首をかしげる。
「私は今まで無駄にできる勉強を活かした夢とか無かったけど、今私…夢が出来たの。」
「なぁに?」
「私……医者になる。どんな病気も今は治しようがないものも私がそんな人達を救えるようにこれからも勉強沢山するよ。私みたいに悲しい気持ちになって欲しくないから……」
「それはとてもいい夢ね、エミ…これなら安心して見守れそうね……あと最期に…エミ、あなたの名前の由来は…まぁ少し安直かも知れないけど沢山笑って欲しいからなのよ……そりゃ急に死んじゃったお母さんが悪いけど泣き顔なんてしてたらエミの可愛い顔が台無しよ。墓参りはたまにでいいから笑いなさい。」
お母さんはそう言って微笑んだ。
「うん、安直なんかじゃないよ。エミって名前を付けてくれてありがとう…私……沢山笑って患者さんも笑顔に出来る素敵なお医者さんになるよ。本当にありがとう。」
「うふふ、そう言ってくれるとお母さんも嬉しいわ。それじゃ……エミ…元気でやるのよ。」
「うん!」
スゥと音を立てて現実に戻る、目の前には死神さん達がいた。
「さっきは本当にすいませんでした…そしてありがとうございます。」
「いえいえ、こうして一つ貴女も前に進んでくれると私達もやりがいがあるというものです。それでは私達はこれにて。」
「はい、ありがとうございました。」
私はもう泣かない、だって最高のお母さんを持ったから…これから医者になるまでに沢山の…数えきれない程の苦労があるだろう、でも私は挫けない、そんな姿は私の思い描くお医者さんじゃ無いから。さて、勉強に戻ろう…笑顔溢れる未来のために。
……………………
帰り道俺はハイルに尋ねた、
「ねぇハイル、あぁやって届け先が受け取ってくれない時は夢見の手紙を差し出せば解決するんじゃないの?」
「レン君、それは死神のマナー違反だぁーよ。」
「ど、どういうこと?」
「今回みたいに少しでも冷静さが残っているのならそれでも良いかもしれないね、でも心の準備が整っていない状態で夢見の手紙を渡しても上手くその人をイメージ出来ずにその人の最期の言葉を聞く…夢見の扉が開かない事が多いんだぁーよ。それは夢見の手紙をいつまでも放ったらかしにしているよりも遥かに悪い事なんだぁーよ。」
「な、なるほど…無理して渡しても駄目なのか…ごめんなさい。」
「いやいや、今回は知らなかったしそれよりもワタシは君がこの仕事に責任を持とうとしてくれた事を評価したいんだぁーよ。よくぞって感じだぁーよ、本当にね。」
「ハイル……」
「なんでしょうか?」
「俺…この仕事、続けたい!お願いします!」
俺は人とはあまり喋られないから…せめて人と人とを繋ぐこの仕事がしたい。理屈は滅茶苦茶かも知れないがそう思ったのだ。
「……いいでしょう!これで君も改めて死神郵便局の仲間、ですねぇー。これからもワタシの仕事の手伝い、任せましたよ。」
「ありがとうハイル。俺がんばるよ、ハイルの手伝い。」
……………………
こうして俺は晴れて死神になった。新学期は始まってもう2ヶ月も経って6月、既に暑い日がぽつぽつと出てきはじめているが今日の夕日はなんだか涼しげだった。
この前書き、後書きのスペースを使って、今度登場人物のプチ情報でも載せようかと検討しておきます。(伏線?など)