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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
おまけの章 それからの二人
62/65

60 明けまして初めまして

カウコン明け、新年二日。


りこさんのマンションから一本先の道で車を停めていると、すぐに彼女がやってきた。

コインパーキングはあるが彼女をピックアップするだけなので、迷惑にならない道で待つことになる。

「明けましておめでとう」

りこさんは昨日の電話でも言ったねと笑いながら助手席に座る。

「おめでとう。何度でも言って、会えて嬉しいから」

今日は荷物が多いな。きっとお土産だろう。後部座席に置いてもらって出発だ。


「そうそう、お姉さんから新年の挨拶頂いたよ?まさか、こんなに頻繁にやり取りすると思ってなかったよ」

「スマホに?」

「うん、年賀状じゃなくてメッセージ。私からご連絡差し上げるべきなのに、申し訳なくて。もちろん、すぐに返信したよ」

姉さん、りこさんのことを随分と気に入ってたからな。

「俺には何年も新年の挨拶なんてこないが」

そうなの?って驚いたり、サヤさんって呼ぶ約束だった。ってぶつぶつ小声で練習したり。

隣にいるのが不思議な俺の彼女は相変わらず可愛い。

りこさんが俺の姉に会ったのはクリスマス当日。

年末の音楽特番とカウコンのリハの丁度隙間に時間が取れた。

りこさんにはEGGのクリスマスがあったが、小塚さんに任せてあるからと、現場入りせずにすんだのだ。


両親、姉と婚約者の四人が待ち構えた高級レストランの個室。

これが親族の顔合わせってやつなのだろうか。まぁ、姉の結納は秋に終わっているのだが。

俺の恋人宣言を、四人はドームの関係者席で見ていたらしい。

「来てるよって教えたら、光稀くん、言うの止めちゃいそうだから」

小泉さんはあえて俺にナイショで席を用意した。

婚約したタイミングで結納に顔を出さなかった弟を紹介する。そんな名目で見に来るとか、ちょっと考えたら思いつきそうなのに。

「まぁ。なんて可愛いの。ふふ、妹ができたわ」

ほんわかした姉の影響下にある部屋は、和やかな雰囲気だった。

「ちょっ、妹って」

まだ、俺たちやっと本格的に付き合い始めたばかりなのに。

「あら、いいじゃい。その気がなかったら、連れてこないでしょう?」

くすくす笑いながら婚約者さんに何か耳打ちしてるし。

両親も俺が好きになりそうな娘さんだって。それ、どんなんだよ。

「はっ、初めまして。あ、あの」

りこさんは声がうわずってる。

けれどそれぐらいは大丈夫。

すぐに打ち解けられるだろう。


俺がカウントダウンに参加するようになって、正月家族で集まることはなくなった。

そのため、俺の家族とは年内に会い、年明けはりこさんの家族と過ごすことになる。


「都内は道すいてたけど、こっちはちょっと渋滞してる、いつも?」

「いつもは電車だからよくは。初詣で有名な神社がいくつかあるからそれで混んでるのかな」

そうだった。りこさん免許ないんだって言ってたな。

初めての道はナビ任せ。ラジオで渋滞情報を拾う。

今から向う伯父さんの家と、りこさんの実家はそんなに遠くない距離。

実家はマンションで、みんなで集まる広さがないというから、俺も、ご実家ではなく親戚の集りに顔を出すことになった。

りこさんが、言うには普段の仕事も実家から通えなくはない距離だが、時間が不規則なため、就職が決まってすぐに一人暮らしを始めたそうだ。

ってことは、学生時代はこの距離を通ってたのか。

ずっと都民の俺からしたら、結構遠いんだけど、りこさん的には近いのかな。

今まで知らなかったこと、考えもしなかったことが、どんどん二人の共通になる。


共通認識といえば。

これから会うりこさんの親戚について、再確認しておかなくては。


まず、伯父さんと伯母さん。

「着付けの先生してるから部屋が広いんだっけ?」

「え?あぁ、今は駅前のお教室があるけど、師範になってすぐは家でも教えてたみたい」

資格を取った時期と改築した時期が同じぐらいだとか。

師範の先生というと、ビシッとしてて、キリッとしてそう。

「長男が卓也さん、お嫁さんが…」

「真美さん」

そうそう。

「次男が郁人さん。サヅの人だよね」

別にテストがあるわけでもないが、事前に名前を聞いておいた。

これだけ一気に集まるとか、まるでホームドラマだ。

りこさんの両親と俺も入れて総勢九人。

「卓ちゃんのとこ、二人目も産まれたばかりで、今度は男の子なんだって」

「二人目?じゃぁ…十一人?」

それだけいれば、大家族モノ。毎回トラブルが巻き起こり、長台詞があって、お涙ちょうだいもしかり。

「あ、そこ。道の広くなったとこに停めてって」

ついた。

二台分の駐車場がある、大きな一軒家。

都内住みの俺からしたら広い家だが、このあたりでは普通なのかもしれない。

今日は来客が多いため、予め町内会に話を通して路駐する。

いや、許可とってるから路駐って言わないか?

三が日は帰省が多いね。ってりこさんが言うから周りを気にしてみると、確かに、駐車場に収まりきらない車が何台かあった。


りこさんのご両親と親戚は、普通だった。あっけないぐらい。

俺が勝手に構えすぎていたのだろう。

「ごめんなさいね、テーブル二つになっちゃって、そこ、座って」

「はい、すみません。俺はどこでも」

襖を取っ払って二間続きにした居間はこの人数で食卓を囲むのに、狭いことはない。

こたつとちゃぶ台とを使って、十分な広さだ。

「こたつ、久しぶりです。和みますね」

「あら、そうなの?足伸ばしてね」

お邪魔してすぐ、挨拶と紹介をしたのだが、もうすっかり部屋の雰囲気に馴染んでしまった。

もっと、こう、皆さんはアイドルを相手に緊張したりとかないのだろうか。

俺が言うのも何だが、娘の彼氏と顔を合わせても、お父さんはなんてことのない様子。

伯父さんの家だからか、主導権は初江伯母さんだし。

「もしかしてサインくださいとか、言ったほうが良かった?」

郁人さんが俺の隣に入ってくる。足崩していいって言ったろー?とか言いながら。

「光稀くんの取皿これ、お箸きてる?叔父さん、ノンアルこっちにも」

テキパキと乾杯の準備を進めてくれる。

「コップきてます、お皿も。大丈夫です」

郁人さんもノンアルか。

「あとで母親から買い物に車出せとか言われそうだからね、俺も酒は飲めないわけ」

電車で帰省してるのにお預けとかないよな?って。

「それと、顔見知りが隣にいた方が落ち着くだろ?りんりんちゃんの父親との盾になってやるよ」

そう、呟いてくれた。

あぁ、やっぱり良い人だ。が。

りんりんちゃん?

「凛々子ちゃんは飲むでしょ?いいじゃない乾杯ぐらいは」

あ、みんなは名前呼びか。

どう聞きだしたらいいか迷ってるうちに食事は進む。

おせち料理に刺し身。

いわゆる日本の正月だ。


「すみません、やっと手が空きました」

「真美ちゃんはこっち座って。今のうちに食べちゃいなさい。また、泣き出す前に」

おむつ替えだとか寝かしつけでバタバタしていたお嫁さんが遅れてやっと席につく。

なんか、視線感じるな。

「なにか?」

「いえ。あの。やっと落ち着いて見れました。でも、サイン頂いたりしたらいけないんですよね?握手も」

なんだ。

「大丈夫です、サインぐらいしますよ。あまり広めなければ」

知り合いの分まで何枚も。と言われたら困るけれど、正月に招かれて書きませんなんて言わない。

なんか、やっと、普通の反応だ。

そうだよな、自分で言うのもなんだが、俺、国民的アイドルとか言われてるし。

倉沢家は俺を芸能人扱いしなさすぎるんだ。


そういや、逆に俺の親戚はサインをねだってきたっけ。

デビュー直前の頃から、会うたびに色紙を何枚も、何枚も。

それを嫌がった姉がコウくんは仕事があるって言えば集まりに顔を出さなくても済むんだよ。とか言い始めて。

仕事が忙しいのも本当だけど、親戚とはすっかり疎遠になったな。

姉の結婚式で顔を合わせることになるが、顔を思い出せるだろうか。

「あら、真美ちゃん。サインって言っても色紙なんてないわよ」

「そうですよね。すみません急に言い出した私が」

「凛々子、あんたなにか持ってないの?」

「ええーないよ。私だってもらってないのに」

色紙、ないのか。

俺が今日来るって何日も前から知らせてあったはずなのに。

「あ、ノートとか。なんにでもします」

りこさんにもサインしてあげたら喜ぶのだろうか。

結局、次の機会には色紙を用意しておくことになって、お嫁さんとは握手をした。

そしたら、全員とするはめに。

おざなりで、ついでにする握手なんて初めてだ。

端から順番に、そしてりこさんのお父さんとも、向かい合う。

背が高くて若い頃はハンサムだったと思えるような人。

「いやぁ、本当に藤枝光稀なんだなぁ。ポスターにそっくりだよ」

あれ、気さくだ。

てっきり娘はやらん!的な展開かと身構えていたのに。

「やあね、あなた。本人よ」

「そうか?ポスターの方が先に会ってるからなぁ」

そっか、りこさんの部屋なら俺のポスターぐらい貼ってあるよな。でも先って。

「こう、ドアップで目が合うからな。あっち見てもこっち見ても。凛々子の部屋はびっくりさせられるんだが。君は普通で。構えてたのが無駄に終わってよかったよ」

「ほんと、飾ってある写真みたいにキラキラしてるんじゃないかって、母さんも気負いすぎてた。何度、光稀くんを片そうと思ったか、あ、写真のほうね。捨てなくてよかったわ」

「えー、捨てるとかなに?私の部屋じゃん」

「凛々子の部屋、荷物多いのよ。光稀くんを捨てられたくなったら、たまには帰ってきて掃除しなさい」

あぁ、そっか。

アイドルの俺をよく知ってるからこそ、かえってこんなふうに接してるのか。

はは、ポスターにそっくりとか、俺が普通とか。なんだよそれ。


突然、娘の彼氏はアイドルです。

なんて言われて、本当だって証拠にご対面とか。

なのに、こんなに明るく話してくれる。有り難い。


「光稀くんも今は素だからこうだけど、仕事として会うと、オーラすげぇよ」

郁人さんが智史と並んでると更に眩しくなるとか言い出して、そのままの流れでカウントダウンの録画を見ることになった。

…流れで見るものなのだろうか。

「今年は俺も関係者で裏にいたけどF2とは会えなかったね。なんか警備凄いっていうか、近づきにくくて」

「そうなんですか?すみません。郁人さんなら声かけてもらえれば会ったのに」

その声かけができない雰囲気だったから、会えなかったのに。俺なにいってんだか。

「んー、わかった。今度は兄だとか言って入り込むわ」

兄ですか。

普段からりこさんの兄を名乗っているからか、ご両親も伯父さん伯母さんも気にしていない様子。

「はい。では兄さんで」

「ちょっ、光稀くん。そこ認めたらだめだよ。兄じゃないって突っ込むとこだから!」

りこさんが慌てて、飲み物こぼしそうになるし。

兄でもなんでも聞き飽きたって親たちに言われた郁人さんが、カウコン見ながらTIMEの宣伝はじめて、俺がF2の解説する羽目になった。

なんかもう、ぐちゃぐちゃだな。

けど、すげぇ楽しい。

昼食からずっとダラダラしてると夕飯に突入するとか、初めてかも。


「いつもこんな感じなの?」

帰りの車中。

そういや、郁人さんやりこさんのお父さんと話してばかりで、りこさんとはほとんど会話がなかったな。

「ほんとごめんね。くだらない話で盛り上がったり、どうでもいいことを」

「うん、賑やかだった。りこさんの家族って感じ」

「去年は私がテレビの横でカウコン解説を、あ、衣装のね?したんだよ」

へえ、それ聞いてみたかった。楽しそう。

今日は施設にいる祖母を一時帰宅させる案もあったが、寒い時期に環境が変わると負担になるだろうからと見送ったらしい。

なら、今度会いに行こうか。

「今日は、ありがと。家族以外の親戚とか、俺、避けてたからさ。まさかこんなに楽しいとは」

「ごめん、なんか失礼なことばかり。ちゃんと言っておくね」

「違うよ、本当に楽しかったから。俺、会ったこともない町内会の役員の人?そんな話題であんなに笑ったのとか初めてだし」

だから、りこさんと家族になるのもいいんじゃないかって。

そんな考えもよぎったけど、やっとこうして出かけられるようになったばりだから。

それを口に出すのはまだ先だ。

TIMEは年齢で労基法に引っかかるので、カウコンに出れるのは一人か二人です。

次回は観覧車デート。

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