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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
一章 恋心は内密に
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6 打ち合わせ

私が打ち合わせに向かうときは荷物が多い。生地見本とか素材のサンプルが必要だからだ。実際に触ってみないと縫製の見通しが立たないものも多い。

また、写真と上がってきた実物とで色合いが違うことはよくある。

けれど今日に限ってはタブレットと薄い書面の入った茶封筒のみ。

「失礼します。倉沢です」

指定された会議室の扉をノックして入ると、それほど広くない部屋にはF2の二人と彼らの担当マネージャーがいた。

予定時間に余裕を持って来たはずだが、すでに話し合いが進んでいるような雰囲気だ。

それに、今日は智史くんの用件だけじゃなかったっけ?

「すみません、私遅れてしまいましたか?」

「あ、違う違う。秋からのツアーの話があって。先にちょっと話してた」

ドア近くに座っているマネージャーの小泉さんがすかさずフォローしてくれたけど、それはそれで私、入ってきちゃって大丈夫?聞こえてなかったけど聞いちゃいけない話?

出直そうか立ち尽くしていると声をかけられた。

「りこさん、こっち座ったって。俺との話すましてしまおか?」

「あ、はい、失礼します」

…居ていいのか。

智史くんから呼ばれて奥の席へ。光稀くんは手持ち無沙汰といった表情でスマホで何かを検索している模様。彼の後ろを通るとき会釈をしたら、ちらっと私を見て、会釈をかえしてくれる。

部屋の奥って上座じゃないっけ?私が座っていいのかな。

「えっと、もう少し扉側でも…」

ここまで来て今更だけど、念のため遠慮してみる。

「いいから、気にしないで。僕、電話きたらすぐ廊下出たくてドア側だし、智史がそこって言ったなら座っちゃって」

小泉さんが言うならいいのか。

フレンドリーな社風ではあっても、社員より所属アイドルの方が立場は上で、私なんか社内でも下っ端の方だ。


本日の打ち合わせは『藤原智史ソロプロジェクト、サト展』について。

F2がグループではなく、ユニットと呼ばれる由縁は、個々の活動が盛んだから。

それぞれがソロアーティストとして表現したいことをする。

その経験がユニットへ戻った時に活かされる。それが二人のスタイル。

『解散はしない』

二人は明言している。

お互いに個人名義で初めてCDを出したときに、不仲説や解散が噂されたからだ。

揺るぎないホームがあるからこそ、自由に活動できるのだと。


「こちらが先方からの返事で、問題なく利用可能とのことです」

私は智史くんが見やすいように、封筒から書面を出す。

「思ったより早い返事やったね、ありがとな」

光稀くんが舞台というソロ活動をしていた分、今年の智史くんは展示会を開催する。絵を描く趣味を活かしてF2のCDジャケットを何度か手がけた。

それ以外にも作詞をしたり、最近は服のリメイクをしてみたりと、ものづくりが好きな彼は、プライベートでちょこちょこ作った作品をファンに見てもらうのはどうか、と事務所に打診してきた。

アイドルの企画展は珍しい。

前例のない活動に戸惑いの意見が出たものの、コンサートでは訪れない都市でも開催することで、より多くのファンに楽しんでもらえるのではないかと許可が下りた。

デパートの催し物会場などで行われるので、ファンでなくともふらっと立ち寄って改めて、藤原智史に興味を持ってもらえればいい。


個人的には、本人に会えない展示にわざわざ行くのはどうかと思う。でも、私物が見れるなら…やっぱ行っちゃうかな。

一番の推しは光稀くんで、殿堂入りしてるぐらい好きだけど、F2も箱推しだからね。

何度か目にしたことのあるTシャツは、大胆な筆運びのウサギがインパクトあるんだけど、色数が控えめだからか、繊細さもあってじっくり見ていたい図案なんだよね。あれ、アクリル絵の具なのかな?近くで見たい。

うん、時間作って仕事として行ってみようかな。


「元々、展示のみで販売されるわけではないので了承されると思っていましたが、正式な書面を頂けると安心しますね」

智史くんがリメイクに使用した生地にライセンスが付いていた。

入場料は生地の販売ではないが、収入は得てしまう。展示はやめておいたほうが?と、相談を受けていた。

モダンな花柄やエスニック風の幾何学模様など、特徴的なシリーズをブランド化しているもので、大胆な色使いが目を引く生地だ。

普段から取引のあるテキスタイル商社だったので、話を通すことはすぐにできた。

向こうだって、禁止するより『藤原智史も使用するシリーズ』として付加価値を付けたほうが得だろう。

「展示品の事務処理はりこさんの管轄やないのに悪かったなぁ思う、ほんまありがとう」

「いえ、生地の扱いはこちらの仕事ですよ、遠慮なく」

あとは衣装展示の注意点や運搬日程など既に連絡のきていた事を再確認して終わる。


退席しようとすると光稀くんから呼び止められた。

「それじゃあ、次はこれなんだけど」

一枚のデザイン画、先日うちの班にも配られてるF2の衣装。

「伺ってます、ファーの色ですよね?」

「さすが、もう動いてるんだ?」

光稀くんが少し身を乗り出す。普段ファッションにこだわるのは智史くんなんだけど、この付属に関しては光稀くんのアイデアなのかな。

今、手元に資料ないこと話しかけないでぇ、と思ってることは顔に出さずに余裕ぶってみる。

「指定された色だと特注で染めることになりますね」

「特注?それは、…頼めばできるってこと?」

「はい、多々あることなのでそのへんはご心配なく。それより本体の生地が決まっていないので、色合わせができないんですよ」

候補は上がってるのに、最終結論がまだだった。あとは使用するファーの分量が知りたい。

今の段階では手配するための情報が少ないのだが、そんなことをここで言う必要はないだろう。

「デザイン班と連携とって、対応しておきます」

「助かるよ、りこさんに任せるから進めといて」

任されてしまった…へへ。へへへ。

光稀くんと目が合った。ふふ。


さて、ツアーに向けての話し合いが少しづつ出ている。

アルバム作成も平行して行われる。

プロジェクトチームでの会議が後日あるので、そこまでに光稀くんの期待に応えるべく張り切るしかないよね!

前回に続けようとしたのですが長くなるので独立させたら、ドキドキの無い普通の打ち合わせに。これが彼らの日常なんでしょうね。

次回はF2のテレビ番組の模様をお届け。

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